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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
めまぐるしい はる
14/51

13.こわいのはにがてです

 夕飯の後、部屋で課題をしていたら、兄ちゃんがドアをノックして入ってきた。


「正悟からゲーム借りたんだけど、一緒にやらないか?」


「やるやるー」


 羨ましいことに、兄ちゃんの部屋にはテレビがある。

 まあ、成績が優秀で、模試の順位落とさないことが条件なんだけど。


「あと二問で課題終わるから、待ってて」


「わかった。準備しとく」


 兄ちゃんが出て行き再び静かになった部屋で、俺はまた課題に向き合った。

 さっさと終わらせよう。何のゲーム借りてきたのかな~。




「って、暗っ!」


 兄ちゃんの部屋に入ると、そこは真っ暗でした。

 テレビ画面は点いていたけれど、暗闇に白い靄がかかってる背景に、白くゲームのタイトルが浮かんでいるもので、光源としては頼りない。


「え、なんで暗くしてるの?」


「雰囲気出そうかと思って」


「ふ、雰囲気って?」


「いや、なに。ホラーゲームの。」


「やっぱりホラーゲームか!」


 おどろおどろしい画面からそんな気はしてたよ!


「まあまあ、良いからこっち座れよ。二人でやれば怖くないだろう?」


 ぽんぽん、と、兄ちゃんが自分の隣を叩いて俺に座るよう促す。暗いので恐る恐るそこまで行って座った。クッションがあったので、それを抱えてみた。猫型でめっちゃかわいい。


「うう、やだよぉ。これ怖い? 怖い?」


「正悟はアーカイブ全部集めたって、自慢してきた」


「全然参考にならないよ、それ!」


 難易度の話をしているんじゃない!


「とにかくやってみよう。ニューゲーム、っと」


「うわあ、始まったー!」


 ……なぜかコントローラーを渡された。


「え?」


「最初はチュートリアルだろうから、樹やってみなよ」


「ええ!?」



 ……まあ、そこからは散々でした。


「う、う、撃たれたあああ!」


「うわあ、轢いちゃった!!」


「え、ちょ、なになになに、視界ジャック? ホールド??」


「なんかいるうううううう!」


「ぎゃあああ死んだあああああ!」


 画面に映る、『終了条件未遂。』の文字。半泣きな俺。


「うっうっ……おうち帰る……」


「樹、落ちつけ。ここはお前の家だ」


 コントローラーから手を離して、兄ちゃんの腕を掴む。他人の暖かさが恐怖心を和らげてくれる気がして、力の限りぎゅっと握った。痛いとか聞こえたけど気にしない。体力テストで握力両手ともに三十八だったけど気にしない。


「もう無理。無理ゲーだから。武器無いとか無いから。」


「落ちつけって。次のステージ行ったら武器出てくるよ、きっと。とりあえず、俺がここクリアするから、な?」


「やだ、もうやめる。明日正悟先輩に文句言ってやる。」


 とりあえず、電気付けたい。



 ■ ■ ■



 翌日、部活も終わりになり、空になったボトルを洗って皆の元に戻ると、なんだか様子が変だった。

 敵愾心むき出しって言うか……、喧嘩腰? で何かに向かっていた。しかも着替えの途中だったのか、半裸の人も数名混じっている。島根さんもいるんだから、ちゃんと着替えて下さいよ、もう。


「先輩たち何やってんの、あれ」


「さあ……」


 島根さんと首を傾げながら、ボトルをしまう。俺たちの方からは、先輩たちの後ろ姿しか見えなくて、何と敵対しているのかわからなかった。

 まあ、触らぬ神に祟りなしってことで、ちょっと離れて眺めていようかと思ったら。

 戻ってきた俺たちに気付いたのか、集団の後方にいた喜成が振り返って、俺に手招きしてきた。


「ちょっと喜成くん呼んでるじゃない。あたしも行って良いかな」


「良いと思うけど、乱闘とかになったら危なくない?」


「そんなことになりそうな場所に、普通女子呼ぶ? 何かあるんでしょ、きっと」


 島根さんの言うことももっともだ。俺たちは二人連れだって、集団に近づいてみた。


「喜成くん、これ何事なの?」


 とは島根さん。ちょっと怯えた表情が可愛いです。が、その表情作りましたね?


「ああ、いや、大したことじゃないよ。三年ツートップに対して、うちの先輩方が絡んでるだけだから」


「「つーとっぷ?」」


 ツートップとはなんぞやと、背伸びしながら、人垣の隙間を覗き見た。そこにいたのは


「うげ、兄ちゃんに正悟先輩……」


 同じく二人を視界に納めたのか、隣の島根さんが俺の肩をバシバシ叩いてきた。落ちついて! 頼むから落ちついて! 別にそこまで興奮するに値する人たちじゃないから!


「やだー、もう眼福ー! って、あの後ろにいる美人って、あんたのクラスの子じゃなかった? もしかしてどっちかと付き合ってるとか!?」


 ぎゅっと掴まれた二の腕が痛い痛い痛いです! ……もしかして俺より握力あるんじゃないのか?

 島根さんに美人と言わしめる人は誰ぞ、と思ってもう一度背伸びして見てみたら、奥に琴美がいた。おおう、その困った表情も美しいです琴美さん。


「なんで琴美もいるんだ?」


「あんたの友達?」


「あーうん、幼馴染。どっちとも付き合って無いから安心して」


 って言ったら、島根さんはあからさまに笑顔になった。まあ、それは置いといて、喜成にどういう事だと視線を送れば、奴は大きな溜息をついて簡単に経緯を説明してくれた。


「なんか、この喧嘩の一因に琴美も入ってるみたいなんだよ……」


 呆れたように言う喜成に、頭が痛くなってくる。

 そうだね。サッカー部(うち)は女子に飢えてるからね……。


「で、あの人たち何しに来たの?」


「樹を迎えに来たに決まっているだろう!」


「うおっ!?」


 突然後ろから肩を掴まれ、心臓が跳ねた。思わずエルボーを繰り出したら、見事にクリーンヒットした感触が。後ろを振り向いたら、兄ちゃんが腹を押さえて蹲っていた。


「うわー、吃驚したー。ちょっと突然やめてよ。っていうか移動早ッ!」


「なかなか、重い一撃だったぞ……樹よ……」


「はいはい、茶番はやめろー。樹、喜成帰るぞー」


 遅れてやってきた正悟先輩が、兄ちゃんの首根っこを捕まえて立たせた。あ、兄ちゃんの顔色が青い。


「どうしたんすか、突然」


 誰しもが思ったであろう問いを、喜成が代表して聞いてくれた。それを受け、正悟先輩はきわめて真面目な表情になり、拳を突き上げて宣言する。


「今日は健が散々自慢してくれたので、みんなでゲームをしようと思う!」


「「え゛」」


 自慢ってなんだか分からないけど、昨日の今日でゲームって言ったら「アレ」じゃないですかー。やだー。


 やだー!!



 ■ ■ ■



「と、いうことがあったんだ。」


 帰りの道すがら、昨晩の出来事を喜成と琴美に話す。

 もちろん半泣きだったことは言わないよ!

 俺のプライドに関わるからね!


「それでさー、今日は朝から健が『樹が縋りついてきて可愛かった』って散々自慢しまくるからさー、これは俺も拝まねばって、思うじゃん?」


「ちょっと兄ちゃん!? 何言ってくれちゃってんの!?」


 まさかの正悟先輩のカミングアウトに、俺驚愕。

 何それめっちゃ恥ずかしいし、第一縋りついてないし! 腕は力の限り握りしめたけど!


「事実だろ」


「捏造だよ!」


「えー、そんな可愛いいっちゃん、私も見たーい!」


「え、琴美、あのゲームマジで怖いよ?」


「私怖いの好きだから」


 ……ああ、そうだったね。都市伝説とか学校の怪談とか、結構読み漁ってたもんね……。


「ところで樹」


「なに?」


 もう周りに味方はいない。今晩もあのゲームをすることになるんだ、しかも徹夜で。そう思って打ちひしがれていた俺に、喜成が声を掛けてきた。


「沈めるのは正悟先輩と健先輩の二人ともで良いか?」


「なんの話ーーーーッ!!?」


 最後の味方はちょっとデンジャラスでした……。



 ■ ■ ■



 午後十時。皆が我が家に集合し、あの恐怖のゲームがまたもや始められた。


「うっ、うっ、正悟先輩のばかあ! なんでこれ買ったんですかあああ!」


「ええ!? つーか樹怯え過ぎ!」


「可愛いだろう、うちの樹は。」


「「「可愛い。」」」


 うわーん! みんなでこっち見るなあああ!

 うわあ、見つかった! コントローラー震えたあああ!





 深夜も三時近くなり、男は兄ちゃんの部屋に、琴美は俺の部屋にそれぞれ別れて寝る事になった。


「ねえ、琴美、豆電球付けて寝て良い?」


「良いよー」


 く、暗いのなんか、別に怖くないんだからねっ! ただ、琴美が夜中目を覚ました時に、慣れない部屋だと危ないと思っただけなんだからっ!


「いっちゃんの家に泊まるなんて、久しぶりだねえ」


 客用の布団に潜り込んだ琴美が、そう話しかけてきた。声から、笑っているのが分かる。


「あー、そうだねえ。」


 小学校の低学年くらいまでは、三人それぞれの家によくお泊りしていたものだった。やっぱり、思春期になると性別の壁が出来て、なんとはなしにしなくなったんだよな。


「今日も楽しかった! いっちゃんの怯え顔も見れたし」


「もー、やめてよー」


 恥ずかしい。

 でも、みんなで遊んだのは楽しかった。今度はもっと楽しいゲームにしてくれるよう頼もうかな。


「あ、そうだいっちゃん。次の日曜、一緒に買い物でも行かない?」


「買い物? 何欲しいの?」


「夏服とかー、小物とか? とにかくショッピング行きたーい!」


「いいよー」


「やったー! 楽しみにしてるね。おやすみ」


「うん、おやすみ」


 優しい静寂が、訪れる。

 やっぱり、今日も楽しかった。

 琴美とまた近づけた気がして、女になってちょっとだけ良かったと、思った。


作中に出てくるのは、超有名な某サイレンで蘇る系ホラーゲームです。

あんなところにアーカイブあるなんて思わないじゃないですかーやだー。


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