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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
めまぐるしい はる
20/51

番外・その時の彼ら3

いつも読んでいただいて、有難うございます!

では、14話琴美視点をどうぞ。

注!百合要素あり!

「ごめんね、いっちゃんは好きだけど、そういう対象には見れないの。」


 中学の卒業式の日、私は、大事な幼馴染から告白され、薄情にもその場で振った。


 同い年だけど、弟妹のような、放っておけない存在。それがいっちゃん。

 小学生までは、本当に女の子みたいで可愛らしかった。

 その頃までは、いっちゃんが結婚相手というのも考えられたけど。

 中学に上がって迎えた成長期。いっちゃんは私より遅く始まり、それでも卒業前には私の身長を越えてしまった。高かった声も落ちつき、幼かった体型は骨ばったスラリとしたものに変わってしまった。

 それを見た時に、感じてしまった。

 私はいっちゃんを、恋愛対象として見る事はできない、と。



 ■ ■ ■



「おはよーございまーす!」


 約束した日曜日。私は集合時刻より早く、いっちゃんの家に向かった。

 勿論、化粧道具を持って。


「おはよー。琴美、早くない? 私時間間違った?」


「私が早く来ただけだよ。ね、いっちゃん。化粧、しようね。」


 にっこりと微笑んだら、いっちゃんの顔が引きつった。



 目の前で、目を閉じて化粧をされているいっちゃん。

 肌はすべすべもち肌。睫毛は長く、ビューラーを使った今、マッチが何本載るか試してみたいほどだ。

 きゅっと閉じられた少し厚い唇が、何も塗っていないのに鮮やかで、触れてみたいと思ってしまう。


 体が丸みを帯びた今、そこには完璧な美少女がいた。


 いっちゃんは自分が平凡な容姿をしていると思いこんでいるが、そんなことはない。ただ、「男」には向かない可愛らしい顔だっただけで。おじさん似の健先輩がいるから、そう思ってしまうのも無理はないのだろう。いっちゃんが似たおばさんも、かつてはさぞ、というか今ですら可愛いのだが、いっちゃんはあまりピンとこないらしい。まあ、自分のお母さんが綺麗かどうかなんて、よく分からないものね。


「出来たー! いっちゃん可愛いよ。」


「うう、睫毛が重い……。うわああ、目がでっかくなってるううう。女子のメイク力つええええ。」


「我ながら、良い出来だわ。」


 ただ服がイマイチ……。パーカーも可愛いけど、是非とも今日はスカートを買わせたい。

 私服スカートのいっちゃんを見たい!

 私は決意した。



 ■ ■ ■



 ショッピングモールでえっこと落ち合った私たちは、早速良く行くショップに入った。

 いっちゃんはレディスのショップにおっかなびっくり、という感じで物色しようともしない。ついてくるのは可愛いけど。

 取り敢えず、今日の目的を果たさなければならない。


「(いっちゃんの)スカート欲しいんだよねー」


 いっちゃんにはどれが似合うかなーと考えながら、一着ずつ見て行く。出来ればミニスカートを穿かせたいけど、ロングも捨てがたい。


「私、いっそワンピース買おうかなー。上下で悩むの面倒」


「わかるー」


 物色しながら、えっこの発言に相槌を打つ。私もワンピース一着欲しいな。

 でも、いっちゃんはしっかり飾りたい。


「デニムにTシャツで良くない? ねえ良くない?」


 そんな中、隣でぼそっと言ういっちゃん。

 花の女子高生が、何を言っているのかな?


「……えっこ~、いっちゃんの服選ぶの手伝ってー」


「まかせとけい!」


「ええ!?」


「いっちゃんにスカート穿かせたーい」


 えっこを巻き込むべく、自分の要望を口に出す。


「遠峯さん、私服でスカート穿かないの?」


「穿かない! 穿きません! 頼むからスカートはやめて!」


「えー、今だけだよ? 短いの穿けるの」


 若いうちの特権だと思うのだ。


「あ、じゃあショートパンツは?」


 ショートパンツか……。それはそれでとても良い!


「太股出るのは、ちょっと……」


「どんどん見せて行こうぜ!」


 えっこがガンガン押してくれるが、いっちゃんは一向に肯いてくれない。


「だ、だって、二人みたいに細ければ良いかも知れないけど、私太いし……」


 それどころかしょげてしまった。俯いたいっちゃんを見て、えっこと顔を見合わせる。


「遠峯さん、あのね、あなた言うほど太くないよ? ごく普通。」


 そうなのだ。

 いっちゃんは「太股がー」とよく言うが、それは男の時の細い足を基準にしているからであって、女子としては標準。


「そうだよー。それにこれはムチムチしてた方が可愛いし。」


「それに、胸もあるでしょ? 私どこもかしこも肉付き悪いんだもん。着る服選ぶっつーの」


「逆に隠す方が目立つ場合もあるしねー」


「ということで」


「「試着しようか」」


「……は、はい」


 いっちゃんにショートパンツを無理矢理持たせ、二人がかりでフィッティングルームに押し込んだ。

 ちょっと強引にならなければ、新しい扉は開けない。うん。

 待ちきれなくて、手はカーテンにかけたままである。


「いっちゃーん、サイズどう?」


「うん、大丈夫ー」


「遠峯さん、カーテン開けて良い?」


「う、うん……」


 返事を聞いて、すぐにカーテンを開けた。


「おー、良いじゃーん」


「魅惑の太股ね」


 短い裾から、伸びる脚。えっこの言うように、その太股は魅惑的だった。これは見せなければ世界の損失になりえると思えるほどに。

 二人で褒めると、いっちゃんは照れて真っ赤になった。

 そんなところも可愛い。


「これは買いでしょ」


「どーする? カラータイツ合わせて、Tシャツも買えば今日のスニーカーにも合うんじゃない?」


 えっこの提案に、頭の中でもくもくとイメージが湧く。


「そうしよう。」


「え? え?」


「いっちゃんそこで待ってて! すぐにTシャツ持ってくるから!」


「ええ!?」


 戸惑ういっちゃんをその場に残し、私たちは合いそうな服を探し求めた。


「明るい色着せたい。」


「これ今流行りじゃない?」


 えっこが手にしたのは、白地にパンクな柄がプリントされた、襟ぐりや袖が緩いタイプのもの。


「それ良い! これ下に着れば良くない?」


「良い良い!」


 私が示したピンクのキャミソールが採用されたので、早速それを持っていっちゃんの元へ。

 試着させるととても似合う。一気に華やぎ、いっちゃんも気に入ったようなので、タグを切ってもらって着て帰ることにした。

 私がオススメしたオレンジのタイツは、断固として拒否されたけど。

 似合うと思ったのになー。



 ■ ■ ■



「いっちゃん、何見てんの?」


 雑貨屋に入って暫く、いっちゃんが店の一角でじっと何かに見入っていた。なんだろう、と思って近づくと、女子中高生からおばさままで人気の、ごろねこグッズが犇めいていた。


「ああ、ごろねこかあ。いっちゃん、猫好きだよねえ」


「ごろねこ!?」


「うん。あ、知らなかった? 『ごろ寝シリーズ』の猫キャラだよー。他に、ほら。犬とペンギンとカエルがいるんだよ」


 なんだかテンション高く食い付かれたので、説明しておく。男子はこういうキャラクター、あんまり知らないのかもしれない。


「うはあ、かーわーいーいー! これ買う!」


 そう言ういっちゃんの方が可愛いと思う。

 ごろねこのキーホルダーを鞄に付けたいっちゃん。うん、可愛い。

 いっちゃんの鞄って、何もついてないんだよね。


「良いな~。私もけろたん買おっかなー。おそろー」


 ごろ寝スタイルのカエルを選ぶ。折角女の子同士になったんだもん、おそろいのキーホルダーをしたって、違和感もなにも無い。


「いえーい、おそろー」


 キーホルダーを持ついっちゃんが、にこにこと笑いかけてくる。

 なんだろう、この可愛い子は。


「……見つけたと思ったら、あなたたちなに楽しそうなことやってるのさ?」


 えっこが呆れた調子で声を掛けてきた。

 いっちゃんはそれで我に帰ったのか、顔を真っ赤にして表情が硬い。


「あの、すいません。あまりの可愛さにちょっと我を忘れてしまったんです。許して下さい。」


「えっ、急に謝られても。良いじゃないそれくらい。みんな普通にやってるよ。」


「あはは、いっちゃん真っ赤ー」



 どきどきを、笑ってごまかす。


 器が変わっただけ。

 それなのに、心の奥底では、ちりちりと何かが燻っていた。



 私はいっちゃんを振ったの。

 男だからと、振ったの。

 そんな私が、言えるわけないじゃない。



 ……女の友情で、ずっと一緒にいるくらいは、許してくれるだろうか。

ようやく来た百合要素。

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