第42話 再断罪の火種
王宮議会は、久しぶりに満席だった。
再編が始まって以来、議題は数字と報告が中心で、討論は減っていた。
だが今日は違う。
「議題追加を申請する」
アルベルト・クラウスが、静かに立ち上がった。
声は穏やか。
敵意は見せない。
「再編政策に関する、公開説明の場を設けるべきだ」
ざわめき。
「説明は既に行われている」
老貴族が言う。
「書面で、だ」
アルベルトは首を横に振る。
「民衆に対してではない」
その一言が、空気を変えた。
「我々は、契約国家を名乗る」
ゆっくりと続ける。
「ならば、契約の過程を公開すべきではないか?」
正論だった。
誰も即座に否定できない。
「再編は成功している。
それは認める」
アルベルトは、あえて評価する。
「だからこそ、正当性を示すべきだ」
――公開審問。
その言葉はまだ出ない。
だが意味は同じだ。
王太子レオンハルトは、静かに聞いていた。
「目的は何だ」
低く問う。
「透明性の確保」
即答。
「それ以上でも以下でもない」
嘘ではない。
だが真実でもない。
議場の視線が、自然とアリシアへ向く。
彼女は、動かない。
「……意見はあるか」
国王が問う。
沈黙。
やがて、軍代表が口を開く。
「公開は、混乱を招く可能性がある」
「隠す方が混乱を招く」
アルベルトが即座に返す。
議論は続く。
だが焦点は一つ。
――ヴァレンシュタインは、説明できるのか。
休会後。
廊下でレオンハルトが言った。
「罠だな」
「ええ」
アリシアは即答する。
「説明の場を与えれば、
質疑が断罪に変わる」
「拒否すれば?」
「独裁」
どちらでも、旗は立つ。
レオンハルトは、静かに息を吐いた。
「受けるべきか」
アリシアは、わずかに考えた。
「受ける」
「本気か」
「ええ」
迷いはない。
「公開で、やりましょう」
レオンハルトは、彼女を見る。
「叩かれるぞ」
「当然よ」
アリシアの声は、静かだ。
「叩かれるのは、私」
「……」
「あなたではない」
その言葉に、重みがある。
夜。
アルベルトの屋敷。
「王宮は、応じる構えです」
側近が報告する。
アルベルトは、満足そうに頷いた。
「よろしい」
「公開の場で、失言を引き出しますか」
「いや」
彼は、首を横に振る。
「失言など不要」
目的は別にある。
「“疑問が残った”という印象を作る」
それだけでいい。
完全な否定は不要。
疑念は、種だ。
王都の街では、噂が広がる。
「公開審問らしいぞ」
「悪役令嬢が説明するらしい」
期待と不安が混じる。
一方、教会。
イグナスは、静かに報告を受けた。
「公開の場……」
彼は目を閉じる。
「人の理が、神の前に立つ」
静かな笑み。
「興味深い」
王宮の執務室。
マティアスが、低く言う。
「本当に、大丈夫でしょうか」
アリシアは、書類を閉じた。
「大丈夫ではない」
即答。
「でも、必要」
再編は、成果を出した。
だが正当性は、まだ試されていない。
「これは、二度目の断罪」
彼女は、静かに言う。
「ただし今回は、感情ではなく理屈」
そして。
「私は、逃げない」
王都の空に、静かな緊張が満ちる。
火種は、はっきりと形を持った。
――公開審問。
それは、再断罪の別名だった。
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