自分としたことが 2
微妙な雰囲気となる日向と怜。翌日、それぞれが気づき出す‥‥
「怜さん‥‥待って‥‥」
日向が何とか怜に追いついた。翼と裕子は家が別の方向なのでここにはいない。
「ひな‥‥」
「怜さん、あの‥‥」
外ではうまく話せない2人である。
「帰るか」と怜が言うので、とりあえず家に帰ってきた。
ソファで無言の2人。何から話せば良いのか‥‥
「ひな‥‥さっきの女性は‥‥?」
「陽菜さんだよ‥‥たまたま会ったんだ‥‥」
「どうしてあの公園に?」
「前に怜さん達が遊んでいるのを見て‥‥気になってしまって‥‥今日ちょうど休みだったから‥‥」
しばらく怜が考えていた。
「ひなは‥‥陽菜さんとは何もないのか?」
「何もないよ! 信じて‥‥」
「だが‥‥あんな場所で偶然会うか?」
「‥‥怜さんだって、いつもあのお母さんと翼くんと一緒に過ごしてるんじゃないの?」
「いや、週1ぐらいだ」
「本当‥‥?」
怖い‥‥何が本当なのか‥‥わからないよ‥‥
僕達‥‥どうしちゃったんだろう‥‥
「お互い、頭を冷やす時間が必要だな」と怜に言われた。
「怜さん‥‥」
その日は必要なこと以外は何も話すことなく‥‥2人は眠りについた。
翌朝も特段話すことなく、日向は出勤した。
「おはようございます‥‥日向さん」
「おはよう、陽菜さん」
「すみません、昨日は突然あんなことして‥‥」
「ああ‥‥もう‥‥気にしなくていいよ」
明らかに元気のない日向。陽菜はどうにかしてあげたいと感じる。
「日向さん、今日お昼一緒に行きましょう!」
「え?」
午前中の仕事が終わり、日向は陽菜とランチに行く。少し遠い場所まで連れて行かれた。
「ここなら社内の人もあまり来ないはずです」
「ありがとう、陽菜さん‥‥僕って情けないよね‥‥」
「そうですよ‥‥夫のいる女性を好きになるなんて」
「は?」
日向がポカンとしている。
「私、見ちゃったんです‥‥日向さんが3人家族のお母さんのことをじっと見ていらっしゃったのを‥‥あの方が『れいさん』ですよね? 不倫なんて‥‥幸せになれないです!」
「ちょっと陽菜さん‥‥声が大きい」
「あ‥‥私としたことが」
「それに‥‥怜さんはその人じゃない」
「え?」
じゃあ誰なんだ、という顔をする陽菜。
仕方ない‥‥もう言うしかない。というかもっと前から‥‥最初からうまくカミングアウト出来ていれば、こんなことにはならずに済んだのだ。僕がはっきりしない態度を取ったから、陽菜さんは僕のことを思ってここまでのことをしてくれた。ちゃんと話せば‥‥わかってもらえるはず‥‥
「怜さんは‥‥男性の方」
「男性‥‥あの人って‥‥」
確か「ルパン」のカウンターにいた人だわ‥‥と陽菜は思い出す。
「日向さん‥‥ということは、奥さんのいる男性が好きってこと?」
「あの人は奥さんじゃないよ‥‥最近同じ職場に入った人なんだ‥‥」
「え‥‥」
情報量が多すぎてわからない‥‥つまり、日向さんは「ルパン」にいる怜さんと一緒に住んでいる。その怜さんは何故か子どもがいるママさんと一緒にいるから日向さんが辛くなっている‥‥ということ? で、もしかしたらあの男の子が隠し子ってこと? それはかなり複雑‥‥
「ちょっと落ち着かないとね‥‥僕達は‥‥うまくいってたんだけど‥‥」
「日向さん‥‥隠し子までいるとショックですよね‥‥」
「え? フフ‥‥ハハ‥‥陽菜さんって‥‥想像力豊かだな‥‥」
日向が少し笑ってくれた。
「あれ? 私‥‥何か間違ってました?」
「あの子は隠し子じゃないよ‥‥お母さんはシングルマザーの人って聞いたかな。怜さんは優しいから‥‥あの男の子が懐いているんだ」
「そ‥‥そうでしたか」
陽菜は恥ずかしくて俯いてしまった。
「僕も冷静にならないとね。怜さんはあの男の子のためを思って、ああしているんだよ。あのお母さんとは何ともない」
「待ってください‥‥日向さんの気持ちはどうなんですか? その怜さん、日向さんがお辛いことをご存知なのですか? 私はあの3人を見て家族だと思いました。そう見えること自体、おかしくないですか? 怜さんには日向さんというお相手がいるのに」
陽菜さん‥‥僕が男性のことが好きでも気にせずに、きちんと考えてくれている‥‥確かにそうだ。誰が見ても家族にしか見えない。何もないと言われても僕は怜さんのあんな姿見せられたら‥‥信用できないよ。自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃ‥‥
「ありがとう、陽菜さん‥‥怜さんに話すよ」
「日向さんが元気にならないと‥‥私の仕事にも影響出るんですからね」
「ハハ‥‥ごめん、そうだね。午後からも頑張らないと」
※※※
その一方で怜は‥‥
朝から店で準備を進めていると裕子に話しかけられた。
「昨日ランチに来てくださった女の子、公園のところにいましたよね」
「え?」
「怜さんもご覧になっていませんでしたっけ? 公園の入口で男の子に抱きついていた子ですよ」
「あ‥‥そうなのか? よく顔が見えなかったのだが‥‥若者だなと思って見ていただけで」
「私も顔ははっきり見えなかったのですが服装や髪型がそうでした。あの子、豆腐ハンバーグの作り方を聞いてくれたんですよ。料理するのが好きなのでしょうね」
さすが、飲食店勤務経験のある裕子。客の特徴をよく見ている。
ということは‥‥昨日のランチに陽菜さんは1人で来ていたのか。そうであれば‥‥ひなと偶然会ったとしてもおかしくはない。
というか陽菜さんは‥‥この店まで来たのか? 何ということだ‥‥ひょっとしたらひなを探しに来た可能性だってあるのでは‥‥
「俺としたことが‥‥」
「怜さん?」
「すみません、次にその子が来ることがあれば教えてもらえますか? しっかり見れていなくて‥‥」
「わかりました‥‥怜さんのお知り合いですか?」
「‥‥恋敵です」
「え?」
裕子は一瞬よくわからなかったが、それ以上聞くこともなく準備を進めていた。
※※※
当直明けの景子。初めてだったが何ともなくて良かった‥‥
仮眠を取って昼になった。
「そういえば‥‥怜さんの店のランチ、まだ行ってなかったわ」
景子は怜の店に行くことにした。着いてみてびっくりする。
「え? 行列? 亜里沙の言ってた通りだわ。こんな時間じゃ入れないかも」
景子は心配していたがどうにかお店に入ることができた。
「お一人様ですね、カウンターへどうぞ」と感じのいい女性に案内される。この女性の従業員、初めて見るわね‥‥
そしてカウンターに怜がいるのを見つけた。
「怜さん!」
「おお、いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ」
「やっとランチ来れたー! 当直明けなんだけど」
「それにしては元気だな」
「怜さんのお店に行けるって思ったら、パワー湧いてきました! すごい人気ですね。亜里沙も絶賛していたし」
「ああ、おかげさまで」
感じのいい女性の従業員が注文を取りに来てくれた。その後、女性は怜の元へ行く。
‥‥ん? 景子は違和感を感じる。あの人、怜さんと距離が近い。それにあの表情は‥‥女の顔だ。それに怜さんもまんざらでもないような雰囲気を出して‥‥
景子はスマホを取り出し口コミサイトを見る。客が評価する星の数もそこそこ‥‥口コミの内容は‥‥え?
その頃、裕子は怜に伝える。
「あのお客様は今回初めていらっしゃった方です‥‥」
「あの子は知ってる。バーの常連だ」
「そうでしたか」
そして裕子はランチプレートを景子の元へ運ぶ。
「きゃー美味しそう! いただきまーす!」
ハイテンションで食べる景子。そして裕子がお水を持って来てくれる。
「すごく美味しいです! 私、この口コミサイトも見たんですが、ご夫婦で経営されているんですか?」
景子がスマホの画面を裕子に見せる。そこには「夫婦で経営しているようで、温かい雰囲気もある」といった文字が。
「えっ‥‥いや‥‥それは‥‥違います‥‥」と裕子は恥ずかしくなる。
「怜さん、この口コミご覧になりましたか?」と景子は怜にも見せようと席を立つ。
「これは‥‥」
「私もお2人を見て夫婦のように見えましたが、違いますよね? 怜さん、これを恋人が見たらどう思うでしょうね?」
「あ‥‥そうだな。やっぱり君にはかなわないよ‥‥」
裕子が気づく。
「怜さん‥‥恋人がいらっしゃるのですね」
「そう、すっごく仲良いんですよ。もう目の前であんなことやこんなこともするから、こっちが照れるんです‥‥ふふ」と景子が言う。
「すみません‥‥以後気をつけます。怜さん、申し訳ございませんでした」
「いや‥‥これは俺のせいだ。裕子さんは従業員として今まで通り働いてくれたらいいから」
「ありがとうございます‥‥」




