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エピローグ

Q ミドリガメはどうやって飛んでるの?

A 空気の面を捉えています。多分。知らんけど。

「おじ様、野球拳しましょう!」

「仕事終わって一言目がそれ!?」


 『鉄菌竜樹』を人間の力でボコした翌日。ついに短くて長い夏休みが終わる日がやってきた。


 あれから『鉄菌竜樹』はダークワカヤマ社に連れていかれる……わけではなく、交渉の末宮本武蔵に引き取られていった。シスタンクと一緒に。色物がまとめて消えてくれて個人的には精神的な平穏が戻り安堵するばかりである。本当に21世紀人間としてはびびってたんだからな、会話するたびにデスア〇メという単語使う必要があるの。


 まあ引き取られていったのには理由があり、ダークワカヤマ社が関与していないことを明白にするため、とのことらしい。あくまで野良の研究者が開発した生物兵器が、偶然そこら辺にいたマッハ2で走るミドリガメに敗北したことにしたいそうだ。となればダークワカヤマ社が慌てて回収することにより関係性を疑われるのだけは避けたい、でも他企業には素直に渡したくない。そんな思惑が重なった結果であった。


 そして今、アヤメちゃん曰く各企業ではこんな情報が飛び交っているらしい。


「『鉄菌竜樹』、あの巨大生物の方だった!」

「じゃああのミドリガメ何だよ」

「ミドリガメの謎を解け!」


 ……うん、不死計画関連の生命体じゃない方がおかしんだよな。どうなってるんだよあいつ。そんな訳で事件は一件落着。サノア博士の計画は完全に破綻し、漁船は本日より操業開始。晴れて魚のお値段大幅ダウンになるのであった。


「今日はダークワカヤマ社社長に頼んで海岸東部を貸し切りにしていますから。思いっきり脱いでください、おじ様!」

「露出趣味はねえ!」

「ワン!?」

「驚くな!」


 というわけで3章最終話にしてようやく水着回である。どうなってるんだよこの章。


 黒い砂浜と燦燦と照る太陽の下で、アヤメちゃんは赤いフリルがいくつも付いた黒いビキニに身をまとい妖艶に微笑む。そう、彼女は昨日夜、ついに仕事という敵を討伐しつくし、晴れて夏休みの権利を得たのである。昨日はぐっすり寝れたのか目の下のクマも取れ絶好調という様子であった。


 露出はフリルのおかげでかなり隠れてはいるものの、それでも平凡な男にとっては目に毒である。出会った頃はあんなに小さかったのに、色々成長しすぎだよ。おじさん時の流れの速さに怯えてしまうって。


 その足元でいつも通り四つん這いになっている変態がドエムアサルト。なんとこの女、本日は青色のマイクロビキニらしきものを着ている。まさかのいつもより露出が低いという衝撃。いやなんでいつも全裸なんだよという話であるが。ドエムアサルトは俺が視線を向けているのに気づき、少し顔を赤らめて「……エッチ」などというが断じてお前にだけは言われたくない。


 アヤメちゃんは足元の犬の反応をスルーして大きく手を天に伸ばして宣言する。


「今日一日でこの休暇で得るはずだったフラグとHCGを全て回収しつくします! まずは野球拳からの露出イベです!」

「絶好調というより暴走の間違いだろこれ」


 まあ楽しそうならいいけどさ。それに俺が負けることないし。素人目(スローモーションカメラ機能付き)で手の動き観察しながらじゃんけんやれば100%勝てるし。ただ問題は俺の水着がパンツとラッシュガードのみ、残機2しかないという問題だが。


「砂浜で城を作る、これも乙なのじゃ」

「なんか城砦できてる……」


 一方でシンプルなスク水を着たシゲヒラ議員は近くで砂を積み上げすさまじい勢いで砂の城を作っていた。というかすげえなあれ。砲塔とか通路の溝とか完全に再現されてやがる。あとスク水なのは突っ込まないでおこうとしよう。美少女(容姿のみ)と地味なスク水が乖離しててコスプレ感出てるじゃねえか。実際コスプレだけどさ。


「どんだけ遊びたかったんだよそれ」

「昔やってたら「中年おじさんがぶつぶつ言いながら変なことやってる」と通報されてしまってそれ以来遊べていなかったのじゃ」

「生々しい話やめろよ!」


 いやわかるけどさ。公園でおじさんがぼーっとしてたら職務質問の対象になる的な奴。ましてや治安劇悪、暗殺し放題なこの23世紀で不審者に敏感になるのはわかる。暗殺者が業務連絡してたり銃持ってる薬物中毒者の可能性も否定できないわけだからな。でもそれにしても悲しすぎるだろ。不審なおじさんに人権をください。


「この体なら通報されることはないのじゃ、くっくっく、今日こそガンデッド城砦を完成させるのじゃ」

「まあ楽しそうならいいか、完成したら見せてな」

「応なのじゃ!」


 楽しそうに砂浜作りに戻るコスプレスク水通報警戒メス堕ち世襲議員をよそ目に俺はアヤメちゃんの方に向き直る。いつの間にかアヤメちゃんは十二単のごとく服を重ね着していた。野球拳ガチ勢すぎるだろ。俺は断じてアヤメちゃんと野球拳をする気はないのだが。しかしアヤメちゃんは勢いで押し切ろうとしているらしく(俺が時たま勢いで押し切られるのを知っているため)、俺の反応をスルーして叫んだ。


「さあ準備は整いました、その前に前哨戦です、行きなさい犬!」

「お、ゲームっぽくなってきたな」

「おじ様の服を1枚でもはがしてきなさい!」


 野球拳をやる上で一番の問題はアヤメちゃんが未成年であること。未成年を脱がすおっさん、一部例外を除き絶対許されない行為である。


 だがドエムアサルトは成年でマゾ、脱がしても心は痛まない。というか喜ぶだけだろうしな。とっとと全勝してアヤメちゃんに諦めさせるか。


 そう思っていたのだが、何故かドエムアサルトの野郎はもじもじし始めた。


「アヤメ様……既に0枚で不戦敗なのですが……」

「よし野球拳はやめよう!」


 俺は見てなんかいないからな! よく見たら水着のブラに突起が見えてるの。上手く色を偽装し隠しているけど、お前それ全部ペイントかよ! ここヌーディストビーチじゃんねえからな! 


「くっ、使えないカスですね。仕方がありません、私が戦いましょう」

「しないからな」

「私が勝てばヌード写真、負けても「いたいけな少女を脱がして辱めた」という事実を盾に婚約を迫る、完璧な策です」

「絶対にしないからな!」


 俺は慌てて周囲の物を見る。このどうあがいても負けのクソゲーから脱出しなきゃならない。というか未成年との野球拳という犯罪事案から脱出しないとならない。幸いにも21世紀でもよく見かける球体をシゲヒラ議員の持ってきた荷物の中に見つけ、俺は慌てて提案した。


「そうだ、ビーチバレーしようぜ。お前が勝てばヌードでいい、でも俺が勝てばドエムアサルトが服を着る。勝利条件を勝手に決めるのは無しだろう」


 シゲヒラ議員の荷物に入っていたのは簡易のネットに小さなボール。この時代でもビーチバレーはある程度遊ばれているらしい。野球拳だけは避けなければ、と有無を言わせず俺はネットを手に取り設置を始めていく。アヤメちゃんは当てが外れたと残念そうにため息をついた。


「勢いで流せると思ったのですが、いいでしょう。それではスタートです」

「不意打ちだなおい!」


 そしてアヤメちゃんはまだコートを作っている最中の俺の隙をつき、ボールを叩き込もうとする。綺麗な動きで叩き込まれるそれを止めようとした瞬間、俺の体にやわらかい人は肌が二つ重なり動きを止めてくる。そこにいたのはドエムアサルトとシゲヒラ議員。二人は全身で俺に抱き着き、意地でもコート内で動かすまいと足に力を込めている。ちくしょう、こいつら両方身体改造がっつりしてるから意外と体動かねえぞ!? そう思っている内にボールが地面に落ちる。


「ドエムアサルトはともかく裏切ったなメス堕ち世襲議員!」

「すまぬマスター、ヌード写真を渡せば牙統組関連店舗から仕入れ値3割引と言われてしまったのじゃ。買収されるのは儂の特技じゃ!」

「ふふふ、そちらの議員は買収済み。さあ勝負を始めましょう。いっぱい撮って私の部屋の壁紙にします!」

「ワン!」


 アヤメちゃんがルールガン無視でボールを手に取り、拘束されている俺の隙をつき再びボールを叩き込もうとしてくる。いい度胸だと俺は笑う。さてはお前、遊びだから俺が手を抜くと思っているのではないだろうな。流石に自分のヌード撮影イベントとかいう誰得案件だけは何があっても阻止させていただこうではないか。敵はアルファアサルト元隊長に『不死計画』の産物、十分な相手だ。


「いいだろう、見せてやろう『龍』の本領──!」


 ドエムアサルトとシゲヒラ議員の妨害をすり抜け、怪我をさせずに勝負に勝つ。短い夏休みの最終日。不死計画の完成体、『龍』としての力を俺は開放するのであった。







 ◇◇◇◇






 ダークワカヤマ海岸から数km離れた無人島。無秩序に生い茂る木々の中に、眩しい太陽から逃げるように一つの小さな洞窟が存在する。そこには白衣を着た長い髪の女性が力なく壁に体を預けている。一人で静かに座っていた彼女であったがそこに闖入者が現れる。かつん、という音に女、サノア博士は目を向けた。


「よく見つけたわね」

「お前は苦しくなるといつも薄暗い場所で座り込んでいた。忘れるわけもない」


 宮本武蔵の姿を見てサノア博士はため息を吐きながら、しかしどこか懐かしそうに言う。


「そう」


 宮本武蔵は洞窟の中に足を踏み入れる。溜まった雨水が僅かに跳ね、宮本武蔵の体を濡らす。その体が包帯まみれであり、そして『鉄菌竜樹』が帰ってこなかったことからサノア博士は全てを察してため息をついた。


「負けたのね。あの二人をどうしたの?」

「古い知り合いの伝手を辿って引き取ってもらった。訳アリの実験体でもいいからまともな働き手が欲しいと言っていたからな。給料は大したことないが、とりあえず自分達の生活基盤を作り上げる分には十分だろう」

「……なら良かったわ。シスタンクの方は特に外の社会に興味を持っていたから。フルアーマーも何か見つけてくれるといいのだけれど」

「母親らしいことも言えるんだな。その言葉を過去の子供たちにも送ってほしかったものだ、儂の代わりにな」

「全て終わって、荷が下りただけよ」


 サノア博士は手元を見やる。そこには端末の一つもない。彼女がかつて生み出した様々な研究データたちは戦闘の余波により波に埋もれ消えてしまった。隠していたデータもダークワカヤマ社の証拠隠滅のために既に発見、削除されていることはサノア博士も容易に想像がついていた。


「裸一貫、研究データも無し、スポンサーも無し、名誉も無し。ミドリガメに理不尽に潰されて、私の研究人生は終わりよ。全く、何のためにここまでやってきたのやら」


 サノア博士は力なく笑う。彼女の言う通り、サノア博士の研究者としての人生は詰みに近い。無論最重要の情報は脳内のデータチップに格納されているが、各実験の詳細データや実験施設、資金が消滅したのは致命的と言ってよい。ましてや今や『鉄菌竜樹』を急にダークワカヤマ海岸に浮遊させたという経歴を見れば、誰も雇ってくれやしないのは確かであった。


「で、あなたは私を殺しに来たわけ? それともダークワカヤマ社に突き出すために捕獲しに来たわけ?」

「そんな先のない話をしに来たわけではない」

「先? ここで私は終わりでしょう」


 サノア博士は怪訝そうに問いかける。一方で宮本武蔵はどすんと腰を下ろし、サノア博士と視線を合わせる。サノア博士はその目を見て少し動揺した。今までにない、真っすぐな視線だった。


「『鉄菌竜樹』に固執するのはまだいい。『統合構想』とかいう先もあったのだ。だがそこで止まるのは、サノア博士、あなたらしくない」

「人生を賭けた研究が完全に途絶えたのよ!」

「人生が理不尽に破綻するというのは当たり前だろう!」


 サノア博士が叫ぶと同時に、それを上回る声量で宮本武蔵が叫ぶ。宮本武蔵の経緯を知っているが故にサノア博士は反論の一つもできず沈黙した。かつて戦争で体を失い、そして『龍』により誇りを失った男は、前のめりになって語る。


「病気、怪我、スポンサーの移行、社会の動向、不幸な遭遇。積み上げた人生とその成果物が破綻するなんてありふれたことだ! 儂が尊敬した、儂を助けた人はそんな所で止まらなかった! 人を救うためにあがき続けていた! それがどんな形だとしても!」

「……」

「すまない、熱くなった。儂は、兵器を作るあなたが見たいわけではない。だが、そうやって終わっていくあなたを見たいわけではないのだ」


 ふと我に返ったのか、少し頭をかきながら宮本武蔵が姿勢を戻す。その普段とは違う取り乱した姿にサノア博士は今日初めて顔に笑みを浮かべた。


「そんな情熱的に言ってくれると思ってはいなかったわ」

「言う必要が無ければこんなことは言わん。あと恥ずかしいからな」

「あらあら」

「からかうな」

「もしかしたらまた兵器の開発をするかもしれないわよ。そんな人間にかける言葉ではないでしょう」

「『龍』とミドリガメがいる環境下でそれが厳しいのは良くわかっただろう。元より目的は人を救う、それが揺るいでいないのなら自然と医療の方面に向かうというのは容易に想像がつく。それに何かあれば、儂が止める」

「……ついてきてくれるの? 性癖の件は?」

「デザートに取っておく。それに『龍』から秘儀改善案を40項目ほど貰っている。護衛ついでにそれを試す目的もあるというわけだ。目的も成長先も見えた。なら再び前に進むだけだ」

「居酒屋経営サボってすることがそれなの……?」


 二人は笑い合いながら立ち上がる。長く暗い洞窟から、日の当たる太陽に向かって歩き出す。傷だらけで、それでも確かな足取りで。


「それではよろしく、護衛殿」

「こちらこそよろしく、博士殿」














イイハナシダナー。


そんなわけで3章は終了です。色々想定外が多かった章でした。その分キャラが暴れまわって面白かったと言えばその通りなのですが。例えばカヤ君に変な面白性癖がついてしまったせいでダークワカヤマ社を悪くしづらくなって黒幕周りがずれたり、宮本武蔵周辺の下ネタ度が高すぎて投稿サイトからの削除指示に怯える羽目になったり。あとミドリガメ。


3巻が出ることになればがっつり加筆修正を加えて色々補足をしたいところですね。人妻戦車周りとかフルアーマー周りとか。因みにこの二人の回もミドリガメにより消し飛んでおります。あと今のうちに『鉄菌竜樹』強化パッチを検討しておかないと……。



というわけで3章もお付き合いいただきありがとうございました。次話から4章が始まりますが、こちらについては構想中ですのでお待ちください。多分暗黒街のクリスマスの話になると思います。(あるいは間に3.5章を挟むかもしれませんが)


また、サイバーパンク居酒屋『郷』第一巻がゴールデンウィークのkindleキャンペーン対象になっているようです。50%還元とのことですので、まだご購入されていない方はぜひお手に取っていただけますと幸いです。


https://www.amazon.co.jp/dp/B0F1F6JD7Z/ref=tmm_kin_swatch_0


同時に私が原作小説を執筆しましたコミカライズ版『Hereafter Apollyon Online』第一巻も昨月発売となりましたので、ぜひよろしくお願いいたします。


それではまた。



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― 新着の感想 ―
あのミドリガメ、エ〇ギ〇搭載かよ・・・無限の風じゃん
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