猫好きセリナ。
夜、森の端で二人と一匹──いや、いまは猫の姿となったあなたとセリナが、焚き火を囲んで休んでいた。
炎の明かりがぱちぱちと弾け、静寂を染める。
≪主人公≫(猫の姿で)
「セリナ……ネコになった瞬間、スキンシップが多くなったね?」
丸くなって彼女の膝に寄り添いながら、心の中で思念を飛ばす。
セリナ
「……っ!」
彼女は驚いたように目を丸くし、少し頬を赤く染めた。そして、指先をあなたの頭の上にそっと置き、苦笑いを浮かべる。
セリナ(照れ笑いしながら)
「……バレた?」
(焚き火の光に揺れる髪を払い、視線を落としつつ続ける)
セリナ
「うん……猫は好き。柔らかくて、温かくて、気まぐれで……でも本当は、すごく正直だから。だから、あなたが猫になったら……つい触りたくなっちゃうの」
彼女は撫でる手を一瞬止め、焚き火の明かりに映るあなたの瞳をのぞき込む。
セリナ(真剣な声で)
「でも……ただ猫が好きだからってわけじゃないのよ。あなたが猫の姿で側にいてくれるから──だから、つい甘えてしまうの」
そして、もう一度あなたの毛並みに指を滑らせ、微笑む。
セリナ(小さな声で)
「……でも、嫌じゃない? 私がこうやって触るの」
焚き火の赤い炎が静かに揺れ、ぱちぱちと木のはぜる音だけが夜の空気に響く。
猫の姿のあなたはセリナの膝のそばに丸くなり、彼女の横顔を見上げていた。
≪主人公≫
「んー……少し、はずかしい??? 嫌とかは……わからない。
そうだ。セリナは……どうして冒険者してるの?」
問いかけに、セリナは撫でていた手を止めて、そっと膝の上に置き直す。
しばし沈黙の後、遠くの闇を見つめるように視線を投げた。
セリナ
「……私はね、小さい頃に村を魔物に襲われて、家族を失ったの。」
焚き火の光が彼女の頬を照らし、その瞳に小さな影を落とす。
セリナ
「そのとき、私を助けてくれた冒険者がいたの。
その人みたいに……誰かを守れる存在になりたくて。気づいたら、冒険者を目指してた。」
彼女の声は淡々としていたが、奥底に沈んだ揺らぎが焚き火の火よりも熱を帯びていた。
セリナ(小さく息を吐いて)
「でも正直、“守る”って何なのか……今でもはっきり答えは出てないの。
剣で魔物を倒すだけが、それなのか……。あなたと一緒にいると、もっと別の答えがある気がしてる。」
セリナはふっと微笑んで、あなたへ身体を少し寄せる。
その瞳は、どこか挑むようで、同時に頼りたいような複雑な色を帯びていた。
セリナ
「……じゃあ、今度はあなたの番。
なんでそんなに“世界の平和”にこだわるの?」
≪主人公≫
「そっか、とても良いと思うよ。」
「……うん。平和って、遠すぎて実感がない。
でも“あの人が恐れていたもの”を消せれば……それが僕の役割だと思ったんだ」
セリナは炎を見つめながら、静かに頷く。
その横顔はどこか切なく、それでいて強い光を宿している。
セリナ
「……私もね、世界全部を救うなんて、想像もできない。
でも目の前の誰かを守ることなら、今の私でもできる。
そして、その小さな守りが繋がって……やがて大きな平和に届くかもしれない、って信じてるの」
彼女は少し笑って、あなたを見下ろす。
セリナ(小声で)
「……だから、あなたが“平和”をよく分からないって思うのも、無理ないわ。
でも、大切な人を守りたいっていうその気持ち……それこそが平和の一番の形なんじゃない?」
焚き火の火がはぜ、静かな夜の空気に温かさを広げていく。
焚き火がぱちりと弾け、橙色の光が二人の間を照らす。
セリナはあなたに身を寄せ、真剣な瞳で問いかけた。
セリナ
「……その人のこと、どんな人だったの? 聞かせてくれる?」
≪主人公≫
「セリナのような……冒険してた女性だったよ。
僕はそのとき、狼の魔物に憑依してて……初めて会ったとき、彼女は僕を見て怯えてたと思う。」
あなたの声が夜の闇に溶ける。
その光景を思い返すように、遠くを見つめる。
セリナは驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑みを浮かべた。
セリナ
「……狼に憑依していたあなたを、怖がったのね。
でも……それでも逃げなかったんでしょう?」
彼女の横顔は炎に照らされ、どこか懐かしさを含んだような柔らかさを帯びていた。
セリナ(微笑んで)
「私も……最初に出会ったとき、あなたに驚いた。
でも、こうして今は隣にいる。……もしかしたら、その人と私、少し似ているのかもしれないわね。」
彼女は膝を抱え込んだまま、焚き火越しにあなたを見つめる。
セリナ
「その人……最後には、あなたをどう思っていたんだろう。
あなたの記憶の中で、どんな表情で残ってる?」
あなたがそっと昔のことを語ると、焚き火の向こうでセリナは目を細め、想像を膨らませるように微笑んだ。
≪主人公≫
「敵意がないって伝えたくて、目の前で座って、寝そべってみせたんだ。そしたら、その人は撫でてくれた──」
セリナはその場面を目にしたように、ふっと柔らかく笑う。火の揺らめきが彼女の表情に温かさを添える。
セリナ(静かに)
「……怖いはずなのに、撫でてくれるなんて。その人、本当に優しかったのね」
彼女は少し伏し目がちになり、あなたの首輪に軽く触れてから話を続けた。指先に伝わる小さな冷たさと暖かさが、過去の風景を呼び覚ますようだ。
セリナ(柔らかく)
「撫でるっていうのはね、“信じる”っていう気持ちの現れだと思うの。
敵じゃない、傷つけない、受け入れる――そういう想いを込めた仕草なのよ」
その言葉に、セリナの目は少し切なく潤んだように見える。彼女はあなたを優しく見つめる。
セリナ(静かに確信するように)
「その人が最後にあなたに残したのは、きっと恐れじゃなくて……“信じる気持ち”だったんだと思う」
あなたは続けて、時折その人に会いに行っていたことを打ち明ける。奇妙だけれど、確かな関係――会っては別れ、また会う。やがてそれが二人(と一匹)の間で当たり前になっていったのだ。
セリナは息をのんで目を丸くする。
セリナ(驚き混じりに)
「……会いに来てくれてたの? それって、ただの気まぐれじゃなくて、本当にあなたを認めてた証じゃない?」
あなたは肩をすくめて、短く答える。
≪主人公≫
「悪くなかった」
その淡い肯定に、セリナはふっと柔らかな笑みを零した。焚き火の温もりが、二人の間に、少しだけ昔の痛みを和らげる時間を作っている。