表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~  作者: 紫月 由良
1章 訣別

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/37

06. 魔法結晶の正体

家族会議シーンで名前のミスがあり判りにくくなっていましたので修正しました。

 私とお兄様はワイバーンの背から見下ろしながら、オリオール領と北側に隣接するランヴォヴィル侯爵領の間にある森を確認した。


「少しは森が広がったか?」

「……どうかしら? 面積はそれほど変わってないように思うけど、鬱蒼としてきたとは思う」


 ジョルジュとの婚約解消を機に、王都との付き合いを止める方向でオリオール伯爵家、フォートレル辺境伯家は動いている。その一環として王都側の領地境の森を広げて、物理的に地上の往来を難しくすることにしたのだ。


 ただあまり森を深くしてしまうと魔素が濃くなり過ぎ、魔獣が増えるのでほどほどにする必要がある。

 今までは体裁を整えるために隣のランヴォヴィル侯爵領との間にある街道整備に力を入れていた。何より私とお兄様の婚約者が中央貴族でありワイバーンに騎乗できなかったから、道の整備が必須だった。木を剪定して視界を確保するだけでなく、森の外れに兵の詰め所を作ったり、結界を張るところから、道の凹凸を均して少しでも快適に移動できるように。


 でも婚約が解消され、魔法結晶の納品以外、王都に行く必要がなくなった今、地上の道は必要ない。一応は残すし最低限通れるようにはするけど、手入れされない道での移動は大変になるだろう。何より兵士を常駐させないし護衛もしないから、危険度は跳ね上がる。


 森はこちら側よりもランヴォヴィル侯爵領側に広がりつつある。他領に対する越権行為だけど、バレなければどうってことはない。私たちが何もしなかったところで、森の外縁を手入れしなければ徐々に森は広がっていくのだから。


 私たちは辺境側で行っていた作業から手を引き、ついでに広がるのにちょっとだけ手を貸しているだけに過ぎない。


 今までなら半日掛からずに抜けられた森は、そう遠くない未来――多分次の冬かその次の冬には、短い昼の間に移動できなくなる。夏場なら早朝に出発して日が暮れる前にようやく森を抜けきれるけど。


 しかも魔獣の気配が濃くなるようにして、馬ではなく竜でなければ踏破できなくしようとしている。

 もし辺境が中央と決別して独立するようになれば、森を一気に広げ、辺境の飼うワイバーンが飛ぶこともできないくらい深い森にする予定だ。


 どこまで森が拡張すればランヴォヴィル侯爵家が気付くか不明で、領兵の賭けの対象になっている。我が家が王都の屋敷を引き払って一年近く経った今でも、気付く様子はない。状況的にも心理的にも手を貸す理由はないというのに。


 もしかしたら気付いていながら、甘く見て何もしていないだけの可能性もあるけど。

 この国では貴族も平民も辺境を見下し中央に憧れる。ランヴォヴィル領だけでなく多くの貴族の領地で、町や村は中央よりの領境付近に集中していて、辺境側の領境方面には人里がない。森から遠く魔獣被害とは関係ない領地でさえ。

 中央人にとってより王都に近い場所に居を構えるのは、地位や格を示すものなのだ。


「疲れたか?」

 お兄様の気遣う声に意識を切り替えた。ワイバーンに乗っているのに、ぼーっとしてたら危ない。気を付けないと。


「ここら辺はもう少し森を深くしたいけど大丈夫?」

 今飛んでいる辺りは地面が見えている。もうちょっと木や草を生い茂らせたい。


「そうだな、もうちょっと魔石を撒こうか」

 森の動植物は魔素で成長する。魔石は肥料のように植物を育て魔獣を増やす。


「もうちょっと森を広げたいわ。ランヴォヴィル領側に広がるように」

「そもそも、森が広がらないようにオリオール側は城壁を築いているからこっち側に森を広げるのは無理だろ」


「まあそうなのだけど……」

 再び魔獣のスタンピードが発生しても被害を最小限に食い止められるように、森の境より少し内側に城壁を築いてある。反対側にも城壁があれば安全だと忠告したけど、村が森から随分と離れていると鼻先で笑われた。スタンピードが発生したら中央側は被害甚大だろう。


 正常な状態の魔獣なら森を大きく離れて移動しないけど、スタンピード中は正気を失うから、どういう行動をとるか不明だ。流石にここから王都まで蹂躙するほどではないと思うけど、少なくとも最寄りから一つか二つくらいの集落は呑み込まれる気がする。



 * * *



「セザール、クロヴィス、お帰りなさい」

 他領に出かけていたフォートレル辺境伯家の兄弟たちが揃って帰ってきて、竜舎で私たちと合流した。


「一緒だったの?」

「途中で合流した」

 クロヴィスが良い笑顔で返す。

「既にお父様たちが待ってるみたい、急ぎましょう」


 到着したばかりだけど、いつでも家族会議が始められる。「家族会議」と称しているのにオリオール伯爵家とフォートレル辺境伯家が揃うのは、両家は一心同体であり一つの家門だとお互いが思っているから。我が家からは私、お父様、お兄様、叔父様の四人、フォートレル辺境伯家からは叔父様、セザール、クロヴィスの三人。お兄様や従兄の結婚後はその配偶者たちも参加することになると思う。叔父様の配偶者がいないのは妻に先立たれているから、フォートレル辺境伯とその夫人が不参加なのは、隣国の辺境伯家との打ち合わせのためだ。


「中央に出す魔法結晶はどうするの?」

「攻撃に使えそうなものは避けたい」

 私の問いにセザールが即答する。


 天然物だと思われている魔法結晶だけど実は人工物だから、大きさも純度もある程度は意図して変えられるのだ。作っているのは当代聖女たる私。大量に魔力を使うので、直系でもお兄様や叔父様では無理なのだ。


 聖女が聖女たる所以は、その類まれなる膨大な魔力と、他の追随を許さない魔力操作による。かつて魔獣のスタンピードから人々を守った魔法による結界は、この国では聖女と呼ばれたただ一人の女性しか展開できなかった。隣国ではキエザ辺境伯の祖先となった聖人と呼ばれる一人の男性だけ。


 もしほかに国が残っているとしたら、同じように聖女や聖人と呼ばれるような人が、スタンピード時に存在したところだけだろう。


「純度を下げようか?」

 攻撃に使えそうなものを避ける意味を理解して、再び尋ねる。


「それが良いな。あと火の結晶は無しの方向でどうだろう?」

 セザールの言葉を引き継ぐように、お父様が発言した。


 我が家が王都の屋敷を引き払ってから、中央との関係は急速に冷え込んでいる。今まで契約より多い数の魔法結晶を献上していたけど、次からは契約通りの数になる。大きさも契約の最低限に。魔法結晶の種類は問われないから、こちらの都合の良いものだけに。


 すでに辺境は中央との決別の方向に舵を切ってもいる。魔獣素材や魔法結晶といった辺境からの資源に頼っている中央は、辺境が離れることを決して許さないだろう。


 でも契約にない資源を出す気は全くない。たとえどれほど責められても。

 だからきっと戦争が起きる。


 兵器として流用可能な魔法結晶は戦争に投入されるだろう。戦になった場合、辺境と中央を隔てている森を焼かれるのは悪手だ。いくら辺境の兵士が強いといっても、中央とは絶対的な兵士の数が違う。森を有効に使わなくては勝ち目がない。


 お父様が火の結晶を出したくないというのはよく理解できる。多分、私だけでなく会議の参加者全員が、同じように思っているだろう。


「出すのは聖魔法と水魔法、土魔法の三種類だけ、中でも水魔法は少な目で。純度は下げられるだけ下げるのはどうでしょうか?」


「それで良いんじゃないかな」

 満場一致で方針が決まった。


 今までも天然物を装うために純度にバラツキを持たせていた。かつては献上の際に「今年の分は全体的に純度が悪くて」なんて会話があったらしいから、全体的に純度が低くても問題なさそうだ。

 もっとも純度が低いといっても魔石とは比べ物にならない魔力量と威力を誇るのだけど。


「オリオール家から出す分は、規定値ギリギリの大きさで良いかしら?」

「そうだね、去年よりも小さめで行こうか」


 方針が決まれば後は早かった。「他領に撒く分は――」「大きさは――」

 次々と出てくる言葉は質問というより、参加者の認識が同じなのを確認するだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うわー、森の拡大速度が早いのは人為的工作(魔石ばらまき) があったんか アニメ「ナウシカ」の腐海のイメージがががw スタンピードの先陣に巨大ダンゴムシの群れを幻視w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ