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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
めまぐるしい はる
19/51

番外・その時の彼ら2

13話、健視点。

「健、前にゲーム貸せって言ってたよな。持ってきた。」


「おう、サンキュ。」


 ほい、と渡されたソフトのケース。暗い背景に赤が印象深く、中央に少女が立っている。CERO15。どう考えても、ホラーゲームだ。ホラーは樹が苦手だから滅多にやらないが、俺としては結構好きである。タイトルも聞いたことがある。


「これ、どんな感じ?」


「結構難しいぜ? 条件必要行動とかあって、逃すと全然進まないし。まあ、俺はアーカイブ全部集めたがな!」


 なんか知らんが、自慢された。

 ふむ、でも面白そうだ。俺は有り難く借りる事にした。



 ■ ■ ■



 英語の予習を終え、明日の準備をしようと鞄の中身を開けた時、ゲームの存在を思い出した。早速やるか。ケースに伸びた手をふと止める。

 そうだ、樹も誘ってみようか。

 苦手だけど、俺と一緒なら文句を言いつつやってくれるだろうし、何より怯えて縋りつかれたらかなり嬉しい。

 それならばと樹に声をかける。『ホラー』ゲームと言わなかったのは、確信犯である。樹は簡単に誘いに乗ってくれた。

 部屋に戻って準備をする。そうだ、電気も落としておいた方が、一層怖いよな。

 俺は柄にも無く、うきうきしていた。



「って、暗っ!」


 部屋に入った樹が、開口一番そう言う。廊下の電気が逆光になっているため、樹の表情はうかがえなかったが、戸惑っているのは分かった。


「え、なんで暗くしてるの?」


「雰囲気出そうかと思って」


「ふ、雰囲気って?」


「いや、なに。ホラーゲームの。」


「やっぱりホラーゲームか!」


「まあまあ、良いからこっち座れよ。二人でやれば怖くないだろう?」


 テレビ画面から、ゲームの内容を把握していたのだろう。けれど逃がす気は無い。ぽんぽん、と、隣を叩いて座るよう促す。恐る恐る来た樹はそこに座ると、猫型クッションを抱えた。ぼんやりとした明かりの中、それは非常に可愛かった。可愛かった。俺も猫が好きだが、このクッションは樹のために買ったのだ。本来の役に立ったな、お前。


「うう、やだよぉ。これ怖い? 怖い?」


「正悟はアーカイブ全部集めたって、自慢してきた」


「全然参考にならないよ、それ!」


「とにかくやってみよう。ニューゲーム、っと」


「うわあ、始まったー!」


 怯えてる樹も可愛いなあ。俺はそっと、樹にコントローラーを渡した。


「え?」


「最初はチュートリアルだろうから、樹やってみなよ」


「ええ!?」


 どんどん、俺に可愛い姿を見せてくれ。





 画面に映る、『終了条件未遂。』の文字。半泣きな樹。


「うっうっ……おうち帰る……」


「樹、落ちつけ。ここはお前の家だ」


 コントローラーから手を離した樹が、俺の腕をぎゅっと掴んできた。

 ああ、怯えて縋って来るとかどれだけ可愛いんだうちの樹は!

 ちょっと痛いけど、幸せの痛みである。痛いと言いながら、俺の顔は絶対に笑っていることだろう。


「もう無理。無理ゲーだから。武器無いとか無いから。」


「落ちつけって。次のステージ行ったら武器出てくるよ、きっと。とりあえず、俺がここクリアするから、な?」


「やだ、もうやめる。明日正悟先輩に文句言ってやる。」


 ふむ。今日は流石にこれ以上は無理か。

 俺は諦めて、電気を付けた。

 俺も明日、正悟に礼を言おう。



 ■ ■ ■



「正悟、昨日はゲーム有難うな。暫く借りてても良いか?」


「おう、良いぜ。どうだった? 結構難しかったろ?」


「ああ、もう樹が可愛くて可愛くて。」


「ちょっと待て。どうして樹の話になる。」


「ほら、樹ってホラー苦手だろ? 強引にやらせたら、涙目になってさ。縋りついてくる様はマジで可愛かった。」


 思いだしても可愛い。笑顔も勿論好きだけど、俺に縋りついてくるなんて、ここ数年見たことが無い。その分余計に嬉しかった。


「なんだ、それ。羨ましすぎんだろ。」


「そうだろ?」


 ふふん、と笑ったら、正悟がイラついたのが分かった。


「うっわ、ムカつく~。おし、今日はお前んち行ってやる。そうだな、喜成と琴美も誘って朝までゲームだ。」


「はあ? なんだそれ……」


 しかし、ちょっと待てよ。

 昨日今日では、樹がまたあのゲームをやってくれる筈が無い。

 ここは皆を連れて行けば、渋々やってくれるのではないだろうか。


「よし、今日はみんなでしよう。」



 部活の後、俺たちは琴美を誘い、サッカー部の練習場所へと向かった。

 そこで何故か海斗を筆頭とするサッカー部二三年に喧嘩腰で迫られた。そういや、マネージャーがどうのこうので前から嫌われてたな。俺からすれば、樹がマネージャーに入ったことの方が羨ましいのに。

 早く樹を捕まえて帰りたいのに、視界には奴らしか入らない。樹はどこだ。その時、俺の耳に樹の声が聞こえた。


「で、あの人たち何しに来たの?」


「樹を迎えに来たに決まっているだろう!」


「うおっ!?」


 声を頼りに樹を見つけ、肩を掴んだ。そして条件反射のように繰り出されるエルボー。それは見事に俺の鳩尾にクリーンヒットし、蹲って悶える羽目になった。


「うわー、吃驚したー。ちょっと突然やめてよ。っていうか移動早ッ!」


「なかなか、重い一撃だったぞ……樹よ……」


 変な汗かいてきた……。


「はいはい、茶番はやめろー。樹、喜成帰るぞー」


 ちょっと朦朧としかけた意識の中、俺は正悟に引っ張られて帰路に就いた。



 ■ ■ ■



「あの樹の怯えっぷり……プフッ」


 男だけになった俺の部屋で、正悟が笑う。

 床には布団が敷き詰められており、今晩は正悟と喜成が雑魚寝だ。ベッドの権利は俺にある。


「可愛いだろ?」


 弟の時も可愛かったが、妹になっても可愛い。結論、樹は可愛い。ただ女になったことで、こう、庇護欲が強くなった気はする。


「喜成、樹に男の影は無いだろうな? 部活で危険な目に逢ってたりしないか?」


「そうだよ、海斗あたり、怪しいんじゃねーか?」


 むくむくと大きくなった不安が、口をついて出た。さらに、それに便乗するように正悟が口をはさむ。そういやこの前、樹を前にして海斗は変なテンションだったな。釘は刺しておいたが、要注意人物として頭に入れておくか。


「樹、うちではかなり人気高いっす。でも、樹が特定の個人に、ってのは無いっすね。」


「ならまだ安心か……。」


 いや、不安だが。大いに不安だが。


「いいか、喜成。部活ではお前だけが頼りだ。絶対に樹に変なヤローを近づけるんじゃねえぞ。」


「勿論です。」


 力強い目で返された。

 取り敢えずの防波堤にはなってくれるだろう。昔から、樹を支えてくれたしな。



 ■ ■ ■



「でも、喜成が樹のこと好きだったらどうするんだ?」


 翌日の朝練の最中。

 ストレッチをしながら正悟に言われた言葉に、俺は固まった。


「……まさか、無いだろ」


 幼稚園の時から一緒で、今まで樹を男として見てきたわけで。

 喜成も琴美も、俺の弟分と妹分で。

 樹とまとめて兄弟みたいなもんで。


「幼馴染って、王道のカップルだよな。」


 とどめの一言に、俺は言葉を失った。



 まさか、まさか。


 まさか。



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