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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
めまぐるしい はる
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22/51

番外・その時の彼ら5

16話、喜成視点。

 最近、樹との距離が遠い、気がする。

 原因は分かっている。俺が尻込みしているせいだ。

 樹が女になって、俺は内心喜んだが、同時にどうしようもないくらい戸惑った。

 大好きな樹。叶わぬ気持は告げずに、このまま墓まで持っていこうとまで思えたのは、樹が男だったからだ。だからなんとか我慢できたし、親友として接していられた。

 でも女に変わってしまった。

 世間的に、恋人という立場になり得る。その事実に、俺の中で押さえこんでいたものが一気に溢れだしてしまった。親友という立場以上を今までより強く求めている自分がいる。

 しかし、樹の中身は変わっていないだろう。

 女になるという奇妙な出来事によって、樹は琴美への失恋から遠ざかった。けれどそれは遠ざかっただけではないのか。何かきっかけがあればそれが再燃するのではないか。そういった不安もあれば、樹が俺を恋愛対象として認識してくれるわけがないという諦観もある。

 でも、樹が誰かの恋人になるのだけは、どうしても許せなかった。諦めきれなかった。


 恋愛対象として認識してもらえないなら、認識してもらえるように頑張ろう。

 俺は決意した。




 土曜の部活終り、俺は意を決して樹を映画に誘うことにした。


「なあ、樹。この後暇か?」


「暇だよ? なに? どっか行く?」


 保身に回ってしまう発言に、自分で自分が嫌になる。しかし、樹がのってきてくれたのが嬉しかった。

 緊張と断られてしまうかもしれない不安から、顔が強張る。吊革をぎゅっと握った。


「久しぶりに映画でも見に行かないか? もうそろそろ終わるだろ。」


 そう言えば、きっと通じる。何せ、俺たちが好きな映画の二年ぶりのシリーズ最新作だ。

 案の定ピンと来たらしく、目を輝かせながらも真面目な顔で樹は肯いた。


「行こう。」


 内心、かなり嬉しかった。

 樹にとってはただ俺と映画を見に行く、それだけだろうが、俺にとってはデートである。

 なんだかさらに緊張してきた。






「はー、滅茶苦茶面白かったねー!」


「ああ。」


 映画館を出てのんびり歩きながら、樹は興奮冷めやらないまま映画の感想をぽんぽんと挙げる。

 もちろん映画も面白かった。

 でも映画中、表情がくるくる変わる樹が可愛かった。

 暗い中、映画に夢中だった樹は、俺が樹を盗み見ていたことを知らないだろう。

 知られたら嫌われるような気がする。客観視すれば、まず俺は変態だろう。


「ねえ喜成ー、どうせ明日休みだし、今までの全部レンタルしてきて見ようよ。」


「それも良いな。」


 樹の提案に肯く。映画を見て俺も最初から見たいと思ったし、何より樹と一緒にいられる名分ができるのは助かる。今までなら何も無くても一緒にいたのに、今はそれができない。

 健先輩の部屋を貸してもらおうか、と考えていると樹が爆弾を落とした。


「ね! そうだ、久しぶりに喜成の家行きたーい。」


 俺の家、だと。

 ちょっと待て。アウェイならまだしもホームだと。

 俺はその状態に耐えられるのか?


「どうした?」


 思わず立ち止まってしまった俺に、訝しげな視線を送る樹。


「いや……、なんでもない……。良いのか? うちで。」


「うん? もちろん。何、部屋散らかってるの? 良いよお、座るスペースさえあれば。」


 そういうわけではない。断じて無い。

 頭をフル回転させて、朝じいさんが言っていたことを思い出した。

 たしか釣り堀に行くって言ってたな。なら、居間のテレビを使えるはずだ。

 居間ならまだ、誰か帰って来る可能性もあるし、大丈夫だろう。


「いや、うん。じゃあうち行くか。」


「やったー、久々。」


 そう言って喜ぶ樹と共に、レンタルショップへと向かった。




 家に帰り玄関の戸を開けると、有るはずの無い靴が鎮座していた。

 奥からは、微かに聞こえるテレビの音。

 まさか。


「ただいま。」


「お邪魔しまーす。」


 中に向かって声を掛けると、奥からおーう、じいさんの声がした。なんで今日に限っているんだ。いつもなら釣り堀に行った後は佐々木さんと将棋で勝負して、帰って来るのは夕飯前じゃないか。これじゃあ居間が使えない。

 樹の家に行かないか、と提案する前に、またもや樹は爆弾を落とした。


「喜成の部屋で良くない?」


 良いわけあるか。意中の相手と部屋に二人きりって、喜びを通り越して苦痛だろう!

 けれど樹はさっさと靴を脱いで上がり込んでしまった。仕方が無い。樹は俺の気持ちを知らないのだから。意識されていないのはもともとだろう。俺は自分を励まして、固まっていた体を動かした。

 とりあえず、麦茶を持っていこう。



 麦茶を用意して部屋に行くと、ゲームのハードを準備している樹がいた。四つん這いで。

 お前……、今スカート穿いてるの覚えていないだろう。


「準備良いな……。」


「あ、ばっちりやっといたよー。」


 それしか言えない俺に、樹はあっけらかんと笑って答える。

 ねえ、これってどうやって注意すれば良い? 俺、泣きそうだ。

 なるべく樹を見ないようにして、樹が「簡易座椅子」と呼ぶ丸めた布団の前に盆を置き、買ってきたお菓子の袋を開けて座った。ディスクをセットした樹も隣に座る。


「はい、麦茶。」


「ありがと。」


 コップを受け取った樹は、早速始まった映画にすぐに見入ってしまう。

 部屋は映画館と違い明るい。その分隣の樹がはっきりと存在感を示す。ついこの前までは優しい陽だまりのようだった距離が、今は火傷しそうなほど熱く感じられた。

 盗み見ることも出来なくて視線を彷徨わせると、樹の投げ出した足が目に入った。座った時にスカートが少しよれたのだろう、膝が見えている。

 ……映画を見よう。

 何度も見たが、疾走感と謎解きは引き込まれるものがある。俺は映画の展開に集中することにした。

 



 黒い背景に流れる金文字。エンドロールの後ろでサントラが自己主張を始めた。このシリーズは曲も良い。特にこの主人公が危機に瀕する時に使われる曲が、緊迫感が伝わってきてたまらなく好きだ。

 映画の内容を思い出しながらただエンドロールを見ていると、左から視線を感じた。見ると、なぜか樹がこちらを見ている。


「どうかしたか?」


「いや、あの、喜成背、伸びたんじゃない?」


「ああ、そうかも。最近成長痛酷かったし。」


 樹の頭が、記憶より下にある。それは樹が縮んだだけでなく、俺が伸びたこともあると思う。

 前から俺の身長を抜きたいと言っていた樹だから、並んで座って、身長に意識が向かったのだろう。


「悔しー! どれだけ伸びるの。五センチ、いや十センチ寄こせ!」


「無理無理。」


 あはは、と笑ってすっと何かが落ちついた気がした。

 気負っていた何かが、抜けたような。


「喜成ー! お友達でも来てるのー!?」


「樹ー!」


 階下から聞こえた声は母のものだった。どうやら帰ってきたらしい。それに返事をすると、あらあらと声がした。


「樹ちゃん来てるのー? 夕ご飯食べてってー!」


「だって。食ってくだろ?」


 母の声は馬鹿でかいから、しっかり聞こえる。きっと外にも聞こえているだろう。


「え、良いの?」


「だってお前、あと二本見るだろう?」


「えへへ、ありがと! じゃあそうさせてもらおうかな。」


 そう言うと樹はケータイを出して電話をかけ始めた。家へ連絡するのだろう。俺も階下に向かって「食ってくってー!」と伝えておいた。


 ずっと前から、よくある光景。

 俺の家で、樹の家で、琴美の家で。

 そうだ。俺たちの距離は、暖かろうが熱かろうが、誰よりも近かったんだ。

 なじみ深い空気を感じて、浮ついていた足が地に着いた、そんな感覚。

 焦らなくて良い。落ちついて良い。



 少しだけ、未来が明るくなった。

 きっと振り向かせてみせる。


一番テンパってたのは、彼かもしれません。


さて、連日投稿も本日で一旦ストップとなります。亀更新で申し訳ない……。

ぽつぽつとお気に入りにいれて下さる方が増えて、嬉しい限りです。拍手もありがとうございます!

皆さまに支えられて「とらいあんぐる」は更新されております。ありがとうございます!

次回はみんなに球技大会をやってもらおうと思っています。はてさて。

では、またのんびりとお待ちくださいませ。

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