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【改稿中】バーテンダーのおじさんは僕の初恋  作者: 紅夜チャンプル
4. 社会人編 〜ふたりのこれから〜
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片想い 4

片想いシリーズいつまで続くんだと思った方、すみません‥‥今度は景子のお話です。

景子の勤める大学病院にて。研修医の景子が担当する患者のうちの1人である、一郎が退院することが決まった。

「良かった‥‥一郎さん‥‥退院後に通院でフォローするといった感じね」

景子がホッとしている。なくなった祖父と同じ病気だった一郎さん‥‥おじいちゃんは助からなかったけれど、今回一郎さんの経過が良好で安心したわ。


「景子先生、この患者さんなのですが‥‥」と和真が相談にくる。

研修医だけど和真だけは自分の所にも相談に来てくれる。結局私が主治医の先生に確認するんだけど。看護師さんは結構情報を持っているから、助かるわね。


「失礼します、一郎さん。調子はいかがですか?」

「おかげさまで退院が見えてきて嬉しいよ‥‥お世話になったね。景子先生」

「いえいえ‥‥」


ナースステーションにて。

「景子先生、一郎さんのことすごく調べていましたよね? 退院が決まって良かったですね」と和真が言う。

「うん、実は祖父と同じ病気なのよ‥‥一郎さんって」

「あ、確か景子先生が医者を目指すきっかけになったのがおじいさまだと‥‥おっしゃっていましたよね。そうだったんですか、それは確かに気になってしまいますね」


「祖父のような人を1人でも救いたくて‥‥できたらこの診療科に所属したいの。最初に来れて驚いたわ。頑張らないとね」

「景子先生、ご無理なさらないでくださいね」

「ありがとう、和真くん」



そして日勤なので帰りが一緒になった景子と和真。

仕事が終われば学生時代のように話が盛り上がる。

「へぇー看護学部の子達、それぞれの診療科で頑張っているのね」

「はい、男性の看護師は自分ぐらいなので、女性陣にはついていけないです‥‥やっぱり気遣いがうまくて」

「そうなの? 私は和真くんも十分気遣いが出来ていると思うわよ」

「そうですかね‥‥?」

「よく患者さんのことも診てくれているわ。色々教えてくれるからありがたいし」

「いや‥‥それは看護師としては当然のことで‥‥」

それもあるが、少しでも景子と話したいというのもある。


「私だってついていけるか不安よ、男性医師の方がまだ多いから‥‥体力面ではかなわないわね。夜勤とかできるのかしら」

「景子先輩なら大丈夫ですって! もし夜勤一緒になったら、僕が起こしますから!」

「寝ている前提ね‥‥フフ」

「看護師でも交代で仮眠を取ったりしますので‥‥先生は‥‥どうだったかな。どちらにしても景子先輩のサポートは‥‥僕にお任せください!」

熱心な和真。こんなに素直で私みたいな人に慕ってくれる子って、なかなかいないわよね‥‥と思う景子であった。



※※※



そして翌日、病棟内が慌ただしい。

「おはようございます」

「ああ景子先生、実は夜中に一郎さんが‥‥」

一郎の容態が急変したらしい。景子はすぐに一郎の病室に向かった。

「失礼します!」

「あ‥‥先生」と一郎の妻が言う。

人工呼吸器をつけており、昨日の元気な姿とは打って変わって顔色も悪い。一郎の息子も側についていた。

この病気は急に悪化する。祖父もそうだった。つい最近まで元気に過ごしていたのに、気づいたら人工呼吸器をつけてぐったりした状態。祖父を思い出し景子は胸が痛くなった。


「景子先生、少しよろしいですか」和真に呼ばれて景子は部屋を出る。

「どうかしたの?」

「いえ‥‥景子先生が慌てて部屋に向かって心配だったので‥‥大丈夫ですか?」

「‥‥ありがとう。外に出たらちょっと落ち着いたわ」

「僕も最初はこういうことがあると焦ってしまって‥‥だけど本人さんやご家族が一番辛いということを教わって、少しはましになったのですが‥‥医療従事者の大変さが分かりますよね」

「そうね、焦っても仕方ないわ。主治医の先生の指示に従うことになると思うけど‥‥ちょっと話してくる!」

「景子先生‥‥」


景子は主治医と話をする。検査数値を見て何か原因が特定できないか探すが、分からない。

「やっぱり‥‥こういう病気なんでしょうか」

「景子先生、これを試してみようと思うが」と主治医に言われる。

これは‥‥もしかすると状況が改善するかもしれないけど‥‥その確率は低かったような‥‥だけど‥‥


「私は‥‥試してみたいです。例えそういう病気であっても‥‥諦めたくない‥‥」

「そうだな、じゃあ一緒にご家族の所に説明に行こう」

颯爽と歩く主治医と研修医の景子。凛とした姿はあの頃と変わらない‥‥和真は廊下でワゴンを押しながら彼女を見つめていた。


部屋にいた一郎の妻と息子に、主治医が説明をする。景子は主治医の姿をじっと見ていた。医師として冷静な判断を下しつつ、ご家族に納得いただけるような説明だわ‥‥なかなか難しそう。私もいつか‥‥患者さんやそのご家族に、こういった分かりやすい説明ができるようになるのかしら‥‥


昼頃に主治医の説明していた点滴を持って来た和真。セットして様子を見る。景子も側についていた。

ああ‥‥これでうまくいきますように‥‥!

夕方になり一郎のナースコールが鳴る。和真が見に行くと、うっすらと目を開けている一郎が見えた。すぐに和真は景子を呼びに行く。

「景子先生! 一郎さんの目が少し開きました」

「えっ‥‥本当?」


景子が部屋に入ると確かに目が少し開いている。一郎の妻が、

「さっき私の声に反応してくれたんです」と言っていた。

和真が血圧や酸素濃度を計る。

「通常に戻りつつあります、景子先生」

「もう少し様子を見ましょう、おそらくこのままいけば回復するかといった感じなのですが」と景子が言う。


そしてその後、主治医にも診てもらい、一郎は回復することができた。

主治医に向かってありがとうございます、と言う一郎の妻と息子。主治医と共に部屋を出ようとした景子であったが、

「待ってください、景子先生」と一郎の妻が呼び止める。

「今回は本当にありがとうございます‥‥夫から景子先生のことは聞いていました。私達の娘に似ていて明るくて優しい先生がいるって」

「そうでしたか‥‥」

「娘はだいぶ前になくなったんです‥‥」

「え?」


「もう前の話なので大丈夫なんですが‥‥夫に景子先生がついてくれていたからここまで来れたんだと思います。いつも景子先生に会うのを楽しみにしていて」

「そんな‥‥私は一郎さんのお力だと思います。本人さんもご家族のみなさんも辛かったと思いますが、このお薬で乗り切ってくださったんです。本当に‥‥良かったです‥‥私もまだ研修医ですが‥‥一郎さんの姿を見て勇気をいただけました」


一郎の部屋を出た景子。良かった‥‥ホッとしたのか涙が頬を伝っている。いけない、いちいち感動していたら‥‥仕事が回らない‥‥だけどどうしよう‥‥涙をどうやって止めれば‥‥

「景子先生!」和真が来る。

「か‥‥和真くん」

「こっちに来てください」


小さなカウンセリングルームに景子と和真が入る。

「この時間は予約がないのでおそらく誰も来ません。ここで少し落ち着いてください」

「ごめんなさい‥‥私ったら‥‥おじいちゃんと一緒の病気の人だからって‥‥」

「大丈夫です、僕も辛かった時にここでこっそり泣いていましたから」

景子先輩は一見クールにも見えるが明るくて気さく。そして何と言っても情に厚い‥‥そういう所に惚れたんだと和真は思っていた。


「冷静にならないと‥‥冷静に‥‥私ってこれだって思うと突っ走っちゃう所があるから‥‥気をつけなきゃ」

「さっきの景子先生‥‥一郎さんの奥さんに感謝されていましたよね、一郎さんは景子先生のことを慕ってくれていた。突っ走るとかおっしゃっていますが、それは真剣に患者さんと向き合っているという事じゃないですか。僕は‥‥景子先輩のそういうところが‥‥好きなんです」


「‥‥え?」

「‥‥あ‥‥す‥‥すみません! あの‥‥僕は‥‥あのサークルに入った時から‥‥景子先輩のことを‥‥」

「和真くん‥‥ありがとう、嬉しいわ」

「先輩‥‥」


ナースコールが鳴っている。

「あ‥‥行ってきます!」

和真が部屋を出て行った。

景子はふぅと深呼吸する。和真くんのおかげで‥‥頑張ろうって思えるようになった。私も行かなきゃ。



※※※



そしてそれからしばらく経った後、一郎の退院の日となった。

「ありがとう、景子先生」

「一郎さん、お気をつけて」

一郎と家族を見送る景子。そこに和真がやって来た。

「景子先生、良かったですね」

「うん」

「あの‥‥今日の夕方どうします?」

小声で和真が言う。

「ふふ‥‥じゃあいつもの西側の出口で」

「はい! じゃあ仕事頑張ってきまーす」

景子と和真。日勤が被る日は仕事終わりに‥‥一緒に過ごすようになったのであった。

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