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天に咲く島  作者: 林 ちい
星祭り、の日。
4/7

(2)

「ええ~!? 意地悪言わないでよ、リューリック!」

「おい。食いながら喋るなといったばかりだろうがっ」


 そして私の強い理性に感謝しろ。

 私は此処に来てから女に触っていない。

 村の女の誘いにものらなかった。

 自分で自分を褒めてやりたいくらいだ。


「んぐぐ……はぁ~い。ほら、お口からっぽ! チャキアいい子にして素敵な‘れでぃー‘になるから16になったらお嫁さんにしてね! 約束だよっ!?」

「ああ。16になったらな……チャキア」

「リューリッ……んっ」


 チャキアの口に、『約束』をしてやる。

 蛙を食っていた口に。

 蛙に触れていた唇に。


「……‘約束‘だ」


 キス?

 キスなんかじゃない。


 これは、約束。


 この時。

 私は絶対に目をつぶってはいけない。


「うん!」


 彼女がまだ13才の少女なのだと忘れぬように。

 軽く触れ、すぐに離れる。


 それを数度、繰り返す。


 貪りたくなる衝動を、数で誤魔化す。


「……ガゥ!」


 無意識にチャキアを引き寄せようと動いてしまった私の左手を、鋭い爪を持ち、毛に包まれた大きな手が抑えた。


「あぁ、すまん」


 助かった。

 今、少々まずかったな。

 もっとしっかりしてくれ、よ。


「あ! お母さん、お帰りなさい。見回り、お疲れ様~!」


 チャキアの‘お母さん‘は、人間ではない。

 猛獣。

 種類で言うならば虎だ。

 私の国ではその毛皮の美しさゆえに乱獲され、ずいぶんと数が減った動物。


 ここでは神の使いと崇められる聖獣。

 聖獣?

 見た目はただの虎だ。

 大きさも、これならば標準の範囲内だろう。


 私が兄の命で仕留めたあの虎は、これの倍はあった。


 だが、確かにこれは普通の‘虎‘ではない。

 なにより、この個体は知能が高い。

 喋りださないのが不思議なほどに。


「お母さん、蛙おいしかったよ! え? キキの実が食べごろだったの!? うん……うん、わかった。明日一緒に採りに行くね」


 チャキアは不思議な娘だ。

 植物や獣と会話し、嵐の襲来を村人に教え。

 失せモノを言い当てることも出来る。

 この島の人間は、そんなチャキアを生き神扱いだ。


 精霊信仰の息づく、この島……<天領ティン>。

 幾つかの島からなるこの国の王都は、都島(セン)という島にあるらしい。

 チャキアの島には三つの集落があるだけで、役所も図書を閲覧できる施設も無い。

 村人も読み書きが出来るものは半分以下。

 情報が得にくいどころか、手に入らない。

 私に言葉と文字を教えた祭司は1ヶ月前に都島センに行くと言って島を出て、もどってこない。

 祭司は言った。

 都島センの何者かが、チャキアをこの島から連れ出そうとしていると。


 チャキアはこの島から出る気など全くない。

 本人がそう言っている。


 チャキアに意に反し、無理やり連れ出そうとするならば。


 抗うまでだ。

 全力で。


 この私が。

 全ての力(・・・・)で。




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