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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
さわがしい なつ
25/51

19.れしーぶとすあたーっく

「遠峰さん、バレー頑張って!」


 体育館でのかったるい開会式が終わり、みんなそれぞれ試合の場所へと散り散りになる中、我妻君が応援してくれた。席が隣の彼とは、大分打ち解けた。気さくに話しかけてくれるし。仲良くしてもらってます、はい。


「うん、ありがと。琴美もいるし、優勝の賞状勝ち取ってくるね! 我妻君はサッカーだったよね。頑張ってね!」


 応援を返したら、何故か我妻君は「覚えててくれたんだ……」と呟いた。クラスメイトだもの、覚えているよ。我妻君だって私が何に出場するか覚えていただろうに。まあ、兄ちゃんたちと当たるかもしれない彼らを不憫に思ったことも多分に影響しているが。

 頑張ってくると手を振って去っていった我妻君を、少し心配しながら見送った。


「おい、今の誰だ?」


「うわっ、びっくりしたー! ちょっと突然話しかけるのやめてってば。」


 急に後ろから肩に手を回してきたのは、いつの間に寄ってきたのか兄ちゃんだった。繰り出したエルボーは、今回は防がれてしまった。兄ちゃんに腕を掴まれながら、私は後ろを振り返る。身長差で見上げなければならないのが悔しい。兄ちゃんの後ろには、正悟先輩もいた。敵同士の筈なのに、一緒に行動していて良いのかな?


「隣の席の我妻君。」


 簡潔に伝えると、兄ちゃんと正悟先輩はジロリと琴美を睨んだ。なんでそこで琴美を睨む。琴美は肩を竦めた。


「クラスメイトとの会話を認めないほど 、私は狭い人間じゃないですよ。あ、でもサッカーなんで宜しくお願いします。」


「分かった。」


 え、なに? 宜しくってどういうこと? 手加減してよね、ってことで合ってる? なんで三人とも神妙な顔で肯きあってるの??



 ■ ■ ■



「琴美っ」


「ハイッ」


 バレーの試合が始まり、結構前にやった体育の授業を思い出しながら、ボールを上げて行く。私がトスを上げて、琴美がアタックする。そんな型は、結構序盤に出来た。

 運動神経はそんなに良くないけど、体を動かすのは結構好きだ。小学生の時はよく兄ちゃんたちに連れられて、駆け回ってたし。

 それにしても、なんだか私の所ばかり狙われてないか……?

 女の体になって、今の身長は一五七センチ。女子としては高くも無く低くも無くといった所だが、チームの他の子は明らかなる運動部の様子だから、それを避けて私を狙ってくるのかもしれない。でも私のせいで負けたなんてことになったら、皆に顔向けできないから頑張るよ! 琴美だけじゃなく、皆もサポートしてくれるしね。

 ひたすらにボールを追っていたら、なんとか初戦は勝てました。いえい。



 サッカーの試合場所に行くと、そこには女子の山、山、山。なんとか球技大会用に建てられた掲示板の前に出ると、うちのクラスがもう負けていた。対戦相手は、どうやら正悟先輩のクラスだったようだ。なんて運の無い。


「負けちゃったね」


「仕方無いよ。先輩も本気出しただろうし」


「それにしたって大人気なーい」


 その点差は6:0。勿論、0がうちのクラスである。一試合十五分間という変則ルールにも関わらず、六点も取っているのも驚愕だ。


「勝負事は全力投球が基本だよ、いっちゃん」


「そりゃそうだけど……」


 あれだけやる気だった我妻君が不憫だと思うのだ。そう琴美に言ったら、壁を越えなきゃ成長できないでしょ、と言われた。かっこいい!


「まあ、越えさせるわけが無いけど」


「ん? なんか言った?」


「んーん、なんでもなーい。ほら、次健先輩の試合みたいだよ」


 キャーっという黄色い声に、健くーん頑張ってー! という声援が混じる。耳が痛む程の声量だ。


「これじゃあ応援できないよ……」


「そうだねえ」


 応援しなきゃ小言を食らうだろうけど、この状況で何か言ったところで聞こえる筈がない。来たということにして体育館に戻ってしまおうか。そう考えた時、見覚えのある顔が視界に入った。


「見つけたー!」


 その人は、いつぞや兄ちゃんの弁当を届けに行った時に、私を門前払いした先輩だった。何故か笑顔で急接近して来るのだが、初っぱなの印象が印象だっただけに腰が引けてしまう。


「良かった、来てくれたんだね!」


「な、何でしょう?」


「あー、いきなりごめん。えっと、私は君のお兄さんと同じクラスの笹木です。先日はよく話も聞かず追い返してすみませんでした!」


「はあ……。それは全然気にしてないです……。」


 バッと勢い良く頭を下げた笹木先輩に、戸惑いながらもそう答えた。兄ちゃんの為を思っての行動だったようだし、ちょっと怖かったけど長々と気にすることでも無い。


「やだー、妹ちゃん心広いー。」


 なぜかキラキラとした目で見つめられ、居心地が悪い。一気にこの人の印象が変わってしまった。


「えっと……、それで私に何かご用でしょうか?」


「そうそう! 健くんに頼まれててね、こっちこっち」


 腕を引っ張られて、ぐいぐいと人壁の中を進んでいく。この人すごい度胸だな。たまに睨んでくる人もいるけど、なぜか笹木先輩を見ると顔を真っ青にして目を背けてた。うーん、もしかしたら彼女も笹木先輩に撃退された一人なのかもしれない。

 やっと開けた場所に出たと思ったら、試合観戦のベストポジションに『勝つぞ!』『3の3』と書かれたうちわを持った人たちが、数名集まっていた。三年三組は兄ちゃんのいるクラスである。自分の試合の無い人が応援に集まったのだろう。応援に小道具を使うのを初めて見た。来年は作ってみるのも良いかもしれない。


「妹ちゃんもここで応援してね!」


「え、ええ!?」


 どう考えても私部外者じゃないですか! 何故か皆さんにこやかに挨拶してくれますけど、違うじゃないですか! なんでうちわ渡してくるんですか!


「健くーん、妹ちゃん連れてきたよー!」


「なに! 良くやった笹木!」


 笹木先輩がコートに声をかけると、兄ちゃんがすっ飛んできた。今まさに試合始まろうとしてましたけど、良いんですか兄ちゃん。


「遅いよ。試合始まる前に会えないかと思っただろう?」


「人垣を越えられなかったんだよ……。ほら、試合始まっちゃうよ? ……兄ちゃん、頑張って」


「うん、勝ってくる」


 いつも応援なんかし慣れているのに、なんだか照れくさい。ちょっと小さい声になってしまったが、兄ちゃんは笑顔でコートに戻った。


 その試合の結果が勝ちであったことは、言うまでも無い。

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