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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
めまぐるしい はる
13/51

12.しんはつばいによわいです

「えー、何これめっちゃ美味そう!」


 何の気なしに眺めていたテレビ番組。その間に流れたコマーシャルに、俺はまんまとのせられた。


「ああ、そのCM今日よく見るわねー」


 俺の隣で真剣にドラマを見ていた母さんが、そんな報告をしてくる。

 それはラクトアイスを宣伝しているものなのだが、大きく「新発売」の三文字が出ていた。昨日まで見覚えが無いから、今日から発売しているのかもしれない。


「ちょっとコンビニ行って買ってくる」


「今から?」


「うん」


 だって今食べたいもの。

 財布だけ持って出ようとしたら、母さんに呼び止められた。つい、と手渡されたのは五百円玉。


「母さんの分もおねがーい」


「りょうかーい」


 俺はうきうきと家を出た。





 暗い夜道を歩くと、コンビニに着いた時、目がショボショボするよね!

 今なってる!

 瞬きを繰り返しながら、目指すのは店の奥にあるアイスコーナー。

 ガラス戸の外から探すと、それはあっさりと見つかった。うん、パッケージがすごい目立つ。

 ちゃんとあったことが嬉しくて、るんるんとそれを二つ、籠に入れた。

 さっさと買って帰ろ。


「あれ? 樹じゃん」


「あ、正悟先輩。奇遇ですね」


 レジに向かおうとした所で自動ドアが開いたと思ったら、入ってきたのはなんと正悟先輩だった。


「急にコーラ飲みたくなってさあ。ついでに夜食も買いに来た」


「先輩の胃袋って、やっぱり宇宙空間に繋がってるんじゃないですか?」


「俺もその線を疑ってる。樹は何買いに来たんだ?」


「新発売のアイスですよ」


 正悟先輩が興味津津に籠を覗いてきたので、見せながら説明する。


「CMで見て、どうしても食べたくなっちゃって」


「トロピカルティ&ミルク味…… 美味いのか?」


「さあ。食べたことないから分かりませんけど、勘は美味いと言っています」


「まじか。俺も買ってみよう。てか、樹、お前一人で来たのか?」


「そうですよ?」


「……俺もすぐ会計済ませるから、一緒に帰ろうぜ」


「はあ、わかりました」


 正悟先輩は俺が肯いたのを見ると、サカサカと手当たり次第のように籠に食料を入れ始めた。

 本当、どれだけ食べるんだろう。





「うしっ、樹、帰るぞー」


「どんだけ買ってるんですか……」


 コンビニ帰りに両手に大量につまったビニール袋を持つって、大勢で集まる時位しか経験無いな、俺。


「どうせだから買い置きしておこうと思って。今晩では無くなんねーよ、さすがに」


 どうしてかな、それを信じきることができない。

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、正悟先輩は話題を変えてきた。


「そういや、健はどうして来てないんだ?」


「兄ちゃんですか? 私が家を出た時は風呂に入っていたので」


「なるほどね~」


 なんだろ、兄ちゃんに何か用でもあったのかな?

 まあ、俺が取り次がなくても、メールで事足りるだろ。

 そこからは焼きそばパンの話とかメロンパンの話とか、とにかく取りとめのない話をして歩いた。


「……ああ、もうこんな所ですね」


 目の前には塀、道路は左右に伸びていて、典型的な丁字路である。ここを左に進むと俺の家があり、右に進むと正悟先輩の家がある。


「それじゃ先輩、おやすみなさい」


「おいおい、何言ってんの。家まで送るし」


「へ? えー、そんないいですよ」


「だーめ。女の子が夜道を一人歩きとか、危ないだろ?」


「女の子って、先輩……」


 ついこの前まで男っだったんですけど……。


「その通りだろ? 良いから黙って送られなさい」


「……はあい」


 ぶすっとして言ったら、正悟先輩は笑って、俺の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。


「ちょ、先輩!」


「全く。俺が送るって言ったら、女子は喜ぶもんだぜ? 感謝しろよ?」


 くそう、モテ男め! 誰でも喜ぶと思うなよ!

 ……でも、こういうことさらっと出来るから、モテるのかもなあ。


「はぁ……。イケメンは中身もイケメンなんですね」


「何言ってんだ? そうだ、どうせなら手でも繋ぐか」


 す、と差し出された右手には、買い物袋が無かった。見ると、左手に二つ持っている。力持ちですね。

 て言うか、


「繋ぎませんよ!」


「えー、お前『しょうにいちゃんとおててつなぐ!』って、よく健泣かせてたじゃんか~」


「いつの話ですか! それ幼稚園くらいでしょ!?」


「あははは」


 笑うな!




「っと、着いた。久しぶりだな、お前ん家来るの」


「あー、そう言えばそうですね」


 昔は、先輩が家に来ることも多かったのに、いつからだろう。

 俺たちが中学に上がってからだろうか。その頃から、めっきり遊びに来なくなった気がする。

 ……受験生だったもんなあ。

 自分の受験勉強の辛さを思い出してしみじみしていたら、レジ袋が太股に当たって音を立てた。

 あ、そうだ。アイス、早くしないと溶けちゃう。


「じゃあ、正悟先輩、有難うございました。今度また来て下さいね」


「おう、そうする。じゃあなー」


「おやすみなさい」


 踵を返した先輩の後ろ姿を、少しだけ見送る。

 中学のころから、大分成長したらしい。記憶の背中より、いくぶんか大きく見えた。



「あ、そうだ樹ー」


 突然振り返られて、吃驚した。


「な、なんですか?」


「ブラ透けてたー。ごちそーさまー」


「!!?」


 しまったあああああ


 部屋着のまま出たから油断してたあああああ!

 Tシャツの下にキャミ着てなかったああああああ!



 正悟先輩の阿呆! 助兵衛!


「ばかあああ!」



 ■



 家に入ったら、俺が買い物に行っていたことに気付いていなかった兄ちゃんに、ものすごく心配された。

 あ、アイスは美味しかった。


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