幕間劇 貴賓席の人々
「いいんですかい、姐さん。
こんなに朝早くから……」
「残りは三人。あとはもう、今までやってきた作業の繰り返しだし、残してきたやつらだけで十分だ。また、そうでなくては困る。
それに、われらもここのところ働きづめだったからな。
せっかく招待してもらったんだ。せいぜい骨休めさせてもらうさ」
「あの……姐さん。
なんか、向こうの方で、姐さんに向かって手を振っている方がいらっしゃるんですが……お知り合いですかい?」
「なにを馬鹿な。
ここいらにいるのは王族とか貴族とか高級官吏とか……そういうもったいぶった連中だぞ? 賭場の胴元であるわたしに知り合いなんて……」
「らららー」
「うひぃっ!」
「後輩、ひさしいな。
いいからこっちに来なさい。わが嫁がお呼びだ」
「は、背後から忍び寄っていきなり肩をつかまないでくださいっ!
って、か、先輩。あんた、ダズルダッター家の跡取りでしょ? こんな場所で公然とわたしみたいなのと関わったら外聞が……」
「いいわけはわが嫁の前でしろ。
ららー。
わが嫁が後輩を連れてこいと要請したのだ。わたしはそれに逆らえぬ。逆らいたくもない。
らららー……」
「ちょ、待って……相変わらず、強引な……」
「あ……らら?
姐さんがなんか濃い人に腕を引かれて……。
って、惚けて見ている場合ではないな。
なんか知り合いっぽいし、危険はなさそうだけど……。
姐さん姐さん。
その方は、お知り合いですかい?」
「大学時代の先輩だ。
より正確にいうなら、わたしと同じ学部の先輩だった人の、配偶者だ。
当時から暑ぐるしい男と冷酷そうな女のでこぼこカップルといわれていてだな、いつ別れるのかと仲間内で賭けの対象にもなっていたのだが……」
「その賭けを率先して主催していたやつがいうな。
おかげさまで別れもせずそのままずるずると結婚、半年前には男子まで無事に出産した。
ひさしいな、後輩。
ここまできて挨拶もせずに素通りとはいい度胸だ」
「丁寧な挨拶いたみいります。
遅れましたが、世継ぎの王子様のご出産、おめでとうございます」
「ああ。血をつなげるのも王族の義務だのなんだのと周囲にせっつかれていたからな。義理を果たせて、まずは一安心だ。
ところで後輩、送った論文の写しは読んだか?」
「はい。たいそう勉強させていただきました。
例の魔法実験の賭場を整備する際にも、おおいに参考になりました」
「らららー。
あの賭場、なにげに凄いよな。
お前、魔法通信網の整備、しただろ? そうでないと、掛け金の変動をリアルタイムで計算できない」
「はい。王都中をぐるりと包むように」
「らららー。
魔法使いは貴重だからな。
一時的に、とはいえ、それが出来るくらいの人数を押さられたのがすごいよな。その分、金も入り用だったと思うが……」
「後輩。
今回の件、動いた金は大きいが、必要経費を考えると、お前のことろ的にはよくてとんとん、下手すると持ち出しになったのではないのか?」
「はい。収支的にはそんなものですが……かわりに、大手商会様や王族の方々との繋ぎもとれ、この場に招待されるていどの社会的な信用を得られたのが幸いです。
それに、大規模広範囲の賭場を開くノウハウも、蓄積できました。
今回は王都周辺がせいぜいでしたが、今後はもっと広範囲な賭場を用意したく」
「やっぱり、やるか。
お前ならそういうと思っていた」
「なに? 例の持ち合い株がどうたらとかいうはなし?
大きな戦がなくなって四十年。おかげで、人と金がだぶつき気味なんだよな。金持ちはよい投資先を探しているし、ちまたには仕事を探している若者たちがうようよしている。
民間からまとまった金を集めるシステムが、それも、全大陸規模で作れるんなら、うん、それは是非にでもやってもらいたいね。
うちの国でも金さえあれば開墾できる土地がまだまだ余っているし、水回りやらなんららに手を回せば生産性があがる場所もたんとあるんだから」
「こちらの方は?」
「義理の弟御だ。うちの第ニ王子だな。
こちらは、その嫁御だ」
「あら、義姉様のお知り合いの方ですか? ああ。王立学院の。
難しいおはなしはよくわかりませんけど、どうぞ、ゆっくりしていらしてね。
うちの人は自分の専門分野のことになると口数が多くなりますけど、適当に聞き流してやってください。
あっ。お茶をどうぞ。そちらのおつきの方も、遠慮なく」
「あ。これはどうも、ご丁寧に。
では遠慮なく、ご相伴に預からせていただきます」
「失礼ですが、第ニ王子様のご専門は?」
「学院では植物関係を専攻してたけど、今は農政全般って感じかな?
農地の整備やも品種改良はもちろんだけど、出来た作物の輸出とかにも口を出してる」
「なるほど。では、相場関係なんかも?」
「穀物の相場は、今もいくつか局地的にやっているところがあるみたいだね。リスクヘッジ的にみると、ああいうのは必要だと思う。
ただ、うちの場合、食料に関しては国内での消費量も半端ないからなあ。ようやく自給自足できているかな? って感じで。最近になってようやく人口を養えるくらいの収穫量が確保できてきて、これからは、それに加えてそれ以外の嗜好品とか換金作物も増やしていこうかな、って段階で……。
いずれにせよ、もろもろの金融機関の整備は必要になってくるよ。いや、うちの国だけのはなしだけはないけどさ」
「今ならその辺に目をつけている競争相手は少ないし……やりがいはある仕事だぞ、後輩」
「やりがいもありますが、リスクも大きいですね」
「らららー。
賭場の元締めが、必要以上にリスクを回避してどうするよ。
まあ、実際に手をつけるのなら、うちからも当然、先行投資するしな。
それに、こんな席に招待されているくらいだ。
お前さん、今では、金主の候補には事欠かなくなっているんじゃないのか?」
「今年はおにーさまが一緒でないから、つまんない……」
「ヤバネくんなら、今、場内をかけずりまわっていますねえ」
「宰相様、これは……。
うちの息子、見せ物になっていやしませんか?」
「母上。
この場は、おそれ多くも盟主王家主催の式典会場。
やや変則的な形とはいえ、一種の御前試合のようなもの……と、そのようにみなしてもよろしいかと」
「それでは、これは……不名誉なことでは、ないのですね?」
「奥方様。そちらのご息女がおっしゃられたとおり、この魔法実験、もともと王府直々のお声がかり。不名誉などとはとんでもない。
ヤバネくんはむしろ、お上の要請によく応えているかと思います」
「それにくわえ、今回の場合、難しい判断が必要とされる局面が多々あったと思うのですが……」
「ええ。
ヤバネくんは、今のところ、かなり巧妙に切り抜けていますねえ」
「っしゃあっ!
師範、まずは一勝っ!
そんでもってこれはここまでの原稿っ!
速攻で刷り師さんのところにっ!
ヤンデルくんっ! まだ墨が乾いていないから、気をつけて持っいってねっ!」
「はいっ!」
「……すいませんね、どうも。
せっかくお招きいただいたのに、うるさくして……。
うちの姉、原稿書くとき、どうにもテンションが高くなるもんで……」
「だってもう、この席、最高だよっ! 会場の真ん前だよっ!
宰相様、どうもありがとうございますっ!
この臨場感を伝えるためにも、がんばっていい原稿書きますっ! 書かせていただきますっ!」
「で、結局、優勝は帝室の娘、かいの。
予想通りで、なんとも面白味のない結末じゃのぉ。
ほっ。
で、うちのはねっかえりが、それに挑みたい、と……。
ふむ。
式典の余興としては、悪くない。
おそらく、魔女あたりの入れ知恵がじゃろうが……。
ほっ。
いいじゃろ。
はねっかえりが勝てればわが王室の威光いやまし、負けてもあれにはいい薬になる。
どっちに転んでも、こちらは損をせぬ算段じゃ。
せいぜい、盛り上げておやりなさい」




