お父さんの苦労
「お前が息子の性癖を破壊した婚約者寝取り性転換レズ巨乳少年呼びマイクロビキニおじさんお姉さんか!」
デスア〇メ宮本武蔵のブートキャンプ、人妻戦車の襲来、そして何より昨日発生したモヒカンの帰還。これらの出来事により事態は大きく進歩した。特にモヒカン。なんで敵のアジトから悠々と逃げ出してるんだよお前。しかも丸腰で。もう人外認定しかできないよ。
そんなわけでモヒカンが帰ってきた翌日、服を着たドエムアサルトとその仲間はモヒカンにアジトについての聞き取り調査をしていた。ただ何分モヒカンも詳細な場所を把握して脱出したわけではなく。そのためモヒカンの記憶を頼りに位置を割り出している最中、ということらしい。
そんなわけでそれを待つ間俺は居酒屋の準備をしていた。真昼の熱い日差しの下で、観光客を横目に仕込みや洗い物をしていく。そんなときに、急に大男に絡まれたというわけだった。
「わがダークワカヤマ社の跡取りになんてことをしてくれる!」
「向こうが勝手に壊れたんだが……」
「何もしなければ壊れることはない!!」
そう叫ぶ男の胸には「ダークワカヤマ社社長 黒和ノズル」と書かれている。眼鏡をかけ高級なスーツを着たこの大男はどうやらあの黒和カヤ君の父親であるらしかった。見た目はさっぱり似ていない……のだが、それは母親の血かもしれない。
ダークワカヤマ社。産業廃棄物処理を専門とする地元企業にして、かつてのサノア博士の雇い主。そして牙統アヤメの婚約者であった(過去形)黒和カヤはその次期社長である。その黒和カヤの父親であり、現社長の黒和社長は声を潜めながら、海岸の端を指さして叫んだ。
「カヤは母親似で俺とは違い可愛らしく育った! その結果があのマイクロビキニだ!」
「待望の水着シーンがこれでいいのか!?」
黒和社長の指さす方向を見ると、キョロキョロと何かを探し回る細身の美少女……ではなくマイクロビキニの少年がいた。ウィッグをしているのか髪は長くなっており、端正な顔立ちと合わさって少女にしか見えない。しかもマイクロビキニを着て細い体をむき出しにしている。平坦な胸と僅かな肩のつき方、股間のふくらみが彼女を男であると示していた。しかしすげえな、無駄毛の一本もねえぞ。そこまでやるなんて本気も本気じゃねえか。
というかこの作品、水着シーンがメス堕ち世襲議員と戦車と女装少年しかないんだが一体どうなってるんだこれ。アヤメちゃんは一生部屋に閉じこもっててそれどころじゃないし、ドエムアサルトは元から水着より露出度高いし。この調子だと次に水着シーンで登場するのはふたなり与謝野晶子とかになってしまうぞ。
黒和社長は髪を振り乱して叫ぶ。
「息子は性癖が壊れ、でもドンピシャのものはなく! 仕方なく婚約者寝取り性転換レズ巨乳少年呼びマイクロビキニおじさんお姉さんの類似品を探し回る哀れな男と化した!」
「知らねえよそんなの!」
「ふたなり乱●主従逆転拘束集団○○快楽堕ち本を求めてネットの海をさまよい、諦めてふつうのふたなり快楽堕ち本でお茶を濁す! 俺の若き頃の記憶、貴様にも似たような覚えがあるだろう!!!」
「ねえよんなもん!」
Dls〇teを徘徊する変態みたいな話をしないでほしい。まあ確かにマイナーな性癖は供給が少なすぎて絶望する、みたいな話は聞くけどさ。それでも婚約者寝取り性転換レズ巨乳少年呼びマイクロビキニおじさんお姉さんを検索するような哀れな少年の話は聞きたくなかった。というかR-18だから彼が見たらだめだろ。
「分かるか、親の気持ちが。息子が土下座してまでマイクロビキニを俺に着せた挙句、「違うなあ……」とか言われた気持ちが」
「ドンマイ……」
黒和社長は肩を落とす。シチュエーションはさておき、気持ちだけなら分らんでもない。期待に応えようとしたのに答えらず、むしろ冷めた目で対応されてしまうこと、会社員生活でもあったなぁ。幸いにも俺の場合はブラック企業のクソ上司との話なので割り切れるが、相手が息子だとなおさらだよなぁ。でも親父を代替品にしようとしてるのは意味分からんけど。どれだけ拗れてるんだよ黒和カヤ君。
「……サノア博士も似たようなものだったのだろうがな」
そしてぽつりと黒和社長が呟く。俺は眉を潜めた。この文脈でどうしてサノア博士が出てくるのか。しいて言うならふたなりくらいしか共通点がないぞ。婚約者寝取り性転換レズ巨乳少年呼びマイクロビキニおじさんお姉さんだったりするのかあの人も。そう思ったところで、ふと思い出す。
「……そうか、あんたらダークワカヤマ社がスポンサーだったか」
「以前は、だ。今は裏切られた。非常に残念なことにな」
ダークワカヤマ社。それはサノア博士のかつての後援組織。『統合構想』に向けてサノア博士が動き出すまでは、彼女はダークワカヤマ社に身を寄せていた。先ほどまでの激昂はどこへ行ったのか。黒和社長は落ち着いた様子で話を続ける。ここから先は暗黒街でもよく見た、陰謀の世界。
「『デスア〇メダブルピースウォー〇ー』計画を完成させてくれると思ったのだが」
「監督とボスに土下座すべきだろその名前は!?」
前言撤回、陰謀というよりバカの類だった。確かにピース〇ォーカーは名作だったぞ、P〇Pで友達と遊んだのは忘れられない思い出だけどさ。それがなんでデスア〇メしてダブルピースするんだよ!
「『鉄菌竜樹』及びその亜種。すなわち個体名称『フルアーマー』及び『シスタンク』。この2体にバイオ兵器及び長距離射撃能力を搭載し、トーキョー・バイオケミカル社およびオーサカ・テクノウェポン社に対する自動反撃機能を保有させる」
「……」
「攻撃すればバイオ兵器による手痛い反撃を食らう。制圧してもこれら2機が自爆することによりダークワカヤマ社の保有地を汚染し無価値なものに貶める。我々と戦っても誰も勝利できない構図を作り出すことで、ダークワカヤマ社は企業としての独立性と平和を保つのだ」
「本当にピー〇ウォーカーだったのか……」
自律した反撃機能を持った兵器は21世紀時点でも構想はあった。勿論AIなどが未発達のため完成はしていないし、誤作動した際の危険性の問題もあるため実用化はされていないが。
だが、確かに『鉄菌竜樹』であればそれも可能だ。アポトーシス制御により無数の兵器を取り込める上、生物としての自律機能及び再生能力を保有する。そんなものが2機もあればなるほど、ダークワカヤマ社の安全はひとまず保たれるのだろう。
「だが独立性や平和なんていきなり言い出されても、殺戮兵器作製の正当化にはならないぞ」
「武力も無ければ情報もない。ただトーキョー・バイオケミカル社とオーサカ・テクノウェポン社の間ですりつぶされたことがないお前にはわかるまい」
「いやあるけど。戦車を丁寧に大根おろし(比喩)にしてやり返したけど」
「……息子をマフィアと結婚させなければ独立性を保てない。毎日出勤して、社員と顔を合わせて。なんとなく分かる。ああこいつは買収されたんだろうなと。でも大企業の手腕は見事、尻尾は出さない。少しずつ、じりじりと。自分の会社が終わっていくんだ。外からは何も分からない。ただ、内側だけが虫食いにされていくんだ」
「……」
「外部からは唐突に見えるかもしれない。しかし内側の人間としては、数十年に渡る問題が蓄積されて、『デスア〇メダブルピースウォー〇ー』計画に至っているのだ」
23世紀の企業は終わっている。敵対社員の買収は当たり前、罪を擦り付けて武装勢力を送り込むのも日常茶飯事。実際アルタード研究員はそんな感じのことをやってるしな。
それをされて、でも対抗策もない。少しずつ自分の会社が潰れていくのを感じる黒和社長の感情は、なるほど理解できなくもない。
「サノア博士は、元々平和を願う研究者だった」
「デスア〇メが?」
「元々のサノア菌鉄式増殖法は戦争で傷ついた人を救うための技術だった。彼女は、初めから平和と健康のみを願っていた。それがねじ曲がったのがウミガメのスープだ」
「PTSDの治療、か」
「産卵ア〇メ苗床化菌。やっていることは滅茶苦茶だが本来の用途はシンプル、PTSDを無視できるよう脳神経を外部制御する。そして日常生活に戻れるようにすることが目的だった。だが、当時のサノア博士のスポンサー、つまりトーキョー・バイオケミカル社はそんなつまらないものを必要としなかった」
PTSDの治療。それだけ聞くと素晴らしい物に聞こえるが、シゲヒラ議員の説明はそれとはかけ離れていた。寄生した産卵ア〇メ苗床化菌は、自身が成体になるまでの間、苗床である人間が生存できるようアドレナリンや各ホルモンを分泌し、思考、精神および肉体を大幅強化する。常時薬物を使っている状態にしてしまう。だからこの菌に感染した者は、冷静かつ大胆に立ち回る兵士と化した。
黒和社長は頷く。
「概ね考えていることと同等だ。トーキョー・バイオケミカル社は後から菌に手を加え効果を向上、結果として惨劇を生み出した。サノア博士の研究は殺人の促進のために使われた」
「……」
「それを嫌ったサノア博士は『不死計画』に参入した。すなわち不死があれば人は争わないのでは、という思想だ。だがそれも上手くいかず。結果、俺のダークワカヤマ社の独立と平和を保つという思想に賛同し『デスア〇メダブルピースウォー〇ー』計画を進めてくれる、と思っていたのだがな」
期待に応えようとし、結局冷めた目で対応され。挙句の果てに自らの完成物に手を加えられた。サノア博士の絶望はマイクロビキニを着せられた黒和社長の比ではないのだろう。
そして紆余曲折あり、サノア博士は離反し今に至る。さてここにきて黒和社長が何を言いに来たのか、ようやく理解する。
「サノア博士を止めてほしい、ということだな」
「ああ、我々では彼女を止める武力を保有していない。それに、彼女は『鉄菌竜樹』に核を搭載しようとしている。それが発射されることだけは避けたいのだ」
「……むしろ元々は核を搭載していないのか?」
「するわけがない。この安全に泳げる海を取り戻すために我らがどれだけ苦労したか。いかなることがあろうとも、核の搭載及び放射性物質による汚染は社是に反するため決して行わない」
「ならバイオ兵器も使うなよ……」
「それは別腹だ。さて、報酬は牙統組を通して調整する。何とかしてもらえないだろうか、『龍』殿」
恐らく『龍』の情報はアヤメちゃんから聞いたのだろうな、となんとなく想像する。何も言われずとも漁船回収のついでに何とかする予定だったが、せっかくだし恩を着せようとしているのだろう。なら断る理由もあるまい。深々と頭を下げる黒和社長に俺は頷くのであった。
◇◇◇◇
「それで、結局サノア博士は何を目的としているんだろうな」
「不死による平和、だろう。それがどのような形で成されるかはさておきとして」
おっさん二人(とはいっても黒和社長の方が年は大分上だけど)で海を眺める。黒い海。騒ぐ観光客、脇見せR15自撮りを試行錯誤する女装少年。お前どこに行こうとしてるんだよ、女装少年脇フェチ狙いは性癖の曲がり方がアクセル全開すぎるだろ。
黒和社長は、静かに頷いた。
「あれはお前宛ての自撮りだ」
「俺脇フェチだと思われてる!? というか何のアピールだよ!」
「よく考えたら『デスア〇メダブルピースウォー〇ー』より『龍』の方がコスパが良いかもしれないな。 どうだ、牙統アヤメと一緒に息子も妻にするのは」
「一夫多妻制、ってあんたの息子はオスだろ!」
「あの表情はメスだ。婚約者寝取り性転換レズ巨乳少年呼びマイクロビキニおじさんお姉さんと元婚約者とのホモレズプレイを狙っているに違いない」
「親がそんなこと言うんじゃねえ!」
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