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こんなカルタは嫌だ!

箸休め回です。

「犬も歩けば」

「薬物中毒! これで4枚目なのじゃ!」

「嫌なことわざカルタだなぁ」


 ぱん、という音と共に机の上のカードが叩かれる。客のいないカウンターを囲むのは3人と1戦車。俺、シゲヒラ議員、デスア〇メ宮本武蔵、そして妹系人妻戦車シスタンクである。


 黒和社長襲来後半日が経過し、時刻は既に夜。今日は比較的早く客が帰ってしまったが寝るにも早い。そんな中で店に人妻戦車を見に来ていたデスア〇メ宮本武蔵が持ち出したのがまさかのことわざカルタであった。


 23世紀にカルタなんてwww……と笑っていたのだが。今回ばかりはその意味が違っていた。というのも、店内にはドンドンと人妻戦車が地団太を踏む振動が鳴り響いているからであった。


「シゲヒラちゃんず~る~い~」


 うん、口だけなら緩い雰囲気なんだけど現在進行形で局所的な地震と床の破壊が発生しているんだよな。そう、何を隠そうシスタンクはその巨大な脚部でカルタを取っていたのであった。そりゃ紙じゃないとだめだわ。VRならいける……と思いきや、『鉄菌竜樹』に対応しているかと言えば微妙だし、AR的なやつだと判定が面倒だ。まあできないことはないのだが、咄嗟の暇つぶしにそこまでするかという話だしな。


 というか人妻戦車のお手付き、ディスプレイとかだったら画面が割れるどころじゃすまないぞ。そもそもこれ手が交差したら俺以外ぐちゃりと潰されるぞ。


 ……なんて思っていたのだが。


「ふふん、儂のマニュピレータ捌きは絶好調なのじゃ!」


 シゲヒラ議員はメイド服の尻の部分から尻尾のような形で高速精密作業用マニピュレータを生やしている。つまり戦車とかるたをするために、手が潰されないよう代わりのものを持ってきたという訳だ。因みに自我崩壊対策なのだろう、右手はだらりと垂れ下がっており、感覚と操縦を振り替えているようであった。というかそのマニピュレータ、動かすたびにメイド服のスカートが捲れるので止めてほしいんだが。なんで下はスク水なんだよ。気に入ったのかそれ。


 なおデスア〇メ宮本武蔵は読み手なのでノーダメージ。まあこいつは達人の技術で回避できるんだろうけどさ。


 そんな中で俺もカルタで勝つべく、腕の速度と強度を高め、フレキシブルに動かせるように腕関節を4つ増設しているのだが、ここで一つ問題が発生した。


「柿食えば、鐘が鳴るなり」

「デスア〇メ市町村~!」

「下の句どうなってるんだよ!」


 というかもはやことわざですらない。そう、俺の前に立ちはだかったのは魔改造されたことわざ(?)の数々であったのだ。聞いたことねえぞデスア〇メ市町村、不名誉すぎて住みたくなさすぎる。


「それどういう意味なの?」

「デスア〇メ市町村の寂れた光景を示すのじゃ」

「ちょっと待って実在なのそれ!?」

「次のカルタを読んで、おとうさま~!」

「了解だ。飛んで火にいる」

「マッハ2ミドリガメ~!」

「シンプルに内容が偏っているだけな気がしてきたな……」


 マッハ2のミドリガメがスタンダードであってたまるか。どうせこれも暗黒街製、適当な胡乱ことわざをまとめて売っているだけに違いない。印刷費激安みたいだし。


 ようやく一枚目を取り、排気ダクトを震わせて喜んでいる妹系人妻戦車を見ながらデスア〇メ宮本武蔵は頷いた。そして飛び出てくる言葉に俺は体を震わせた。


「娘が楽しそうで何よりだ」

「Nooooooo!!」


 I am your father。そう言われた映画の主人公の気持ちがこんなところで分かってしまうとは。絶叫する俺に、シゲヒラ議員は首をこてんと傾げ、そして手を打った。


「お義父さんなのじゃ……?」

「ぶちのめすぞお前」

「あふぅうん♡」


 喘ぐシゲヒラ議員を他所に頭を抱える。妹系人妻戦車というだけで属性過多なのに、加えて父親系デスア〇メ宮本武蔵が発生してしまったじゃねえか。最悪すぎるだろ。


 なんでデスア〇メ宮本武蔵はシスタンクのことを娘って呼んでるんだよ、お前ら絶対血縁関係じゃないだろ。蛙の子は蛙、デスア〇メ宮本武蔵から妹系社会派人権保有人妻戦車が生まれるはずがない。非常に幸いなことに、デスア〇メ宮本武蔵は俺の言葉を否定した。


「いや、お前は儂の子供ではないぞ、『龍』」

「認知してあげてほしいです~」

「俺どういう扱いなのこれ!?」


 何で俺がかわいそうみたいな扱いになってるんだよこれ。父親にデスア〇メ宮本武蔵を持つ方がかわいそうじゃねえのか。そう思っていた俺ではあったのだが、毎度の如く事情は違うらしい。


「『鉄菌竜樹』の教育を手伝うこともあったからな。何分サノア博士は研究者、生まれた生体を教育する仕事にまで手は回らん。そこで儂は暇している時に相手していたのだ。まあ、娘とは言っているが厳密には娘のようなもの、だな。とはいってもシスタンクの教育には関わってはいないが」

「おとうさまはサノア博士と一時期深い仲だったようですし、合ってると思いますよ~」

「おまけにやけに生々しい情報がでてきたな……」

「まあ儂もサノア博士も古い仲だ、色々あるのだ」


 うん、割と聞きたくないんだけどね。デスア〇メ宮本武蔵とふたなり与謝野晶子の恋愛事情とか。聞いてるだけでマジで頭が痛くなってきそうだし。というか当時だとデスア〇メでもふたなりでもない可能性があるのか。いかんさらに混乱してきた。


 俺はもう話を聞きたくない、と無理やり話を戻そうとする。だっていやじゃん、知り合いのどうでもいい恋愛事情聞くの。やれデートしたときの愚痴だの惚気だの、絶妙に生々しくて反応に困ることも多いし。


「デスア〇メ市町村って実在するのか?」

「そこに話を戻すのじゃ!?」


 驚くシゲヒラ議員を他所に、デスア〇メ宮本武蔵に問いかける。するとデスア〇メ宮本武蔵は当然のように首を縦に振った。


「勿論。昔と違って、「存在しなくてよい人間」が増えたからな。例えば怠惰な人間、例えば単純に能力の低い人間。加速する資本主義社会においてロボットの下位互換でしかない、企業の足を引っ張る存在でしかない彼らに居場所はなく。体よく隅っこに追いやられるか最悪処分されるだけ。ならいっそのこと、という形で自分たちを必要としない社会から離脱しようとした彼らの居場所、その別称がデスア〇メ市町村というわけだ」

「それはデスア〇メなのか……?」

「マスター、もしかしてデスア〇メ原理主義者だったりするのじゃ……?」

「そんなんじゃねえよ!」


 いや確かにデスア〇メは厳密に定義されていない以上多義語なんだろうけどさ。絶頂死、みたいな単語ではあるんだけど絶頂した結果死に至るのか死に至った結果絶頂するのか……って何考えてるんだ俺! 


 どうでもいい考察はさておきとして、まあ市町村の言いたいことは分かった。


「世捨て人の村、ということか」

「そうだ。彼らは初めに社会に対する意欲を無くす。社会を変える、そんな夢を捨て自身の殻に引きこもる。次に自分からの情報発信をやめる。更に自らの意欲を自ら少しずつ削いでいく。努力、まあ大成する未来なんてないししなくていいや。ゲーム、楽しんでも何にもならないからいいや。そう考えながら自身の生を閉ざしてひっそりと老いてなくなる。自身が死に進むことにより資本主義に反逆しているという密かな快感を感じながら。すなわちこれこそポリネシアンデスア〇メ市町村」

「やかましいわ。……まあでも、そうなるよな」


 アホな妄言はさておき、言いたいことは分かる。苛烈な競争、溢れる情報と娯楽、無数に強要される正しさなるもの。ドエムアサルトのように適応できればいいが、できなければ人生は苦痛なものとなってしまう。それならば、という思想は分からなくもない。というか俺もブラック企業にいた時にマジでそれ思ったし。仕事の苦痛に思考をやられて急に金や地位や社会性にふっと価値を感じなくなるんだよ。


 でもこれ蔑称とか言ってたこともあるし絶対偏見。資本主義への反逆とか考えず、シンプルに静かな暮らしの方が好きなだけな人も確実にいるわけだし。俺だって金と名誉と女、いくらでも手に入れられないことはないけれど無視して居酒屋やっている。クソデカ主語とパワーワードで集団をひとくくりにしてくさすの、23世紀でも何一つ変わっていないんだな。


 ただ、そんな話をするデスア〇メ宮本武蔵の声は暗かった。


「……『鉄菌竜樹』、儂を慕ってくれた子供たち。皆、生への気力を失い、死に惹かれていった。アルファは電気配線を引きちぎり自分の首に電流を流した。ミナは自ら扉の隙間に挟まれて砕けた。アンナは自ら内臓を引きずり出し再生限度を超えて停止した。不死の生命を目指し、しかし彼らは自ら進んで死に至った。……儂がこうなってしまったのも、彼らの影響なのかもしれないな」

「『鉄菌竜樹』の弱点ってやつか」

「ポリネシアンデスア〇メ市町村と同じだ。アポトーシス制御を基盤にした結果、死という物を快楽として捉えてしまった生命体は、外への興味を失っていく。死への興味に惹かれ、その他がおろそかになり、ある日忽然と生を終える」

「デスア〇メの定義は大分ぶれている気がするけどな……。でもそうか、だから俺はサノア博士を知らなかったのかもしれないな」


 そういえば、『鉄菌竜樹』及びサノア博士の名前は『不死計画』絡みで聞かなかった。これだけの完成度を誇っているのに。それはすなわち、彼が言うように致命的な欠陥を抱えていたからに他ならないのかもしれない。


 デスア〇メ宮本武蔵は暗い表情で、しかし部屋で楽しそうにシゲヒラ議員と会話するシスタンクを見て笑みを浮かべる。


「彼女だけだ。前に進んでいるのは。……目の前で何人も死んでいくのを見たからこそ、せめて彼女だけは守ろう。そう思ったからこそ早期にシスタンクを回収し、サノア博士から匿ったのだ。まあその当時はまだデスア〇メダブルピース〇ォーカーの段階だったが。サノア博士は間違っている。この子のような、生を目指す、かつて願ったその力を多くの人を巻き込むであろう計画に使うべきではないのだ」


 シスタンクはデスア〇メ宮本武蔵がこの店に運んできた。かつて死んだ『鉄菌竜樹』の子らの忘れ形見だからこそ、俺がサノア博士の計画に気づくよりはるか前に、計画を嗅ぎ付け実験体を救い出そうとしたのだろう。その結果、シスタンクはサノア博士に囚われることなく今ここにいる。


 とはいっても、生を目指すがイマイチよくわからないけれど。誰だって希死念慮はあるわけだし、何をもってデスア〇メ宮本武蔵がその判断を下したのかがいまいちよくわからないんだよなぁ。


 そんな話をしている俺たちに不満が出てきたのか、シスタンクは装甲板を膨らませ砲塔をぶんぶんと不満げに振る。


「おとうさん、もっと楽しい話をしよう~。例えばこのカルタとかさ~」

「そうだな、続きをしようじゃないか」


 人妻戦車の笑顔を見ながら、少し良い話を聞けたな、と思う夜だったのであった。どんな場所にも、人の心というものは確かに残っているのである。




「それでは読むぞ。可愛い子には」

「戦車差別主義撲滅運動~!」

「それはそれとして思想が強すぎる!」



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