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断罪されたので、裏から王国を乗っ取ります  作者: 早乙女リク


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第39話 失われた特権

 王都南区の貴族街。


 再編以前ならば、毎晩のように舞踏会や晩餐が開かれていた屋敷は、今は静まり返っている。


「……収入が三割減だ」


 男は、帳簿を閉じた。


 アルベルト・クラウス。


 中堅貴族であり、地方税の徴収管理権を持っていた家の当主。


 再編により、その権限は王宮へ統合された。


「正確には、正規の報酬になっただけだ」


 向かいに座る貴族が言う。


「これまでが、曖昧すぎた」


 アルベルトは、静かに笑う。


「曖昧であることが、柔軟性だった」


 権限とは、金だけではない。


 融通。

 貸し借り。

 恩義。


 それらが、一斉に消えた。


「ヴァレンシュタインは、数字しか見ていない」


 アルベルトは、紅茶を口にする。


「だが政治とは、数字ではない」


「では何だ」


「関係だ」


 即答だった。


「人と人の、見えない糸だ」


 再編は、その糸を切った。


 効率は上がった。

 だが、古い繋がりは断たれた。


「不満は増えている」


 別の男が、低く言う。


「表に出ていないだけで」


 アルベルトは、静かに頷く。


「だから焦るな」


「焦るな?」


「正義は、時間が経てば疑われる」


 彼は、ゆっくりと立ち上がる。


「整いすぎた国は、息苦しい」


 その感情は、理屈ではない。


 だが、確実に広がる。


 一方、王宮。


「貴族街の寄付額が減少しています」


 マティアスの報告に、アリシアは眉一つ動かさない。


「想定内」


「抗議文は?」


「まだ公式なものはありません」


 “まだ”。


 レオンハルトは、静かに言った。


「彼らは、正面からは来ない」


「ええ」


 アリシアは、書類を閉じる。


「世論を使う」


 数日後。


 王都の新聞に、小さな論説が掲載された。


『急激な統制は、文化を損なう』


 名は伏せられている。


 だが文体は洗練され、

 読者の不安を巧みに刺激する。


「最近、決まりが増えすぎていないか?」

「王宮は、地方の声を聞いているか?」


 直接的な批判ではない。


 疑問形。


 それが、厄介だった。


 酒場で、その話題が出る。


「別に困ってはいないが」

「なんとなく、窮屈だ」


 具体的な不満はない。


 だが、感情は揺れる。


 一方、教会。


 大司祭イグナスは、穏やかな説教を行っていた。


「秩序は、神が与えしもの」


 声は柔らかい。


「人が作る秩序は、時に傲慢となる」


 名指しはしない。


 だが、誰のことかは分かる。


 その夜。


 レオンハルトは、執務室で独り考えていた。


「……整えすぎたか」


 扉が開き、アリシアが入る。


「整っていることは、罪ではない」


「だが、反発が生まれている」


「当然よ」


 彼女は、静かに言う。


「特権を失った者は、正義を疑う」


 レオンハルトは、彼女を見た。


「どうする」


 アリシアは、即答しなかった。


「何もしない」


 意外な答えだった。


「小さな不満に反応すれば、

 それが正当化される」


 火種は、まだ小さい。


「彼らは、理由を探している」


 レオンハルトは、低く問う。


「理由とは」


「再断罪の理由」


 静かな言葉。


 空気が、冷える。


「……また、か」


「今度は感情ではない」


 アリシアは、淡々と言う。


「理屈と世論」


 前回より、厄介だ。


 廊下の窓から、王都の灯りが見える。


 整然としている。


 だがその整然さが、

 どこか人工的に感じられる夜だった。


 失われた特権は、

 静かに牙を研いでいる。


 まだ、表には出ない。


 だが確実に。


 悪役令嬢という名は、

 再び、利用されようとしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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