ご挨拶
怜が、日向の両親への挨拶に行きます。
パートナーシップ制度を利用することと決めた日向と怜。
「結婚とは異なるとはいえ‥‥事前に伝えるべき人には伝えた方がいいだろう」と怜が言う。
となるとまずは‥‥
「お兄ちゃんいきなりどうしたのー? 女子高生は忙しいって言ってるじゃん」
週末に、日向の妹の菜穂が家に来てくれた。
「いらっしゃい、菜穂ちゃん」
怜がランチにパスタを準備してくれていた。
「うわぁー美味しそう! ま、おじさんの料理が食べられるならいっかー♪」
パスタを夢中で食べている菜穂。
少し落ち着いた所で、日向は菜穂に話をする。
「菜穂には最初に話しておこうと思ってて、今日来てもらったんだ」
「ん? どうしたの?」
「僕と怜さんは‥‥恋人同士なんだ」
シーン
菜穂の動きが止まった。
「‥‥そういう人、ほんとにいるんだ」
高校生になったとはいえ、まだ大人ではない。自分の恋愛経験もそこまでなさそうな菜穂である。やはり驚きを隠せないようだ。
「それで、僕達パートナーシップ制度でパートナーであることを届け出る予定なんだ。日本では同性婚はできないけれど、パートナーシップ制度があって」
「そうなんだ‥‥」
怜も話す。
「急にこんな話して驚かせちゃってすまないよ。だけど、世の中にはこういう人達も一定数いるんだ。俺とひなも、実際は今まで通りかもしれないが家族になりたくてな」
「おじさん‥‥あたしは前からお兄ちゃんの家族はおじさんだなって思ってたよ。年が離れているから2人がその‥‥付き合ってるとかパートナーっていうのは‥‥まだピンと来ないけど。正式に家族になるってことなら、それはお祝いしたい」
「菜穂‥‥ありがとう」
「お兄ちゃん‥‥あたしのこと忘れないでね」
「え? 忘れるわけないって‥‥いつでも菜穂はうちに遊びに来てもらっていいんだから」
「うん! あ‥‥でも急に呼び出すのは控えてね。あたしも予定あるんだから」
「フフ‥‥わかった」
「ひなのご両親にもご挨拶に行った方がいいとは思うけど‥‥」と怜。
「そうだよね‥‥」
「ただ、あの家では色々あったと思うから‥‥ひなが辛ければ俺一人で行くから」
「怜さん‥‥」
母親の再婚相手である義理の父親のことは今でも怖い。母親だって‥‥僕のことをどう思っているのかわからない。
でも‥‥
「僕‥‥両親のところに行く」
「大丈夫か? ひな‥‥」
「お兄ちゃん! そういうことなら、あたしがついてるから」と菜穂が言う。
「菜穂‥‥いいの?」
「あたしに任せて。前に比べたらお父さんもお母さんも、あたしの言うことを聞いてくれるようになったから」
「菜穂ちゃん、頼もしいな」と怜。
「じゃあ日程を決めないとね、怜さん」
「そうだな、連絡は俺からしておくよ。ひなのお父さんには店の資金のことで、これまでも連絡を取っていたから」
「ありがとう、怜さん‥‥」
挨拶しに行くと言ったものの‥‥日に日に緊張感が増していく。
夜にベッドで日向が不安そうに怜にしがみついていた。
「ひな‥‥大丈夫だよ。俺がついてる」
「怜さん‥‥」
「今の状況が変わることはないんだから‥‥」
「そうだよね‥‥」
「俺だって心配だな、いきなりおじさんが来て『息子さんをください』みたいな感じだろう?」
「ハハ‥‥本当だ‥‥笑ったらお腹痛くなってきた」
「おい、笑いすぎだって」
「でもさ、もうすでに一緒に住んでるからさ、あの両親にとっては『もう差しあげたつもりです』みたいな感じじゃない?」
「フフ‥‥何なんだそのやり取り‥‥」
これから挨拶に行くというのにベッドで2人が笑っている。
「怜さん‥‥何だか大丈夫な気がしてきた」
「そうか‥‥それなら良かったよ」
※※※
そして、日向の両親に挨拶に行く日となった。
この家を出たのが5年程前になる。
「はぁ‥‥5年ぶりか‥‥」
いよいよということで‥‥日向はやはり緊張しているようだ。
「ひな‥‥」
怜が日向の手をぎゅっと握ってくれた。
「怜さん‥‥」
大丈夫だって怜さんも言ってくれたんだから‥‥行かなきゃ。
日向の母親の留美が迎えてくれた。
「こんにちは、ご無沙汰しております」と怜。
「どうぞ、お上がりください。日向‥‥久しぶりね」と留美が言う。
「母さんも元気そう」
「そうね」
奥のリビングへ案内された。ソファに日向の義理の父親の耕造が座っている。
耕造の姿を見て反射的にびくっとしてしまう日向。怜が日向の背中に優しく手を添える。
「お兄ちゃん! おじさん!」と菜穂も来てくれた。
菜穂がいると少しホッとする日向である。
そして‥‥怜が覚悟を持って話す。
「今日はありがとうございます。私は、5年前に日向さんと一緒に住むようになる前から、日向さんとは真剣にお付き合いさせていただいております」
留美と耕造は驚くものの、そこまで表情は変わらない。
「それで‥‥パートナーシップ制度で今後はパートナーとして、日向さんと一緒になることができればと思います」
留美は耕造の方を見る。すると耕造が話し出した。
「日向がここを出た時から、君達には好きにしてくれたら良いと思っていたが‥‥そういう仲だったのか」
「お父さん、今は同性カップルもいるんだよ。怜さんといるお兄ちゃんは、いつも笑っている。だからお兄ちゃんには幸せになってほしいの」
「菜穂‥‥そうだな。もう我々が口出しすることではないな。私は同性のそういった話にはあまり詳しくはないのだが、お祝いはさせてもらうよ」
「父さん‥‥ありがとう」と日向が言う。
「怜さん、日向をこれからも‥‥よろしくお願いします」と留美。
「こちらこそ、よろしくお願いします」と怜。
一通り話が終わったところで耕造が日向に言う。
「日向、これまですまなかったな」
「えっ父さん‥‥」
「幸せにな」
それだけ言って耕造は部屋に戻って行った。
「日向‥‥私もごめんなさい。お幸せにね」と留美。
「ありがとう、母さん」
菜穂が玄関まで来てくれた。
「ね? お父さんとお母さん、ちょっとマシになったでしょ?」と菜穂がドヤ顔で言う。
「本当だ‥‥菜穂のおかげだよ」
「お兄ちゃん、思春期に入った娘にはね、弱いんだよ‥‥お父さんっていうのは」
「フフ‥‥そうなんだ」
「あ! ということはさぁ‥‥おじさんはあたしのお兄さんになるの?」
「え? 怜さんが‥‥?」
日向は怜の方を見る。
「お兄さんって呼んでもらえるなんて、若返ったみたいだな」と怜。
「いや、呼び方は別。おじさんはおじさんだわ」
「菜穂ちゃん‥‥そうだよな、ハハ」
「これからも仲良くするんだよ! お兄ちゃんとおじさん」
菜穂にそう言われて、頷く2人であった。
帰り道、日向はすっかり安心した表情である。
「怜さん‥‥ありがとう」
「こちらこそ。大丈夫だっただろう?」
「そうだね、思ったよりも‥‥スムーズだったね」
「色々あったけれど‥‥日向の幸せを願ってくれているんだよ」
「うん‥‥」
これから僕達はパートナーになる‥‥家族になる‥‥もう恋人じゃなくて夫婦みたいな、それ以上の関係なんだ‥‥
「嬉しい‥‥怜さん!」
日向が怜と腕をぎゅっと組んで寄り添う。
「幸せにするから‥‥ひな」
「僕も‥‥怜さんを幸せにする‥‥!」




