07. 兄の結婚
お兄様とルイーゼが結婚する日は、青空の美しい日だった。
ルイーゼの家族と伯父様であるキエザ辺境伯が遠方からワイバーンに乗ってこられた。
我が家の方はフォートレル辺境伯一家や叔父様の家族など、親しい親族勢揃いだ。
アマデイ家やキエザ辺境伯家は、どちらも隣国ながらフォートレル辺境伯家やフェリシテの実家であるマンティアルグ辺境伯家と同じ雰囲気だった。国の違いよりも辺境という共通点が大きいのかもしれない。
私は今まで一度も国境を越えたことがなかったから初対面だったけど、隣人として上手くやっていけそうな方々でほっとする。
「ルイーゼは兄弟の中で一番、頭が良いんだ」
二人いるお兄様方が口を揃えて言う。どちらも頭脳戦よりも力技で戦う方がお好きらしい。
キエザ辺境伯の一族は我が家と同じ、結界で人を助けてた家系だけれど、聖女ではなく聖人の家系なのだそう。だから当主は代々、男子がなるものなのだと教えてもらった。
「聖人とか聖女って、異国の殉教者みたいだ」
そう笑いながら言うキエザ辺境伯は、とても大らかそうだった。
大陸を呑み込む勢いだった魔獣のスタンピード以前は、国を守った人たちの多くが平民で、収まった後に国から貴族に取り立てられた新興の家だからなのか、割と素朴で大らかというか大雑把なところがある。今回、婚約のために集まった人たちは皆、そういう感じだった。
粛々と結婚式を済ませた後は、お祝いの宴席になる。
「フォートレル辺境伯家の血筋は美人好きだな」
酔いの回ってきたキエザ辺境伯が楽しそうに言う。フェリシテとルイーゼが並ぶと、確かにそう思われても仕方がない。
どちらも雰囲気はまるで違うけれど美人というのは同じだ。鮮やかな色彩を持つ派手目なフェリシテと、色が大人しく清楚系美人のルイーゼ。でも二人とも外に出るのが好きで、楽しそうに魔獣を狩るけど。
すごく強いところも同じだから、万が一、夫婦喧嘩などになってしまったら、逃げだすのは夫たちの方だろう。
延々と続く宴に疲れた私は、少し静かな場所に移動する。
そこは既に先客がいた。クロヴィスとルイーゼの二人の兄と、全員女っ気のない男達だった。
「なんか寂しいもの同士集まってる感じ?」
「そういうお前も独り身だろう?」
クロヴィスがニヤリと笑う。
「言われればそうかも」
そう言ってはいるけど、私を含めて全員が寂しいと思っていないのが判る。気楽でいいやって思っているのかもしれない。
私は次期当主として家を存続させるために、結婚して子供をもうけなくてはいけないけど、最近は別に私の代で終わりにしてしまっても良いかなと思い始めている。
大陸中の人が滅んでしまうかもと思った魔獣のスタンピードの直後は、人は分断されとても弱い存在だった。だから聖女のような守り人が必要だった。
でも今はスタンピード以前には戻っていないものの、人は十分に増えたと思うのだ。
そんな中、ずっと聖女は必要なのだろうかと思い始めた。別に不要だから我が家を終わらせるという気はない。
でも無理してまで家を存続させ、次代の聖女を産まなくても良いと思い始めたのだ。一緒に人生を歩みたいと思える人がいなければ、そのまま独身を貫こうと思う程度だけど。
少し会話を楽しんだ後、風にあたって酔いを醒ましたくなったからと席を立つ。楽しいからとちょっと飲み過ぎたのかもしれない。
領主館の近くをブラブラと歩く。とっぷりと日が暮れた後だけど不埒な行いをするような不届き者はいないし、魔獣の心配もないから安心だった。
しばらくすると私と同じように酔いを醒ますためか、クロヴィスと鉢合わせした。
「楽しいけど疲れるわね。みんな体力が有り余っているのかしら」
何時間も続く宴だけど、誰も疲れた素振りは見せない。
「なあ、俺にしておかないか?」
不意に言われた言葉は意味がわからなかった。
「結婚するなら俺にしておけ」
「……!!」
いきなりの事で私の頭は真っ白になる。
「そんな目で俺のことを見ていないことは判ってるけど、できれば俺を見て欲しい」
「……急な話だからびっくりしたけど、でもクロヴィスのことは嫌いじゃない。むしろ好き?」
お兄様が卒業した後の学園で、いつも優しくしてくれたのはクロヴィスだけだった。
「なぜ「好き?」って俺に聞く」
「え……どうしてだろう?」
そこまで言って少しの間、二人は無言になる。
先に口を開いたのは私だった。
「私ね、学園にいたとき、婚約者がジョルジュ様ではなく、クロヴィスだったら良かったのにと思ったことは何度もある。だから見られないってことはないの。でもいきなりすぎてびっくりしちゃって」
嫌いではなくむしろ好意はある。
だけど私の感じてる「好き」が恋人としての「好き」なのか親戚とか友人として「好き」なのか区別がつかない。
「そうか……」
「逆に、どうして私が良いのかが判らない」
「学園にいた女たちと違って、マリエは自分の義務をよく理解している。それに可愛い」
可愛いという言葉に私は顔が熱くなる。
「ずっと妹としか見られてないと思っていた」
「俺も兄の様に見られているとばかり思っていた。でも気持ちを伝えることもせず諦めるのは嫌だった」
気持ちを伝える……いつから気持ちがあったのだろう?
私は……いきなりだけど、告白されて嬉しかった。
だから、もしかすると……。
単純だと我ながら思う。告白されてコロリと落ちてしまうなんて。
でも……。
「もしかしたら私たちは遠回りしていたのかもね」
「そうだな」
言い合った後、どちらともなくクスクスと笑いだす。
そして私たちは手を繋いだまま、広間の方に戻っていった。




