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【改稿中】バーテンダーのおじさんは僕の初恋  作者: 紅夜チャンプル
4. 社会人編 〜ふたりのこれから〜
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片想い

研修医の景子に憧れる後輩看護師。日向が気になる後輩。2人の片想いの様子。

某大学病院にて。

「よし、今日も頑張るわよ」と気合いを入れて病棟に向かう景子。

研修医の期間はいくつかの病棟をまわって、経験を積む。そして自分の専門分野を決めることになるが、景子には希望する分野があった。

「おじいちゃん‥‥」

小さい頃に祖父を病気でなくしたことがきっかけで、医師になる道を選んだ。なので祖父のいた病棟(専門分野)に所属したいと思っている。偶然か必然か、最初に行く病棟がその分野であった。


ここでおじいちゃんが‥‥

あの頃から改装されて随分綺麗になっているものの、ここで祖父とお別れしたことはよく覚えている。祖父のような病気の人を救いたい、その思いでここにいる。


研修医はベテランの医者の下について患者を一緒に診る。PC内にあるカルテの情報を把握することも大切であるが、直接入院患者の話を聞きに行くことが一番重要だと感じる。

カルテを見ていた景子が気づく。患者の中の1人におじいちゃんと同じ病気の人がいるわ。しかも年齢も近い。どんな人かしら‥‥


景子は早速担当する患者の部屋を回ることとした。

「おはようございます、調子はいかがですか?」

研修医だからなのか、あまり患者とは話が盛り上がらない。いや、皆それぞれしんどいのだから無理に喋らなくても良いのだが。それでもベテラン医師にはたくさん話している患者を見ると自分はまだまだだと思う。


そして、景子の祖父と同じ病気である一郎という患者のところにやって来た。

「おはようございます、一郎さんの本日の予定は‥‥点滴での治療が昼からですね。調子はいかがですか?」

「うーん‥‥しんどいけどね、朝は結構食べられたんだよ‥‥景子先生というのかい? うちの娘に似ているよ」

「あら、そうなのですね!」

娘さんに似ているだなんて‥‥一郎さんが良くなるように頑張らないと。


一通り部屋を回ってナースステーションに戻って来た。

「さて‥‥あの先生に言われてたのを見ておかないと」

景子がPCに向かっていると、聞き覚えのある声がした。

「景子先輩?」

振り返ると、看護師の和真(かずま)がワゴンを押しながら歩いてきた。

「あら、和真くんじゃないの」


和真は景子と同じ医大の看護学部にいた後輩であり、サークルで知り合った。一般的に看護師はほとんどが女性であるが、和真のような男性も活躍している。

「久しぶりですね、景子先輩‥‥あ、ごめんなさい。ここでは景子先生だ。同じ病棟だなんて、安心感があります」

「何言ってんのよ、私は研修医になったばかりでまだまだこれからよ。看護師の方が患者さんの所によく行くし、助かっているわ」


和真は密かに景子に憧れていた。憧れはいつしか恋愛感情に変わっていく。看護学部の女子達はやはり医学部の人の方がいいのか、自分と仲良くしてくれる女子はいたものの、恋愛には発展しなかった。そもそも自分が頼りないからかもしれないが。だが、患者の一番近くでサポートがしたくて看護師になろうと決めたのだから、恋愛は後回しで良さそうである。


同じサークルにいた医学部の景子。凛とした雰囲気で初めて会った時から目が離せなかった。クールに見えたが喋ると明るくて気さくで、そして‥‥優しい。サークルで彼女と一緒にいることが増えたものの、女医となる人である。自分のような看護師の男性とは釣り合わないと考えてしまい、今でもこの想いは秘めたままである。


だけど‥‥様々な病棟がある中で景子先輩と一緒の所となった。緊張はするが、女医としての景子先生が見られると思うと嬉しい。

「あ、一郎さんなら僕が今日は担当ですよ。昼から点滴ですよね」

「そうね、準備をお願いね」

「景子先生は‥‥変わらないですね」

「え?」

「学生時代と同じで、堂々としていて憧れます」

「そう? そんなこと言ってくれるの、和真くんぐらいよ? 和真くんだってもう1年経ったんだっけ、しっかりしているじゃないの」

「いえ、そんな‥‥」


ナースコールが鳴っている。

「はい、行きます」と和真が応答し、景子に会釈して病室へ向かって行った。

「ちゃんと頑張ってるじゃない‥‥」

景子は和真の行った方向を見ていたが、すぐにPC画面に目を映した。



※※※



「では! 新入社員のみなさんを歓迎します! 乾杯!」

今日は日向の部署の新人歓迎会であった。陽菜などの新人が、部署のメンバーと親睦を深めるために開催されている。

「日向さん、それは何という飲み物ですか?」と隣に来た陽菜が尋ねる。

「僕はお酒が飲めない体質なんだ。これはブラッドオレンジジュース」

「そうなのですね! お酒が飲めなくてもコミュニケーション取れたらいいですものね!」


引くこともなく、にっこりと笑う陽菜。やっぱり妹に似ているな、と日向は思う。

「陽菜さんはお酒強い方?」

「そこそこですよ‥‥私もそこまで飲みませんから」

日向さん、お酒が飲めないなんて可愛いすぎる‥‥どうしよう、いちいちキュンとしてしまうんだけど。この気持ちはどういうことかしら‥‥そうだ、他の人の席にも行ってみよう。


そう思った陽菜は、女性の先輩達が集まる席に行ってみる。

「陽菜さん、仕事は慣れた?」と女性の先輩。

「はい! 日向さんのおかげです」

「日向くん優しいし、しっかり頑張ってくれるからいいわよね」

「そうですね‥‥とてもいい人で‥‥」

「何か可愛いですよね、日向さん」と別の女性が言う。

「はい! あ‥‥すみません先輩に対して可愛いと思ってしまうなんて‥‥」と陽菜が言う。


「いいのよ、みんなそう思ってるから」と先輩。

「それで本当ですか? 日向さんがフリーだって」とまた別の女性が言う。

「そうよ、確か。日向くんの同僚の子が言ってたのよ、しばらく彼女がいないって。合コンに誘っても来ないから謎なんですって」と先輩。

「え? うそ‥‥彼女いないんですか?」と陽菜が驚く。


「彼女がいないうえに合コンにも来ないって‥‥今は仕事を一番に考えているのかもしれないわね」と先輩。

そういう所がまた尊敬する‥‥と陽菜が思う。そして彼女がいないという情報は入手できた。こうなったら‥‥日向さんに近づいてもいいってことよね?

陽菜は様子を見ながら、日向のいる席に移動した。


日向は同僚と一緒に話していた。

「俺の彼女がさぁ‥‥」と酔った勢いで話し出す同僚。

何も言わずに頷きながら聞いている日向。

日向さん、同僚の方の恋愛話にもそこまで興味がないのかしら? と思いながら陽菜は近くに座ってみた。


「おっと陽菜さん、日向くんとはうまく仕事出来てる?」と日向の同僚が言う。

「はい、とても親切で丁寧で優しくて頼りになって‥‥本当にありがたいです」と陽菜。

「陽菜さん‥‥褒めすぎだよ。僕も陽菜さんがテキパキこなしてくれるから助かってるよ」と日向が言う。

ああ‥‥日向さんは何言っても優しい言葉で返してくれる‥‥と陽菜は嬉しそうにしている。


日向の同僚が別のテーブルに行った。チャンスだ。陽菜は日向の隣にスッと座る。日向と仕事をしてそこそこ日も経つし、この飲み会の雰囲気で聞いてみよう‥‥

「私‥‥日向さんほど優しくて尊敬できる人、初めてです」

「そうなんだ。僕は大したことはしていないよ‥‥」

「いえいえ、私にとっては本当に‥‥あれ?」

陽菜がぼんやりしながら日向の肩に自分の頭を乗せた。


「陽菜さん? 大丈夫?」

「だ‥‥大丈夫‥‥です‥‥」

よいしょと言いながら陽菜は元の体勢に戻る。あんまりやり過ぎるとあざとく見られるから‥‥このぐらいにしておこう。

「あの‥‥日向さんは‥‥どういう女性が好きなんですか?」

「え? えーと‥‥」

悩む姿も可愛い‥‥と思いながら陽菜は日向をじっと見ている。

「‥‥実はわからないんだ」

「え?」

「‥‥そういうの考えたことなくて、気づいたらって感じかな」


LGBTQプラスという言葉があるものの、僕にはカミングアウトする勇気がない。学生時代に「僕には怜さんという大切な人がいるって言うんだ!」なんて言っていたが、実際に社会に出るとそんなことは言いづらい。だから毎回わからないフリで誤魔化す。するとしばらくしたら皆、忘れてくれる。


だが‥‥陽菜はそうではなかったようだ。

何て正直な人‥‥適当なことを言わずにわからないって伝えてくれる。それに気づいたらって‥‥何てロマンチックかしら。これは気づいたら私のことを好きになっていたということも‥‥あるのでは?

「いいですね、気づいたらっていうの‥‥私もそうかもしれません」と陽菜が日向の方を見て言った。




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