9.あながあったらはいらせてください
全然進まないよ
短くてごめんよ
「しかし樹ちゃんが、あの健の妹とはねー。」
「すみません、ちゃんと言っておけば良かったですね。」
「いやいや、俺も健の悪口全開だったし、言い難かったろ? ごめんな、兄貴の悪口なんか聞かせちゃって…。」
「良いんですよ~、兄も大概ですから! どんどん言っちゃってください。わたしも参加します。」
にっこり笑うと、小国先輩は「お、おう…」と肯いてくれた。
今は放課後。さっさと着替えて来る俺は、大抵部活動に一番乗りだ。小国先輩も早く来たので、皆が集まるまでの間、世間話をしていた。
「まったく、兄には迷惑かけられっぱなしですよ…。」
■ ■ ■
あの後、三年の教室階は混乱に陥った。
正悟先輩の混乱っぷりがちょっと不味かったので、俺と兄ちゃんは視線を合わせ肯き―――
正悟先輩の手を取って逃げた。
取り残された小国先輩が後ろで叫んでいたが、この場合は仕方が無い。心の中でごめんなさい、と謝りつつ走った。辿りついたのは、教室棟と渡り廊下で繋がっている北棟。第二理科室と調理室以外はほぼ物置状態の棟で、人の気配が無く、ようやく足を止めることができた。
空き教室に入り、兄ちゃんが重ねてあった机と椅子を崩したので、それに座る。
「正悟、お前も座れよ。」
ほう、と座って息を吐く俺達兄弟の隣で、呆然と立っている正悟先輩に兄ちゃんが声を掛けた。
「あ、ありがと、…ってそうじゃなーい!!」
「うおっ、吃驚した! 大きな声出すなよ。」
「あ、わり。って違くて! 何これ! 樹が女装してる!」
ガツンッ
指をさされて言われた「女装」の二文字に、机に頭をぶつけた。
「おい、樹、大丈夫か? 良い音したぞ、今。」
兄ちゃんの心配する声も肯ける。痛くてちょっと涙出た。おでこを撫でながら、顔を上げる。
「うう~、正悟先輩! 俺が女装するような人間だと思ってたんですか!?」
「いや、思って無かったけどめっちゃ似合ってるし…。…あれ? 声高くない?」
「正悟先輩が感じる違和感は声だけですか! 背も縮んでるじゃないですか!」
「あれ、それくらいじゃなかったっけ?」
「最近会ってなかったからって、酷すぎますよ!」
兄ちゃんは、うがーッと怒る俺をどうどうと治めると、これまでの経緯を話し始めた。
ある日突然女になっていたこと。
知っているのは家族と喜成、琴美一家だけだということ。
女子高生として生活していること。
そして一向に元に戻らないこと。
「はぁー、大変なことになってんだなぁ…。」
「本当ですよ。戸惑いも大きいんですから!」
「えー、めっちゃ似合ってるし、ばっちり女の子やってるように見えっけど。」
女の子になるとか、めっちゃ夢あるわー、と笑う正悟先輩。
そのセリフは、女の子稼業を評価されたとすれば喜べたはずでした。
だけど、俺は、その時、怒っていました。
今思い返せば、非ッッッ常に恥ずかしいのですけれど、
怒っていました。
「この太股見ても思いますかっ! むちむちなんですよ!? むっちむち!!」
「ぶッ!!」
「いっいつき~~~~~ッ!!!」
主人公が混乱しております。少々お待ち下さい。
「穴があったら入りたい……。恥ずかしい、死ぬ……。」
えー、何度か太股に言及したことがあるので、読者の皆様の中には察して下さった方もいらっしゃるのかもしれないと思うのですが、まじでむっちむちになっちゃったんですよ。
ささやかな胸の膨らみ以上に、衝撃を受けた部位なんですよ。
男だった時と必要性は変わらない部位なのに、ここまで変化するとか、まじ衝撃だったんですよ。
ですからね、さっき怒った時、俺の頭は多分自分が受けた衝撃を、他者にも伝えようとしたんでしょうね。
ええ、怒りのあまり、よく覚えていないのですけど。
つまりですね。
「いやー、眼福だったわ。」
「樹、流石にはしたないぞ。今は女の子なんだから。」
「うわーん、忘れてー!!」
「ピンクのレースかあ……。」
「うわーん!!」
「正悟、今すぐ忘れろ。」
「ひっ、ごめんなさいっ!」