今日は離れたくない
日向と怜、お互いの気持ちを話します。その後はやっぱりいつも通りでしょうか。
「ただいま‥‥」
「おかえり、ひな‥‥」
まだ緊張感のある中、2人は夕食を済ませてソファに座る。怜が早速話す。
「ひな、すまなかった。俺はお前の気持ちを考えずに‥‥誤解を招く行動を取ってしまった」
「怜さん‥‥」
「それに、従業員から聞いた。陽菜さんは昨日1人でうちのランチに来ていたそうだ。お前と会ったのも偶然だったんだ。信じてあげられなくて悪かった」
「‥‥僕も本当は先にカミングアウトしておくべきだったんだ。そうすれば陽菜さんがあんなことをせずに済んだかもしれない‥‥」
「そういうのは、しんどければ無理にしなくても、自分のペースでいいんだぞ」
「そうだね、もう陽菜さんには言ったから。特に気にしてなかったけど」
「そうか」
「あの公園で3人を見た時、家族に見えたんだよね。僕にはそれが辛かった‥‥怜さんが翼くんのことを考えているのはわかるけど、それってつまり‥‥」
「裕子さんのことか」
「あのお母さんと怜さんとの距離が近く感じたから、僕は苦しくて‥‥怜さんを好きでいいのかわからなくなったんだよ‥‥声をかけることもできなかった。疎外感というのかな。僕が前に自分の家族にされたような‥‥」
母親と再婚相手の義父が妹だけを可愛がっていた、あの状況を思い出してしまったのだった。
「最初は考え過ぎだと思った。もう社会人なのにいつまでこんなこと考えてるんだって‥‥でも、あの時の辛さは完全には忘れられない。またひとりぼっちになるんじゃないかって‥‥怜さんがあのお母さんを選ぶんじゃないかって、ずっと不安だった。それにあのお母さんは怜さんのことをずっと見ていた。2人がとても仲良さそうだったから‥‥嫌だったよ‥‥」
大きな瞳に涙を浮かべた日向が、怜を見つめている。
ここまで追い込まれていたなんて‥‥それもそうだ。自分が何とも思っていなくても、裕子がどう思っているのか、周りにどう見られているのか‥‥俺は何も気にしていなかった‥‥ひなをこんなに苦しめてしまったのだ。
「ごめん‥‥ひな‥‥本当にごめん‥‥裕子さんとの距離感には気をつける。公園にも行かない。ひなのこと‥‥絶対に悲しませない‥‥約束するよ」
怜は日向を抱き寄せる。怜の腕の中で日向は、我慢していた涙が一気に溢れ出すのを感じた。
「うぅ‥‥泣かないって決めたのに‥‥怜さん‥‥怜さん‥‥!」
「前から言ってるだろう? 俺の前では泣いてもいいって」
「怜さん‥‥怜さん‥‥怜さん‥‥!」
「何回言ってんだよ‥‥フフ」
「だって‥‥怜さんが‥‥怜さんが‥‥」
怜は日向の背中をポンポンとして、落ち着くのを待っていてくれた。
あったかい‥‥怜さんの腕の中はやっぱり心地良い‥‥そう思いながら日向は‥‥
スースー
「泣き疲れて寝るって‥‥子どもみたいだな、フフ」
怜は日向の頬にキスをしてソファに寝かせた。
「こんなに俺のことを想ってくれているのは‥‥ひな、お前だけだというのに‥‥たくさん泣かせてしまったな‥‥」
怜が日向の髪を撫でながら言った。
‥‥30分後。
「ひな、そろそろ起きた方がいいぞ」
「ん‥‥あれ‥‥僕、寝ちゃってたの?」
自分の気持ちを頑張って怜にぶつけたので、疲れてしまったようだ。
「ひな‥‥これ」
怜が抹茶オレを持って来てくれた。
「わぁ‥‥僕の好きなやつだ。ありがとう、怜さん」
いつもの笑顔に戻った日向‥‥可愛い‥‥前からこの笑顔をずっと守りたいと思ってたんだった。俺は。
「美味しい‥‥やっぱりこの抹茶が世界一だよ、怜さん‥‥」
前から日向が「世界一美味しい」と言ってた抹茶オレ。今日はさらに美味しく感じる。
ふと日向が怜の方を見る。
「あのさぁ‥‥昨日から寂しかったから‥‥今日はずっと離れたくない‥‥」
そう言って日向が怜に抱きついている。
「俺も‥‥ひながいないと耐えられない‥‥」
2人は唇を重ねる。昨日の分まで‥‥いつもより長い間‥‥
※※※
ベッドで怜に寄り添いながら話を聞く日向。
「え‥‥景子さんがそんなことを‥‥? もう、今度から怜さんのことで困ったら景子さんに言うから」
「おい‥‥それは勘弁してくれ。あの子にはかなわないからさ‥‥」
「じゃあ‥‥もう僕を困らせるようなことをしたら‥‥嫌だから‥‥」
日向が怜にしがみついている。少し震えているのだろうか‥‥
「ひな‥‥?」
「怜さん‥‥僕から離れないで‥‥」
「離れるものか」
「怜さんと‥‥一緒にいたいよ‥‥」
怜は初めて日向にそう言われたことを思い出した。あの時も必死でうちのバーに来て、一緒にいたいと言ってくれた。その時から日向の‥‥そういった気持ちは変わっていない。嬉しそうにしていることが増えたが、いつだってどこかで不安を抱えているのかもしれない。
そんな日向を守ると‥‥俺はあの時決めたんだ。それを忘れてはならない。
「ずっと一緒にいような、ひな‥‥」
「うん、怜さん‥‥大好き‥‥」
「ひな‥‥俺も大好きだよ」
優しく抱かれながら、怜にキスをされる。すると日向の頬が赤くなって可愛い‥‥可愛い‥‥と思いながら、怜はぎゅっと日向を抱き寄せた。
「ひな、あのさ‥‥明日‥‥休みだよな」
「うん‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥可愛いから‥‥寝かせたくないかも」
「‥‥いいよ‥‥怜さん‥‥」
怜は日向の首筋にキスをする。日向がぴくっと動くが‥‥そのまま怜に身を任せていた。
「怜さん‥‥『あ』で始まる言葉‥‥聞きたい」
「うーん‥‥何だろうな‥‥アメリカンショートヘア」
「え? 怜さんの‥‥いじわる‥‥じゃあ僕が言うね? あいして‥‥」
その言葉を言おうとすると、いつも通り怜に唇を塞がれてしまう日向。
「‥‥んっ‥‥れいさん‥‥」
「‥‥愛しているよ、ひな」
日向はさらに顔を赤くして瞳を潤ませている。
「可愛いんだから‥‥ひなは‥‥」
そんなことを言いながら、怜は日向にキスを繰り返し‥‥2人は熱い夜を過ごしていた。




