いつもの2人
日向と怜の仲良しルーティン。そして景子のお祝いや、怜のお店で働き始めた裕子の話も。
「ただいま」
「おかえり、ひな」
「怜さん‥‥疲れた」と言って日向は怜とハグをする。いってらっしゃいのキスとおかえりのハグが日課らしい。
怜さんは、背が高くて黒髪に切れ長の目で見た目はちょっと怖く見えるけど、いつだって僕を優しく包んでくれる温かさがある‥‥初めて会った時からそうだった。怜さんの腕の中が一番落ち着く‥‥大好き。
ひなは可愛いな‥‥ふんわりした髪に大きな瞳で愛らしい。素直で放っておけなくて笑った顔にいつも癒される。初めて会った時からそうだった。可愛いひながそばにいてくれるから、俺は頑張れるんだよ‥‥大好きだからな。
そんなことを考えながらしばらくハグをするものだから、時間を忘れてしまいそうである。
「そうだ、お肉買って来たんだった」と日向がやっと気づいた。
「ありがとう、これでビーフシチュー完成だな」
ビーフシチューやサラダが並んだ食卓。
「いただきまーす! うわぁ美味しい♪」
「良かった」
ひなが美味しそうに食べてくれるのを毎日見ているが、可愛いくて飽きない‥‥と怜が思っている。
「怜さんのごはんは何でも美味しいな」
美味しいだけじゃなくて怜さんの何というか‥‥僕を安心させてくれる味と温かさがあるんだよね、と日向が思っている。
「そうだ、新しいアルバイトが入りそうなんだよ」と怜が言う。
「そうなの? 良かったね。大変だっていつも怜さん言ってたから心配してた」
「しかも経験者だ、期待してしまうな」
「すごい‥‥どんな人?」
「幼稚園ぐらいの子がいるお母さんだ。優しそうで謙虚で」
「いい人そうだね、ちょうどいいんじゃない? ランチの時間は主婦層が多いから、何か意見くれるかも。あ、僕はあのままでいいと思うんだけどね。怜さんがいたら何でもいいから」
「俺に甘すぎるよ、ひなは」
「怜さんだって、僕に甘いよ?」
「フフ‥‥」
「ハハ‥‥」
食後はソファに一緒に座ってのんびり過ごす。前から日向はソファで怜に甘えることが多く、今日も怜の肩に頭の乗せている。
「僕、今年は新人の教育もするんだ」
「それは頼りにされるな」
「うまく出来るかな‥‥怜さん」
「大丈夫だよ」
「‥‥」
スースー
日向はよくソファで眠ってしまう。
「おい、ひな。こんなところで寝たら‥‥」と怜が言うが、可愛い寝顔をもう少し堪能したいと思って、そのまま日向を見つめている。
「可愛い‥‥ひな」
怜はソファに日向を寝かせてブランケットをかけた。
そして30分ほど経過した頃。
「ひな、そろそろ起きた方がいいぞ」
怜が日向を起こす。
「うーん‥‥」
眠そうな仕草が可愛いくて、怜は日向にキスをした。
「れ‥‥怜さん‥‥」
よくお目覚めのキスをしてもらうものの、毎回顔を赤らめている日向である。だって怜さんのことが好きで好きで仕方ないのだから‥‥
そんな日向はお風呂上がりの前髪を完全に下ろした怜のことも好きである。前髪の下から見える目元に色気を感じてドキドキするらしい。
「今日は僕も頑張ったし、怜さんのお店のアルバイトも決まりそうだからお祝いで‥‥ローズカクテルを作りたいな」
お酒の飲めない日向のためにバーで怜が考案したノンアルコールのローズカクテルは、主に「愛している」という意味があり、とっておきの日に2人で飲む。とっておきの日と言ってはいるが、2人の気持ちが盛り上がればよく飲んでいるような気も。家でも作ることができるように材料は揃えてある。
「乾杯」
甘酸っぱくてとろけるような味、そして怜に「愛している」と言われたことを思い出しながら日向は嬉しそうにカクテルを口に含む。「好き」とは違って「愛している」の言葉は日向にとってより特別なもので、怜からの深い愛情を感じる。
「ひな‥‥愛しているよ」
「僕も‥‥愛しています‥‥怜さん」
ローズカクテルを飲んだ時には必ず口にする言葉。この言葉で何度幸せを感じたことだろうか。
ベッドで熱い抱擁を交わし、唇を重ね合う2人。
‥‥ひな、お前を離すものか。
‥‥怜さん、僕とずっと一緒にいて。
「相変わらずノンアルコールなのに顔が赤いな、ひな」
「だって‥‥怜さんが愛しているって言うから‥‥」
「言う前から赤かったような気が‥‥」
「だって‥‥怜さんが‥‥怜さんが‥‥」
頬を染めて困っている顔がまた可愛いくて、怜は日向に何度もキスをしてしまう。
「もう‥‥怜さん‥‥」
「フフ‥‥嫌だったか?」
「嫌じゃないよ‥‥」
「可愛い‥‥ひな‥‥」
2人だけの甘い時間はまだ始まったばかりである。お互いの体温を感じながら過ごす夜。身体も心も満たされて、想いが溢れて止まらない‥‥
※※※
「おめでとう、景子!」
週末、お洒落な居酒屋で景子の友人の亜里沙が笑顔で言う。今日は彼女の国家試験の合格祝いのために亜里沙、日向、怜の3人が来てくれた。
亜里沙は日向と同じ大学、同じサークルに入っていた。大学時代に日向に片想いしていたが怜と付き合っていることを知り、今はお互い良き相談相手、友人関係である。ちなみ学生時代にサークルの先輩から告白され、順調なお付き合いをしている模様。
景子は亜里沙の高校時代からの友人で、何かと亜里沙の恋愛相談に乗ることが多かった。年上好みで怜に憧れており「怜の推し」と自分で言っている。(また、アニメで推しもいる) 医師の国家試験に合格して医学部を卒業し、今は研修医として大学病院で勤務を始めたばかり。
怜と日向の関係にいち早く気づいたのも景子であり何かと鋭いが、普段はテンションが高くて明るい。
「ありがとう! 亜里沙。まさか‥‥怜さんまで来てくれるなんて‥‥私ずっと怜さんのお店行けなかったから、今日お会いできて嬉しいです! いちファンとして!」
「景子ったら‥‥」
「おめでとう、すごいな医者って‥‥相談に乗ってもらいたいぐらいだ」と怜。
「怜さんの相談なら何でも! 承ります!」とハイテンションの景子。
「おめでとう景子さん。知らなかったなぁ‥‥医学部だったなんて‥‥」と日向。
「医学部って言うと男性がみんな引いちゃってね。気が強いって思われちゃう。私は‥‥か弱い女子に見られたかったんだもの」
「いや、か弱くは見えないから」と亜里沙。
「どうしてお医者さんになろうと思ったの?」と日向が尋ねる。
「祖父が早くになくなってね。それがきっかけ」
「そうだったんだ‥‥」
「天国のおじいさんも喜んでくれているよ」と怜。
「そうですよね、これからが本番だから頑張ります。ああ‥‥もう私、恋愛はしばらく無理そう。3人共幸せそうで羨ましいわ。特に怜さんと日向くん‥‥さっきから仲良しオーラが眩しいわよ」
「えっ‥‥そう?」と日向が照れている。
「うん、怜さんの表情が前より穏やかよね」と亜里沙も言う。
「怜さんの表情‥‥毎日見てるから分かんないや」と怜を見つめる日向。その見つめ方がまた可愛い‥‥と思う怜。
「2人とも思いっ切り顔に出ているし。見てて飽きないわね。私もいつか、好きな人ができるのかしら」
「その時はあたしに一番に教えてね! 景子」と亜里沙が言っていた。
※※※
怜のお店で裕子が働き始めた。
「いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ」
「お待たせいたしました、本日のランチプレートです。デザートですね? お付けできますよ」
「ありがとうございました! またお越し下さいね」
さすが飲食店経験者である。怜が教えた内容をすぐに把握し、気を利かせて客に対応も行う。穏やかで優しい裕子は主婦層の客とちょっとした話をすることもあった。
「裕子さん、ありがとう。おかげでランチ営業がスムーズで回転率も上がりそうだ」と怜が言う。
「いえいえ、こちらこそこんなに早くに働けるなんて思っていませんでしたから。怜さんには感謝しております」
「翼くんは‥‥幼稚園か保育所に?」
「はい、保育所に預けています。ちょうどここのアルバイトが終わってからお迎えに行くんです」
「そうか」
「あの、翼がまたおじちゃんに会いたいって言っておりまして‥‥でも怜さんはこのお店の夜の営業もあるから無理だよ、とは言ったのですが」
「俺は基本、夜は出ないから‥‥この後少しなら翼くんに会えるぞ」
「本当ですか? お忙しいのに‥‥」
「俺も翼くんに会いたくなってしまってな」
「怜さん‥‥ありがとうございます」
そして裕子と保育所まで行き、門の前で怜が待っている。しばらくして翼を連れた裕子が出て来た。
「わぁ! おじちゃーん!!」
翼が怜に向かって走ってくる。
「やぁ、翼くん。元気か?」
「うん! おじちゃん、公園行きたい!」
「駄目よ翼‥‥怜さんはお忙しいから、あの道の角でバイバイね」と裕子が言うが、
「公園なら大丈夫だぞ、行くか?」と怜が翼に言っている。
「行くー!!」
「ええっ‥‥申し訳ないです‥‥」
「俺も軽く運動しないといけないので。行きましょう」
「はい‥‥」
公園で遊ぶ翼と怜。
あの翼が怜さんにこんなに懐くなんて‥‥まるで‥‥本当の親子のよう‥‥
一瞬そう思った裕子であったが、
「あっいけない‥‥私ったら何を考えているのかしら」
そう言いながら、翼の方へ向かった。




