遊びに行こうか
日向と怜がいつも通りに過ごす。そして日向が翼のために思いついたことは‥‥
週明け、怜の店では裕子が気を遣っているのか必要最低限の会話のみをするようになった。
私は怜さんに甘え過ぎてしまったわ。つい翼のことを考えて‥‥というのは言い訳に聞こえるかもしれない。優しい怜さんに少しずつ惹かれていたのは事実。恥ずかしいわ‥‥まさか恋人がいらっしゃったなんて。
そう思いながらもテキパキと業務をこなしてランチ営業が終了した。
「お疲れ様でした」と裕子が帰ろうとしたところ、
「待ってください。裕子さん。少しお話しできませんか」と怜が言う。
「大丈夫です。時間ありますので」
「俺には恋人がいるのに、裕子さんや翼くんと一緒にいることで、誤解をされてしまいました。裕子さんにもご迷惑をおかけしたと思っています」
「いえ、元はといえば私が翼に怜さんを会わせてしまったからです。怜さんに甘え過ぎてしまい、申し訳ありません」
「いや、俺が翼くんと遊びたいなんて言うから‥‥自分のことしか考えていませんでした」
「いえ‥‥私も翼に言い聞かせないといけなかったのです‥‥」
お互い申し訳なさそうにしている2人。
「そういうことなので‥‥もう翼くんとは公園には行けないのですが‥‥」
「もちろんです、気になさらないでください」
「いきなり俺が来なくなるのも申し訳なくて‥‥少し考えさせてもらえませんか」
「え‥‥?」
※※※
日向も週明けは元気そうにしていたため、陽菜はホッと一安心といった感じである。
昼休みに日向が尋ねる。
「あの‥‥陽菜さん、怜さんのお店に行ったの?」
「え? あ‥‥はい。どうしても日向さんのお弁当の中身が忘れられなくて」
「そうだったんだ」
「ランチ、すごく美味しかったです」
「うん、美味しいよね。あれは怜さんの考案したメニューなんだ」
「さすがですね‥‥平日の昼だけなのが残念です」
「夜のバーも雰囲気がいいから、お勧めだよ」
「そうですか‥‥」
「ルパン」のバーか‥‥好きな人と行きたかったな‥‥と日向の方を見ながら陽菜が思う。
「日向さんはバーには行ったことがあるのですか?」
「うん、怜さんが僕のためにノンアルコールの飲み物を用意してくれて、よく話しに行ってたなぁ‥‥」
日向の思い出の場所ともいえる夜のバー。あそこで怜さんとたくさん話して、2階にも行って‥‥嬉しかったな。
「ふふ‥‥私もいつか‥‥誰かと一緒に行きたいです」
日向の幸せそうな顔を見ながら、陽菜が言った。日向さんって分かりやすいんだから‥‥怜さんのことが好きですって顔に書いてあるし‥‥まぁ、元気ないよりはいいかな。
※※※
「ただいま」
「おかえり、ひな」
「怜さん‥‥疲れた」
日向が怜に飛びつく。
「フフ‥‥じゃあ夕食にするか」
日向が話をする。
「陽菜さん、僕のお弁当の中身が気になって怜さんのお店に行ったんだって」
「‥‥そうか。俺の恋敵め」
「え? ハハ‥‥単に料理の内容が気になっただけなんじゃない? 平日の昼だけなのが残念だって言ってたし」
「油断ならん‥‥お前に抱きついていたのも許さん」
「ちょっと怜さん‥‥あれは僕が辛そうにしてたから‥‥」
「そうか、俺が原因か‥‥」
「もう大丈夫だから‥‥」
「今回、裕子さんにも迷惑かけてしまったから‥‥翼くんにはせめて最後に何かしてあげたいんだが‥‥」
「怜さん‥‥それならいい方法がある」
「いい方法?」
「ちょっと助っ人を呼ぶから」
「?」
助っ人って‥‥誰だ?
※※※
ある晴れた休日。
「おじちゃーん!!」
「やぁ、翼くん」
「こんにちは。すみません、わざわざ休日にお誘いいただけるなんて」
「いえ‥‥今日で俺と翼くんが会うのは最後なので、このぐらいはさせてください」
3人がいるのは室内のアスレチック施設。
「こんな場所があるとは知りませんでした‥‥楽しそうですね」
「はい‥‥俺も教えてもらいました。もうすぐ来ると思うのですが」
少しした頃に、日向と妹の菜穂がやって来る。
母親と再婚相手との間に生まれた菜穂は、時々兄である日向と過ごすのが楽しみであった。両親のいない間にこっそり日向とこのアスレチック施設に遊びに来たこともあった。
菜穂も日向と遊んでもらうことが好きだったので、翼のことを話して了承してもらった。「怜さんの美味しい料理をご馳走する」と言われたから、のいうのもあるが。当時小学生であった菜穂も今は高校生である。
「こんにちは」と日向と菜穂が挨拶をする。
「菜穂ちゃん、今日はありがとう。翼くんをお願いするよ」
「はーい! 後でおじさんの美味しいごはんを期待してるから♪ 翼くん、初めまして。遊びに行こっか」
「うん! お姉ちゃん!」
菜穂と翼はトランポリンや迷路を楽しんでいる。
「ありがとうございます‥‥わざわざお時間とらせてしまって‥‥」と裕子。
「‥‥お礼なら彼に言ってください。俺の恋人の日向です」
怜が日向を「恋人」と紹介してくれた。
それが嬉しいような恥ずかしいような‥‥ドキドキしながら日向がぺこりと挨拶する。
「日向さん‥‥ありがとうございます」
「‥‥僕も妹の菜穂も、色々と事情があってなかなか一緒に過ごせなかったのですが、このアスレチック施設で一緒に遊んだことを思い出して‥‥翼くんにも楽しんでもらえたらと‥‥」
「そうなのですね」
「僕も遊びたいな‥‥あっちのバーチャルゲームが面白いんだよ! 怜さん、行こうよ」と日向は怜を誘う。
「私はあそこにいる翼を見てきますので」と裕子が言って翼と菜穂のいる方へ向かった。
「これがバーチャルゲームか?」
「ほら、画面の通りに動くんだよ!」
「難しいな」
「ハハ‥‥怜さん面白い‥‥」
「こら、ひな‥‥笑ったな?」
「あとはね‥‥2人対戦でシューティングゲームもあるよ。腕を動かせばいいんだ」
「え‥‥難しい‥‥当たらない」
「やったー! 僕の勝ち♪」
「うっ‥‥ひな、もう一回だけ」
「怜さん‥‥疲れてない?」
「‥‥俺でもできる所を見せてやる‥‥もう一回やるぞ」
「フフ‥‥はーい♪」
結局日向にあまり勝つことのできなかった怜。
「僕も菜穂にボロ負けしたことあるよ、怜さん」と日向に励まされた。
「そうか‥‥反射神経が求められるな‥‥はぁ」
そして菜穂と翼も戻って来た。
「お姉ちゃん、ありがとう! 楽しかった!」
「楽しかったねー! じゃあまたね翼くん」
「本当にありがとうございました」と裕子がお礼を言い、翼と一緒に帰って行った。
「おじさん、お腹空いた」と菜穂。
「じゃあ‥‥うちに行くか」と怜。
菜穂は久々に日向と怜のマンションへ来た。
「はぁ‥‥あそこ楽しいよね。お兄ちゃんと遊びに行ったの今でも覚えてる、お兄ちゃんゲームすごい弱かったし」
「ハハ‥‥そうだったなぁ」
「女子高生は色々と忙しいんだからね? 今日だけだよ」
「うん、ありがとう。菜穂」
テーブルにローストビーフとパエリア、スープなどが並んだ。ローストビーフは昨日から仕込んでいたようだ。
「うわぁー美味しそう!!」と菜穂が大喜びである。
「いただきまーす!!」日向と菜穂がパクパクと食べている。
「お兄ちゃん毎日こんなの食べてるの?」
「え‥‥まぁ‥‥ローストビーフは初めてだけどね」
「いいなーいいなー」
昔と同じように羨ましがる菜穂。
「フフ‥‥ローストビーフ、まだあるからな」と怜が言う。
嬉しそうに食べる日向と菜穂を見て、怜も笑顔になった。




