番外・その時の彼ら3
いつも読んでいただいて、有難うございます!
では、14話琴美視点をどうぞ。
注!百合要素あり!
「ごめんね、いっちゃんは好きだけど、そういう対象には見れないの。」
中学の卒業式の日、私は、大事な幼馴染から告白され、薄情にもその場で振った。
同い年だけど、弟妹のような、放っておけない存在。それがいっちゃん。
小学生までは、本当に女の子みたいで可愛らしかった。
その頃までは、いっちゃんが結婚相手というのも考えられたけど。
中学に上がって迎えた成長期。いっちゃんは私より遅く始まり、それでも卒業前には私の身長を越えてしまった。高かった声も落ちつき、幼かった体型は骨ばったスラリとしたものに変わってしまった。
それを見た時に、感じてしまった。
私はいっちゃんを、恋愛対象として見る事はできない、と。
■ ■ ■
「おはよーございまーす!」
約束した日曜日。私は集合時刻より早く、いっちゃんの家に向かった。
勿論、化粧道具を持って。
「おはよー。琴美、早くない? 私時間間違った?」
「私が早く来ただけだよ。ね、いっちゃん。化粧、しようね。」
にっこりと微笑んだら、いっちゃんの顔が引きつった。
目の前で、目を閉じて化粧をされているいっちゃん。
肌はすべすべもち肌。睫毛は長く、ビューラーを使った今、マッチが何本載るか試してみたいほどだ。
きゅっと閉じられた少し厚い唇が、何も塗っていないのに鮮やかで、触れてみたいと思ってしまう。
体が丸みを帯びた今、そこには完璧な美少女がいた。
いっちゃんは自分が平凡な容姿をしていると思いこんでいるが、そんなことはない。ただ、「男」には向かない可愛らしい顔だっただけで。おじさん似の健先輩がいるから、そう思ってしまうのも無理はないのだろう。いっちゃんが似たおばさんも、かつてはさぞ、というか今ですら可愛いのだが、いっちゃんはあまりピンとこないらしい。まあ、自分のお母さんが綺麗かどうかなんて、よく分からないものね。
「出来たー! いっちゃん可愛いよ。」
「うう、睫毛が重い……。うわああ、目がでっかくなってるううう。女子のメイク力つええええ。」
「我ながら、良い出来だわ。」
ただ服がイマイチ……。パーカーも可愛いけど、是非とも今日はスカートを買わせたい。
私服スカートのいっちゃんを見たい!
私は決意した。
■ ■ ■
ショッピングモールでえっこと落ち合った私たちは、早速良く行くショップに入った。
いっちゃんはレディスのショップにおっかなびっくり、という感じで物色しようともしない。ついてくるのは可愛いけど。
取り敢えず、今日の目的を果たさなければならない。
「(いっちゃんの)スカート欲しいんだよねー」
いっちゃんにはどれが似合うかなーと考えながら、一着ずつ見て行く。出来ればミニスカートを穿かせたいけど、ロングも捨てがたい。
「私、いっそワンピース買おうかなー。上下で悩むの面倒」
「わかるー」
物色しながら、えっこの発言に相槌を打つ。私もワンピース一着欲しいな。
でも、いっちゃんはしっかり飾りたい。
「デニムにTシャツで良くない? ねえ良くない?」
そんな中、隣でぼそっと言ういっちゃん。
花の女子高生が、何を言っているのかな?
「……えっこ~、いっちゃんの服選ぶの手伝ってー」
「まかせとけい!」
「ええ!?」
「いっちゃんにスカート穿かせたーい」
えっこを巻き込むべく、自分の要望を口に出す。
「遠峯さん、私服でスカート穿かないの?」
「穿かない! 穿きません! 頼むからスカートはやめて!」
「えー、今だけだよ? 短いの穿けるの」
若いうちの特権だと思うのだ。
「あ、じゃあショートパンツは?」
ショートパンツか……。それはそれでとても良い!
「太股出るのは、ちょっと……」
「どんどん見せて行こうぜ!」
えっこがガンガン押してくれるが、いっちゃんは一向に肯いてくれない。
「だ、だって、二人みたいに細ければ良いかも知れないけど、私太いし……」
それどころかしょげてしまった。俯いたいっちゃんを見て、えっこと顔を見合わせる。
「遠峯さん、あのね、あなた言うほど太くないよ? ごく普通。」
そうなのだ。
いっちゃんは「太股がー」とよく言うが、それは男の時の細い足を基準にしているからであって、女子としては標準。
「そうだよー。それにこれはムチムチしてた方が可愛いし。」
「それに、胸もあるでしょ? 私どこもかしこも肉付き悪いんだもん。着る服選ぶっつーの」
「逆に隠す方が目立つ場合もあるしねー」
「ということで」
「「試着しようか」」
「……は、はい」
いっちゃんにショートパンツを無理矢理持たせ、二人がかりでフィッティングルームに押し込んだ。
ちょっと強引にならなければ、新しい扉は開けない。うん。
待ちきれなくて、手はカーテンにかけたままである。
「いっちゃーん、サイズどう?」
「うん、大丈夫ー」
「遠峯さん、カーテン開けて良い?」
「う、うん……」
返事を聞いて、すぐにカーテンを開けた。
「おー、良いじゃーん」
「魅惑の太股ね」
短い裾から、伸びる脚。えっこの言うように、その太股は魅惑的だった。これは見せなければ世界の損失になりえると思えるほどに。
二人で褒めると、いっちゃんは照れて真っ赤になった。
そんなところも可愛い。
「これは買いでしょ」
「どーする? カラータイツ合わせて、Tシャツも買えば今日のスニーカーにも合うんじゃない?」
えっこの提案に、頭の中でもくもくとイメージが湧く。
「そうしよう。」
「え? え?」
「いっちゃんそこで待ってて! すぐにTシャツ持ってくるから!」
「ええ!?」
戸惑ういっちゃんをその場に残し、私たちは合いそうな服を探し求めた。
「明るい色着せたい。」
「これ今流行りじゃない?」
えっこが手にしたのは、白地にパンクな柄がプリントされた、襟ぐりや袖が緩いタイプのもの。
「それ良い! これ下に着れば良くない?」
「良い良い!」
私が示したピンクのキャミソールが採用されたので、早速それを持っていっちゃんの元へ。
試着させるととても似合う。一気に華やぎ、いっちゃんも気に入ったようなので、タグを切ってもらって着て帰ることにした。
私がオススメしたオレンジのタイツは、断固として拒否されたけど。
似合うと思ったのになー。
■ ■ ■
「いっちゃん、何見てんの?」
雑貨屋に入って暫く、いっちゃんが店の一角でじっと何かに見入っていた。なんだろう、と思って近づくと、女子中高生からおばさままで人気の、ごろねこグッズが犇めいていた。
「ああ、ごろねこかあ。いっちゃん、猫好きだよねえ」
「ごろねこ!?」
「うん。あ、知らなかった? 『ごろ寝シリーズ』の猫キャラだよー。他に、ほら。犬とペンギンとカエルがいるんだよ」
なんだかテンション高く食い付かれたので、説明しておく。男子はこういうキャラクター、あんまり知らないのかもしれない。
「うはあ、かーわーいーいー! これ買う!」
そう言ういっちゃんの方が可愛いと思う。
ごろねこのキーホルダーを鞄に付けたいっちゃん。うん、可愛い。
いっちゃんの鞄って、何もついてないんだよね。
「良いな~。私もけろたん買おっかなー。おそろー」
ごろ寝スタイルのカエルを選ぶ。折角女の子同士になったんだもん、おそろいのキーホルダーをしたって、違和感もなにも無い。
「いえーい、おそろー」
キーホルダーを持ついっちゃんが、にこにこと笑いかけてくる。
なんだろう、この可愛い子は。
「……見つけたと思ったら、あなたたちなに楽しそうなことやってるのさ?」
えっこが呆れた調子で声を掛けてきた。
いっちゃんはそれで我に帰ったのか、顔を真っ赤にして表情が硬い。
「あの、すいません。あまりの可愛さにちょっと我を忘れてしまったんです。許して下さい。」
「えっ、急に謝られても。良いじゃないそれくらい。みんな普通にやってるよ。」
「あはは、いっちゃん真っ赤ー」
どきどきを、笑ってごまかす。
器が変わっただけ。
それなのに、心の奥底では、ちりちりと何かが燻っていた。
私はいっちゃんを振ったの。
男だからと、振ったの。
そんな私が、言えるわけないじゃない。
……女の友情で、ずっと一緒にいるくらいは、許してくれるだろうか。
ようやく来た百合要素。