第17話 激情の片鱗
空気が変わる。
張り詰めた迷宮の緊張とは別の、もっと濃密で、逃げ場のない圧力。
蒼真は反射的に顔を背け、神崎の胸を突き離そうとした。
「……や、めろっ!」
強く押す。
だが、びくともしない。
むしろ────、
神崎の白い指が、さらに強く肩へ食い込んだ。
(そうだった、こいつ腕力ゴリラなんだった──!)
なんとか逃げようとした瞬間、両手首を掴まれる。
片手でかるく一纏めにされ、蒼真の両手はそのまま頭上の壁へ押し付けられる。
ドン、と鈍い音。
「……っ、離せ!」
蒼真は本気で振りほどこうとする。
だが力の差は歴然だった。
たやすく抑え込まれる。
壁と神崎の体に挟まれて、完全に動きを封じられた。
もう片方の手が顎を掴んだ。
無理やり視線を上げさせられる。
神崎の整った顔が近い。先ほどよりも眼の縁が紅くなっていた。
白い頬に付いた血はもう、黒く乾いている──。
これまでの抵抗で早くも息が上がっている蒼真と違い、神崎は息の一つも乱さずに言う。
「じっとしてろ」
「ふざっけんな……!」
蒼真は睨み返す。
その瞬間だった。
また、唇が重なる。
さっきよりも荒い。
ぶつかるような口付けだった。
蒼真は顔を背けようとするが、顎を固定されていて逃げられない。
さらに息が乱れる。
「……んっ、やめ……っ」
なんとか顔を捩って出た言葉が途切れる。
始まったのと同じように、ふいに唇が離れたからだ。
蒼真が荒く息を吸う。
その隙を与えるためだけの、間。
次の瞬間、また塞がれる。
「────っ、……ぅ、ん……っ」
大きく口を開けたためにさっきよりずっと深く、唇と舌を貪られる。
動揺と酸欠で、蒼真の視界が揺れる。
拒むほど、深くなる。
まるで、絶対に逃がさないと決めていたように。
とっさに指が神崎の黒い袖の裾を掴んだ。
押し返すためだったはずなのに、いつの間にか力が揺らいでいる。
混乱。
怒り。
それなのに────、
完全には拒みきれない自分に気づいて蒼真は愕然とした。
神崎はそれを見逃さなかった。
さらに距離を詰める。
二人の距離が完全に消える。
逃げ道を潰すように。
「……まあまあだな」
漸く、唇が離れる。
最後に蒼真の唇をぺろりと舐めて、神崎は言った。
何も耳に入らない様子の蒼真が肩で激しく息を吸う。
喘ぐ顔を見下ろして、神崎はいつも通りの落ち着いた声で言った。
「大丈夫か」
「な……っ、……っだ、……お……っ」
誰のせいでこうなったと思ってるんだ。
言ってやりたいが息が追い付かない。
視界が瞬いて、くらくぼやけてゆく。
やがて────完全に、蒼真の全身が力を失った。
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