水着捜索隊!
「というわけで水着を買いに来たわけだが……」
「楽しみなのじゃ!」
「ワンッ!」
「おじ様が水着を選んでくださると聞いて」
「言ってねえよ」
なんだこのメンツ、と俺は頭を抱える。この場にいるメンバーは4人。アヤメちゃんとドエムアサルト、そしてシゲヒラ議員と俺。よく考えなくても俺以外全員訳アリの激ヤバ人物たちである。
「改めて見るとメンツがヤバい……」
「おじ様が性癖破壊したのが全ての原因ですから」
「ドエムアサルトは冤罪だしアヤメちゃんとシゲヒラ議員は元々の性質だろ! 適当言って俺をからかうな!」
「マスターが儂を『覚醒』させたのは事実なのじゃが……?」
「事実は事実でも語弊を招く表現!!!」
昨日、漁船消滅の報告を受けた俺たちは、問題の地域にバカンス……ではなく調査しに行くこととなった。基本的な捜査は牙統組に任せ、俺たちは近辺で出店をしながら待機。失われた漁船が見つかったら直ぐに出撃準備、というわけなのだが、逆に言えば待機している間は当然暇。アヤメちゃんもバカンスを名目に現地に赴くため、表面上は現地で遊ぶ必要がある。
というわけで、今日はバカンス用の諸々を買いに来た、というわけであった。しかしこの周辺はやたらと綺麗だな、と周囲をじろじろ見渡しながら思う。
ガラスと金属で構成された巨大なドームの中に、様々な店が無数に集まっていた。内部は眩いネオンの光が辺りを埋め尽くしており、至る所に案内用のAIがホログラムの形で表示されている。まるで人間のような彼らは、実際ほとんど人と変わらない応対が可能で、適当に質問しても正確な答えを返してくれる。
床は液晶になっており歩くたびに紋様のようなものが出る。こういったのは必要なのかな……なんて思ってしまうのだが、客の動向調査のためにも必要らしい。どんな店に行った人がどんな他の店に立ち寄ったのか。確かにこういったデータは前世でも重宝されていた気はする。まあ俺の店では使って欲しくないが。だって絶対ランバーが立体機動乳首おっぱぶに行ったとかいうド級の外れ値が入っちゃうし。
ここはアヤメちゃん御用達のデパートであり、駅や小規模空港との距離も近い。そのため暗黒街内部の人間に限らず、上流階層の様々な人間が利用する。というのも各企業が禁止するような非合法の物も置いているからなのだが、まあそれは今回の件とは何一つ関係ないので置いておくとする。
「なんか場違いすぎでソワソワする……」
ホコリ一つない床に行き交うやたら派手で高級な人々。いつもの服のままの俺ははっきりいって浮いてしまっていた。が、他3人は慣れた様子で、悠々と歩きながら話している。ちなみにではあるが、本日はドエムアサルトはスーツを着ている。本当によかったよ……。
「デスア〇メ宮本武蔵2話見ましたか?」
「見たのじゃ。まさかデスア〇メ宮本武蔵すら数ある名の一つじゃとは。コンド〇ム師匠の0.03mm神拳がふたなり与謝野晶子の変形ロボットに届くのか、次回が楽しみなのじゃ」
「面白そうですね。私も見てみようかしら」
うわ、俺も昨日見ておくべきだった。名前はさておき新技は気になる。そうやって四人で歩いている中、シゲヒラ議員がふと切り出した。
「漁船消失の件、軍事方面は詳しくないが、いくつも船が無くなったのなら直ぐに見つかると思うのじゃが」
当然と言えば当然の質問だった。今回はなくなった船が多すぎる。となれば出店やバカンスをする暇もなく見つかるはず、と考えるのは当たり前だ。
しかしアヤメちゃんは首を振る。
「いいタイミングで放送が流れていますので、あれを見てください」
プロジェクターにはいくつもけばけばしい色の広告が流れている。その中の一つに、ひときわ目立つ広告があった、
「放射性物質の放射線抜き、黒浜海岸へようこそ!」
「なんだよラーメンの麺抜きみたいな言い方」
流れる青い海、黒い砂浜、水着の美女とマイクロビキニのモヒカン。見覚えのある姿は……多分撮影時期から考えると以前も何度も脱走していたんだろうな。何してるんだよあいつ。そんな話はさておくとして。
「昔色々あったのか」
「核爆弾のワゴンセールがあって、海は汚れ放射性物質がまき散らされましたワン。それを産業廃棄物処理を専門とする、地元企業のダークワカヤマ社が底値で購入、土の入れ替えや無害化処理を何十年にもわたって完成させた観光地だワン。なので周辺には兵器が埋まってたりするし、一部はリアス式海岸になってるし、しかも孤島もそこそこあるワン。だからしらみつぶしにするだけでも時間がかかるワン。ましてや衛星監視を誤魔化すような相手なら猶更ワン」
「語尾と話の内容の複雑さがかみ合ってないんだよな……」
まあ色々理由があるのはわかったけど。なるほど、捜査なんて簡単にいうけれど難易度は高いわけで。ましてや海という環境が合わさればなかなか時間がかかる。そこで牙統組としては俺を待機させておいて、いざというときにM2の速度で突撃させたいわけである。
「と、事情はわかったが海水浴、ねえ……」
大変申し訳ないが、俺はともかく他の奴らが海水浴に行くメリットが分からない。この23世紀、VRが発展した今では意味がないのではなかろうか。そんな疑問は、アヤメちゃんにあっさりと否定された。
「おじ様、VRにも費用がかかります。例えば性的なお店は単価が高いこともあり、かなり電脳への進出がすすみましたが、こういったバカンスのようなものはVR化のコストが高いんです」
「なるほどなぁ……」
「それに手間の削減や体験を買う、という観点では未だにリアルが好まれますから。一人飲みできても居酒屋に来る人は多いですよね?」
アヤメちゃんの言うこともごもっともである。そんなことを話しているうちに、俺たちは水着専門店の前に到着する。
水着専門店とは言うが、まあ普通の洋服屋である。比較的小規模で、シーズンごとに特化した服を販売することで差別化を図っているらしい。それじゃあ入ろうか、そんな風に思っていた時に、聞き覚えのない声が響いた。
「ここにいたのか、牙統アヤメ!」
「お久しぶりです、黒和カヤ」
「何十回も連絡していたのにどうして無視する!」
黒和と呼ばれたのは、眼鏡をかけた12歳くらいの少年だった。まだ背は低く体つきも細いが、整った顔と大きく綺麗なつり目は将来相当のイケメンになることが容易に想像できる。
その背後には無個性な黒服の男が一人立っているが、彼はこのことに興味が無いようで無言で立ち尽くしている。
「知り合い?」
「さっき言っていた、ダークワカヤマ社の社長ご子息にして次期当主です。私に取り入って、牙統組の権力を欲しがっているようですね」
アヤメちゃんは面倒くさそうにため息をつく。適当にあしらえばいいのに……と思っていたがそういえばドエムアサルトの長話の間にこんなワードがあった。
『産業廃棄物処理を専門とする地元企業』
……なるほど、暗黒街内で捨てられないものはこういった所に委託しているわけである。となれば、取引相手をあまりにも無下にしすぎるのはよくないというところなのであろう。アヤメちゃんにもまともな良心があったんだ、良かった……。
「別に連絡を返さないくらい、普通にあることでしょう。互いに忙しい身ですし」
「そんなことはない! そもそも生まれた当初は僕たちは婚約、18になれば結婚する予定だったろう!」
「いつの話をしているのですか。『とある件』をきっかけに婚約は破棄されていますよ」
「だからその婚約破棄がおかしいという話だ! 父さんは諦めていたけど、僕はそんなのを認めないぞ!」
「ほう……」
黒和カヤ君の表情はとても面白いことになっている。怒っているようだが、耳まで赤いのはこれはもしかして、本気でアヤメちゃんのことが好きなのではなかろうか。そのせいかは分からないがアヤメちゃんも若干対応に困っており、ドエムアサルトは暇だからかポケットから端末を取り出してゲームを始めている。いや、身体改造のおかげで見なくても分かるんだろうけどさ、あとでお仕置きされても知らないからな……。
さて、急にお家同士の話や子供たちによる痴話げんかが始まったわけだが、俺には正直関係ないわけで。
「よくわからないけど色々あるんだな。それじゃごゆっくり。行くぞ、シゲヒラ議員」
「え、おじ様!」
「いってらっしゃいワン」
「了解なのじゃ、水を差すのも悪いので、また後でなのじゃ」
そして俺は好機と見て、速攻で離脱する。ククク、これでアヤメちゃんからの好感度ダウン間違いなし。これを機に黒和カヤ君を光源氏計画する方向に切り替えてもらい、俺をヤクザ次期当主にする可能性を減らしてもらうのだ!
「マスターも悪じゃのう」
「ふふふ、お代官様ほどでは。ちなみに今日の服代はどこから?」
「横領金からなのじゃ!」
「マジの悪だ……」
「それほどでもないのじゃ。最近の企業の見積もりには横領費という欄が含まれるくらいじゃからの」
「社内での横領前提……?」
「横領している奴が上に上がってしまったせいで、周囲が忖度しての……」
「ああ、横領を指摘する正義感を上層部にも発揮するんじゃないかって思われたら困るのか……」
カスみたいな企業の内情はさておきとして。俺たちは店内に入る。ネオンの光まみれの廊下とは違い、店内は落ち着いた音楽と穏やかな照明であった。店内に入った俺たちを、案内のホログラムが迎える。
『いらっしゃいませ! 店内にありますものは試着用の品となっておりますのですべて試着可です。どうぞ、心行くまでお試しください!』
「あー、着心地とかはネットショッピングではわからないもんなぁ」
店内には色とりどりの様々なサイズの水着、そして着替え用の個室が備え付けられている。試着品は一度使用するごとに洗浄するのだろう、自動陳列用のアームや使用済試着品入れのBOXが個室の前には置かれていた。
「試着してみるか」
「選んでほしいのじゃ!」
「──ですから、どうして僕と」
「──ダークワカヤマ社にはお世話になっておりますが」
「──あ、ゲームオーバーだワン」
背後で聞こえる音は無視して、俺たちは水着を選ぶ。男用水着なんて着れればいいだろ、と来るまでは思っていたのだが、そんなことはなく。ダブルチ〇ポ用だとか尻尾穴付きだとか多種多様、一般仕様のものを探すのに少し苦労してしまう。
一方シゲヒラ議員は事前にある程度調べていたのだろう。あっという間に3種類の水着を持ってきて、俺の方に見せつけてくる。
一つはフリルのついたワンピースタイプの水着。背中は大胆に空いているようだが、それ以外は露出が控えめで、蝶の刺繍が特徴的だ。
もう一つは……すごく見覚えのある、青いセパレートタイプのぴっちりとした水着である。というかほとんど似たものを見た記憶がある。これ外見はほとんどスク水だ。
そして最後に3枚の葉っぱである。葉っぱ隊に参加したいのだろうか。
「ってか一つ明らかにおかしいだろ!」
「露出度は最高なのじゃ!」
「やかましい! でもワンピースもスク水も普通に似合いそうだな……」
俺はまじまじとシゲヒラ議員の体と水着を見比べる。こいつの人工の体、さすがアルタード研究員の技術力というべきなのか完璧なんだよな。どっちにせよ絶対映える。俺が頷いているとシゲヒラ議員は顔を赤らめ急速に体をくねらせる。
「視姦されてるのじゃ……」
「黙れ変態」
「あふぅん!」
とりあえず着心地がどうか試着してこい、と俺はシゲヒラ議員の背中を押す。実際、サイボーグは継ぎ目に生地が引っかかったりするリスクがあるしな。流石に一度着てみるべきだろう。
よろよろと個室に向かうシゲヒラ議員を他所目に、俺も水着を選ぶ。無難なのを一つと……お、これ見たことあるやつだ。折角だし『練習』がてら着てみるか。俺は二つをもって個室に向かう。そういえば、昔の漫画だとこういう時にラッキースケベがあったよなとふと思い出す。シゲヒラ議員相手にするわけがないが。
「──だから、私はおじ様と婚約することに決めたんです!」
「──あの冴えない中年一歩手前と!? というか認めないぞ、寝取られは僕の中で重罪だ!」
「──あなたとはそもそも寝てないでしょう! それにおじ様はそんな人ではありません、正真正銘の異常者です!」
「──間違ってないけどその言い方はどうなのだかワン……」
糞みたいな会話が聞こえてくるが、まあ若者はこれくらい恋に熱心な方が良いだろう。黒和カヤ君は冗談抜きにアヤメちゃんのことが好きみたいだし。金と欲望が複雑に入り混じるこの暗黒街での素直な恋愛、シンプルに応援したいものである。
個室に入り、まずは無難な黒の海パンを履く。これは21世紀となにも変わらない感触で安心する。こいつはとりあえず買いで確定でいいか。
そしてもう一つの水着を着るべく、『練習』を始める。うん、普段はこういうことしないから困るけど、鏡を見ながらやればできないことはない。最近名が再び広まりつつあるから、こういう小細工もできた方がいいと常々思ってたんだよな。
「──温室育ちの子に私は興味がありません」
「──暗黒街のザコにそんな思いを向ける必要はないだろう!」
「──私はおじ様を絶対あきらめません! あんな面白い音の鳴るおもちゃ……ではなく究極生命体……でもなく」
「──照れ隠しなのはわかるけど最悪すぎるワン……」
「──もういい、あの男に直接話をつける!!!」
「──あ、今は……」
大きな黒和カヤ君の声がしたかと思ったら、ドスドスと俺がいる個室に向かって荒い足音が聞こえてくる。ちょっと待って、『練習』の途中なんだけど! と遮る間もなく、カギをかけ忘れていた個室の扉はあっさりと開け放たれてしまうのであった。
「あ……」
「少年、急に開けるなよ。恥ずかしいだろ」
そして目の前で、黒和カヤ君は顔を真っ赤にして絶句する。後ろにいるアヤメちゃんは驚愕の表情をしていた。まあそれはそうだろう。
「おじ様……なんですかそれは」
「『マイクロビキニ:全性別対応:紐長さ3mm~50m、ネズミから戦車まで全対応!』だ」
「どうして性転換しているんですか!」
鏡に映る俺の姿はあまりにも激変していた。艶やかで長く黒い髪、豊かな胸、引き締まったウエスト。以前の俺を思い起こさせる部分もあるが、整った美しい顔立ちの美女。
そんな美女が、半裸で立っていた。まだマイクロビキニを着ている途中なので、片方の胸に至っては局部が出てしまっている。まあ男なのでそんなには気にしないけど。
「いや、変装スキル習得できないかなと思って」
「何新スキルツリー開拓してるんだワン!?」
「お前に言われたくないぞドエムアサルト。それに龍になれるならなんにでもなれるだろ」
つまり、数式ア○○女でサッカーした時の要領で肉体を組み替え、俺は女体化していた。というのも、以前のアルタード研究員の時や数式ア○○女の時のように、俺が追跡されるような事態は今後もそこそこ考えられる。ならば、それ対策のスキルは必須だろう。そして印象を最も変える方法の一つを検索したところ、性転換という文字がでてきたのだ。
今回の変身は他種族の遺伝子導入とは少し訳が違うが、まあそもそもこの体に人間の遺伝子なんか入ってない。なのでえいや、といつもの感じで諸々を組み替えたら上手くいったという訳である。
それに、人妻戦車も使用可とうたっている、サイズ可変式マイクロビキニなるものを試してみたかったのだ。本当にサイズを変えても使えるなら、オーダーメイドで男用の下着を作るのも一考の余地がでてくる。サイズを大きくしたらパンツ破けて、戻った時に全裸なの本当になんとかしたかったんだよ。
そういうきちんとした理由もあるし、別にシゲヒラ議員みたいなことをしてるわけじゃなく、一時的に組み替えてるだけだから全然普通のはずなんだけれど。アヤメちゃんは深くため息をつく。
「おじ様って自分に対してだけは普通判定甘いですよね。そのレベルで完璧な細胞変化、老廃物も見当たらないですし研究者が聞いたら発狂ものですよ。とりあえず女の子の体について私とベッドで学んでみます?」
「そういう目的じゃねえよ、実用目的」
「まあまあ、そう言わず。……?」
「……? どうした少年」
アヤメちゃんの視線が不意に俺から外れる。その視線の先は顔を真っ赤にした黒和カヤ君であった。そういえば彼がこの個室の扉を開けたのであったが、完全にフリーズして動いていない。
黒和カヤ君、どうしたのかな、と俺は心配になり彼に視線を合わせるべくしゃがみ込む。すると彼は俺の胸元に視線を向け、さらに顔を真っ赤にする。そんな状況でも彼は俺から視線を逸らさない。
しばらくした後、黒和カヤ君はぼそりと呟くのであった。
「婚約者寝取り性転換レズ巨乳少年呼びマイクロビキニおじさんお姉さん……?」
「まずい変な性癖が開いてるぞ!!!」
「何やってるんですかおじ様!?」




