表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪されたので、裏から王国を乗っ取ります  作者: 早乙女リク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/30

第11話 代替の任命

 王宮に集められた貴族たちは、どこか落ち着かない様子だった。


 断罪裁判から日が経ったとはいえ、空気はまだ澱んでいる。

 混乱は収まったように見えて、実際には形を変えただけだ。


「本日より、新たな臨時調整官を任命する」


 王太子レオンハルト・アルヴェインの声が、会議室に響く。


 その言葉を待っていた者は多い。

 誰も口にはしないが、全員が同じことを考えていた。


 ――空席は、長く放置できない。


「エドガー・ラインフェルト卿」


 名を呼ばれ、一人の男が前へ出る。


 四十代半ば。

 派手さのない服装。

 しかし立ち居振る舞いには、長年官僚として積み上げてきた経験が滲んでいた。


「財務・商会・軍需の調整を一時的に担ってもらう」


 エドガーは一礼する。


「身に余る任を拝命いたします」


 声は落ち着いており、緊張を表に出さない。

 その様子に、会議室の何人かは安堵した。


「彼なら、大丈夫だろう」

「少なくとも、暴走はしない」


 囁きが広がる。


 ――無難。

 それが、彼に与えられた最大の評価だった。


 レオンハルトは、周囲の反応を確認しながら続ける。


「状況は厳しい。だが、拙速な判断は避けねばならない」


 その言葉に、多くの貴族が頷いた。

 正論だ。誰も反対できない。


 エドガーは、静かに口を開く。


「まずは現状の把握から始めます。

 市場、軍、教会――それぞれの要望を整理し、優先順位を付ける必要があります」


「もっともだ」


 老貴族グスタフ・ヘルマンが満足そうに頷く。


「拙速な改革は混乱を招く。

 まずは安定だ」


 改革派のクラウス・ヴァイツも、腕を組んだまま口を開いた。


「迅速さも必要だが……慎重さを欠いてはならない」


 誰もが正しいことを言っている。

 その光景に、レオンハルトは小さく息を吐いた。


 ――これで、回るはずだ。


 彼は、そう信じようとした。


 会議は滞りなく進んだ。

 意見は整理され、議事録は美しくまとめられる。


 だが。


 決定事項は、何一つ増えていなかった。


 会議の終わり。


 エドガーは深く一礼し、退出する。

 その背中を見送りながら、誰かが呟いた。


「これで、ようやく落ち着くな」


 別の者が応じる。


「ああ。代わりは、ちゃんといる」


 その言葉は、安心を求める呪文のようだった。


 一方、地方都市の宿。


 アリシア・フォン・ヴァレンシュタインは、マティアスから届いた短い報告に目を通していた。


 ――臨時調整官、任命。


 彼女は紙を折り畳み、机に置く。


「代替、ね」


 呟きは、どこか柔らかい。


 マティアスは、慎重に様子を窺う。


「優秀な官僚です。

 能力だけで言えば、申し分ありません」


「ええ」


 アリシアは否定しなかった。


「能力はあるわ。

 だからこそ――失敗する」


 マティアスは、何も言わない。


「彼は、正しい判断しかしない」


 アリシアは紅茶を一口飲み、静かに続けた。


「そして政治は、正しさだけでは回らない」


 彼女は窓の外を見る。


「代替が立った瞬間、人は安心する。

 安心した人間は、考えるのをやめる」


 それは予言ではない。

 ただの経験則だった。


「……何か、動かれますか」


 マティアスの問いに、アリシアは首を振る。


「いいえ。何もしない」


 即答。


「今は、見ていればいい」


 王都では、代替が任命されたことで、皆が「最悪は回避された」と思い始めている。


 ――それが、最も危険な状態だというのに。


「正しい人が座った席ほど、世界は静かに壊れるのよ」


 アリシアは、そう締めくくった。


 王国は今、

 “安心できる間違い”を選んだばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ