1.自称花の女子高生1年生香奈恵のデート
また書き始めましたが、今度はのんびり書こうと思います……。
当分の間は、月に二回くらい更新できたらいいかな。
「今日は楽しかった。また誘ってよ、じゃあおやすみ」
時間はまだ午後5時、やや早いおやすみを言うと、少年は背を向けて遠ざかっていった。
それを呆然と見つめなかがら「今回もだめだったか」と、まだ周りには人が多く行き交う歓楽街近くの駅前広場で肩を落とす少女が一人。ましてや今日は土曜日、周りには楽しげな雰囲気の人々が多いためにその姿は少し目立っていた。
果たしてこれで何度目だろうか。高校に合格してからの少女は、まるで解き放たれた獣だと言わんばかりの勢いで男の子とデートを繰り返していた。恋を、恋をするのだと。もっとも、獣だと思っているのは本人だけ。もし獣のような勢いなら今日の相手は早々に居なくなっているか、こんな早い時間におやすみと挨拶することはないだろう。
彼女にはこの後、友人の三島早希とファミレスで夕食ついでに会う予定があった。何度繰り返しても失敗続きの友人の話を聞いてみたいという。少女は正直その気になれなかった。
「香奈恵~!」
しかし、その友人の声が聞こえてきたので、そうするしかないようだ。香奈恵と呼ばれた少女、進藤香奈恵は声がした駅の改札の方を向き、気のない返事を返した。
「おっす、じゃないよー。どうだったの?あ、それは後でいいや早く行こ。お腹ペコペコなんだよねえ」
「私はお腹すいてないんだけど」
「ふーん」
「その辺のベンチじゃだめ?」
話はするから食べるのは勘弁して欲しいなと香奈恵は思ったが、相手はまったくそのつもりがないようで。
「あたしの口が、もうチーズハンバーグと抹茶わらびパフェの口なんだあ」
「器用だね」
「いやあ、それほどでも」
「そう……」
早く座りたいと考えた香奈恵は、周りを見渡し一番近いファミレスを探し、提案した。
「あそこでいい?」
「えー?あたし、今はカームのチーズハンバーグの口なんだよねえ」
「あ、そう……。すぐそこだし、いいよ……」
二人は、同じ様な一方的に早希が話しかける会話とは言い難いやりとりを続けながらカームへと向かった。
カームというのはファミレスの1つで古くからあるらしい。店前の食品サンプルに年季が入っていた。かといってあくまでファミレスなので古臭い感じはしない。人の多い歓楽街とはいえ、時間はまだ午後5時を回ったばかり。店に着くなり、すぐ席へと案内された。水とおしぼり、メニューを2つテーブルに並べられるなり早希が口を開いた。
「で、で?何がダメだったの?」
「そんな最初からダメって分かってるみたいな聞き方、やめてくれるー?」
「では、可能性があると?」
「限りなくゼロ」
そして香奈恵はため息を吐き、早希は大声で笑った。
「だってさ、可能性あったら晩御飯くらい食べるし、LINEくらい聞いてくるよね……。あ、笑うのやめてくれる?」
香奈恵は、先ほどまでクラスの男子と遊んでいた。相手はどうなのか知らないが、本人はデートのつもりで誘ったし、付き合えるといいなと思っていた。今日の今日でそこまで行かなくとも、次に繋がってくれればそれでよかった。
それなのに。
「朝、二言目には「なんで僕なの?」だって。分かれよ!」
「どうどうどうどう。あ、とりあえず注文していいかな?」
人が思い出して憤慨しているのにマイペースな友人だと思いつつも、それだからこそと考え直してOKをだす。
「いいよ。私はサーロインステーキのごはんセットの大盛りね。メニュー見てたらやっぱりお腹すいてきちゃった」
「めっちゃ食べるじゃん……。あ、店員さーん!」
目の前を通った店員を、早希は手を挙げて大声で呼び止めた。店員は怪訝な顔を見せたが、気にせず早希は続ける。
「サーロインステーキのごはんセットを、大盛りだっけ?」
「大盛り」
「それで。あとはチーズハンバーグのパンサラダセットと、親子丼とミニうどんのセット。いじょ!」
かしこまりましたと言い店員が内容を繰り返す。
「以上で間違いありませんか?」
「あ、ごめんなさーい。あとドリンクバー2つも」
「かしこまりました。コップは機械の隣にありますのでご自由にお取りください。他にはございませんか?」
「ないでーす!」
大声で答えた早希を少し迷惑そうに見つつ店員は去っていった。
「早希もめっちゃ食べるじゃん……」
「いやー、お腹ペコペコよホント。あとでパフェも食べるよ!あ、ジュース入れにいこ」
「私のも入れてきて。アイスティーで」
先は片目をパチンと閉じて見せてドリンクバーへと向かっていった。
香奈恵はその様子を見ながら、和むし救われるなと感じていた。誘った男の子にほとんど相手とされなくて落ち込んでいたからだ。
「そんな落ち込むなら、最初からフツーに告ればいいのに」
早希が飲み物を2つ持ってきてそう言った。
「いや、それは恥ずいっていうかさ……」
「あたしは2人きりで遊びに誘う方が大胆だと思う……」
この問答も何度繰り返しただろうかと二人は昔に思いを馳せる。
「小学生からずっとじゃん。もう何回目?」
「分かんない。私ってそんなにダメかな?見た目とか、性格とか」
そういわれた早希は「うーん」一度唸ってから答えた。
「見た目は……、うん、可愛いよ?女子的な可愛さじゃなくて男子がいう可愛い、どっちかと言えば美人系っていうか。性格は……、あ、ハンバーグきた!」
「ちょっと!そこで切らないでよ!」
そう言いつつ、香奈恵も運ばれてきていまだテーブルに置かれていない、鉄板の上の肉の焼ける音が気になって仕方がない。
「とりあえず一時休戦だね!」
「別に何も戦ってないけど、ご飯を食べる事には賛成」
2人は互いに眼の前の夕飯を食べながらも話を続けた。
「それで、私の性格はどうなの」
「性格は普通だと思うんだけど、恋には向いてないと思う……。向いて無いっていうか、いいや、これはあたしが言うような事じゃないかなー」
「入学したてのピチピチJKに恋をするなと?」
「そうとまでは言わないけど……。あ、親子丼きた~!」
回答を得られることなく話し相手を親子丼に奪われた香奈恵は、その話し相手だった早紀を睨みつけるも、睨みつけられた本人はそれに全く気かない。それどころか、親子丼とうどんに七味をふりかけながら「本当は山椒が欲しいところだよね~」などと呑気に言っている。
よく見るとパンとサラダはもう無く、ハンバーグは半分になっている。相変わらずヤバいなと感じつつ、自分も肉を咀嚼しながら香奈恵は今日のことを振り返えっていた。
香奈恵の今日の相手は中学の時の後輩だった。誰もが両手を上げてイケメンと声を上げるようなタイプでもなければ、その他大勢というほどでもないし、それなりに想いを寄せている女子はいたりもする……かもしれない。香奈恵は今日、その後輩と朝から出かけていた。
などと香奈恵が思い返していると、声がかかった。
「そもそもどうやって誘ったの?」
「へっ!?声に出てた?どこから?」
「あたしの方見ながら「相変わらずヤバいな」って言ってるとこかな」
「想像の3倍は手前だった……。どうやって誘ったって普通なんだけど。家は知ってるからさ、学校帰りに寄って「次の土曜日遊びに行こうよ」って言っただけよ」
それを聞いた早紀は、テーブルに肘をついた方の親指で眉間を抑えながら大げさに首を振った。
「何が言いたいの?こいつマジかよみたいなリアクションしてさ」
「いや、まだいい。それでどこ行って何したのさ」
態度を指摘された早紀は、それを無視してさらに問いかけた。
「まずはゲーセンでしょ?あ、ねぇ聞いてよ、私今日格ゲーで二十三連勝したんだよ、すごくない?その後は牛丼食べて本屋行ったんだっけな?」
「ふ、ふうん。それから?」
「それからあ、バッセン行って卓球で軽く汗流したらちょっとお腹痛くなっちゃって、やっぱり食べてすぐ運動はダメだね。だからその後はカラオケ行って、夕方までダラダラ歌って解散した」
「こいつマジかよ…………」
先ほどの態勢からわざとらしく親指を眉間からはずし、頭を項垂れるように早紀は呟いた。
「嘘はついてないよ?」
「そうは言ってないけど……。さっきのピチピチJK発言は取り消してほしいなあ。男子じゃん、男子!それも小中高生のかっていうさ」
そう言われた香奈恵はまるで分からず、どういうこと?とでもいいたげな表情でキョトンとしている。
「とても恋をしようという女子高生のデートじゃないってこと。トキメキもドキドキも無いじゃん!」
「二十勝目になろうって時にはドキドキしたよ?トキメキはわからないけど」
「だからそれがさ、香奈恵には恋は…………ううん、なんでもない」
本当は「まだ早い」と続けたかった早紀であったが、それは他のものが伝えるべきじゃないし、傷つけるだろうと口にしなかった。
「向いてないって?そんなの付き合ってみないとわかんないよ」
「そうだね」
「おまたせいたしました、抹茶わらびパフェのダブルソフト盛りになります」
「やったー!きたあ!」
突如割り込んできた店員がテーブルにパフェを2つ置いて去っていった。
「……いつ頼んだの」
「ゲーセンで二十三連勝とか、どうでもいい話してたとき。あっ香奈恵の分もあるよ!」
「それはどうも……」
「香奈恵はさ、1度女子高生らしいというか、もっと年上のデートしてみるといいよ、私のアニキ貸したげるから。あ、貸すだけだよ?本気になっちゃイヤだよ?私もついていくし」
「え、うん……」
香奈恵は、眼の前の言ってる内容の割には、口周りにバニラと抹茶のアイスを口周りにべったり付けているというチグハグな友人にそう返事する事しかできなかった。




