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02. 婚約破棄の翌日

登場人物の年齢に不備があったため変更中です。

主人公マリエからの相対的な年齢差

旧:

セザール +3歳

兄、クロヴィス +2歳


新:

セザール +4歳

兄 +3歳

クロヴィス +2歳

現在、本文修正中のため、一時的に年齢などに齟齬が生じています。

申し訳ありません。

 馬車の中でゆっくりとこれからのことを考える。


 学院を卒業するまで、残り一年半。

 貴族の子女はほぼ全員が王立学院の卒業生だから、王都で社交を行うなら卒業している必要がある。

 私は次期当主だけど社交を行う必要がない。なんなら二度と王都に足を踏み入れなくても許されるのだ。


 貴族は特権階級ではあるが、同時に様々な義務が課せられている。領地の豊かさや規模に見合う納税、参内や公式行事への参加など。


 しかし東西南北を治める各辺境伯家は領地の環境が厳しいため、多くの義務が免除されている。フォートレル辺境伯家の分家であるオリオール伯爵家も同様の扱いだ。


 特に我が家は魔獣のスタンピードから国を守った神官――後に聖女と呼ばれる女性の子孫であるということ、魔法結晶の最大産地ということで、魔法結晶の献上以外の義務が無い。


 だから領地から出ないで一生を終えることも可能だ。今の私が王都でできることは限られている。まだ未成年だから、自分の結婚に関すること以外の権限は一切無く、王都と領地の橋渡しや連絡役がせいぜいだ。

 でも領地なら見回りや魔獣討伐など、できることも、やらなくてはいけない仕事も多くて忙しいくらいだ。


 ――うん、退学しても良いかな。

 考えれば考えるほど、学院に通う必要性を感じられない。夕刻の定時連絡のときに婚約解消と一緒に相談してみよう……。



 * * *



「お兄様、今日、ジョルジュと婚約を解消いたしました」

 定時連絡の時間になるのと同時に、領地との間に通信魔法を展開する。


 簡単に展開できるように通信媒体を作ってあるから、魔力を通すと瞬時に通信を始められる便利道具だ。遠隔地とのやりとりができるのはとても便利だけど、魔力を多く必要とするから使用可能な人はほとんどと言って良いほどいない。特に距離に比例して消費魔力も多くなるとあって、王都と領地の間で通信魔法を使えるのは私とお兄様、それにお母様の弟にあたる叔父様の三人だけだ。


「思ったよりも早く解消できて良かったね」

 すぐ傍にいるのと変わらない早さで言葉が返ってきた。婚約がなくなって喜ばれるというのは、なんだか不思議な気分だ。

 でも最近はお互いに婚約を解消するように動いていたのだから、良かったという言葉以外に適当な言葉を思いつかない。


「ええ、それでね学院も辞めたいの。お兄様たちが在籍していた頃よりも、ずっと居心地が悪くて」

 同級生が私と口を利きたがらないのも、細かな嫌がらせをいろいろされたのも今と変わらないけれど、登下校や昼休みはお兄様たちと一緒だったから、さほど苦にはならなかった。


「ランヴォヴィル家の子たちとはどう?」

「口を利かないどころか、目が合うと睨まれます。お兄様が在学中の頃とは違って、まるで中央人のようだわ」


 オリオール伯爵家の北隣の領地であるランヴォヴィル侯爵家とは、適当な距離を取りながらも多少の付き合いがある。

 我が家や本家であるフォートレル辺境伯家が王都に向かうためには、より王都に近いランヴォヴィル領を通る必要があるし、向こうからすれば領地境にある森から魔獣が溢れ出たときに、オリオール・フォートレル両家の領兵を頼らなければ解決できない。持ちつ持たれつの関係なのだ。


 とはいえランヴォヴィル家の屋敷は領地の中でも北端に近い位置にある。距離がありすぎて領主家同士の付き合いはほぼ皆無といっていい。


 それでもお兄様とランヴォヴィル家の息子たちは学院で初めて顔を合わせてから交流が始まり、私とも多少の雑談をする程度の仲にはなったはずだった。お兄様が卒業し、私と同じように付き合っていたクロヴィスまで卒業してしまってからは、中央の貴族達と変わらない態度をとられるようになって、それっきり没交渉だけど。


「じゃあカミラとは? 仲が良かったよね?」

「学年が違うもの。四年生と五年生だから、無理をしないと一緒にはいられないわ」


 兄様が自分の婚約者の名を挙げる。北の辺境伯家の令嬢だ。辺境の暮らしを捨てて中央貴族として生きる道を選んだ家の令嬢だけど、兄弟とは違って兄との関係がとても良い。私とも血の繋がった姉妹のような関係だけど、学年が違う所為で教室が離れているから、簡単に助けてはもらえない。お兄様は家に残る予定だから、カミラは来年の卒業と同時に我が家に嫁入りする。


 ――結婚すれば中々王都とは行き来できなくなるから、今は友人たちとの思い出をたくさん作りたいはず。

 そんな理由もあって、一緒にいてほしいとは言いにくい。


「そういうことなら……父上に相談してみるよ」

「お願い、できるだけ早く帰りたい」


 去年も居心地が悪かったけど、お兄様を始めフォートレル辺境伯家の次男クロヴィスや長男の婚約者フェリシテがいたから随分マシだった。今は友人が一人もおらず、教師ですら私の虐めを見て見ぬ振りをする。辺境の田舎娘など見下されて当然だと思っているのだ。



  * * *



 翌日、辞めたいと思っていても未だ在籍しているのだからと、溜息をつきながら登校した。

 朝からなんとも憂鬱だった。


 教室は居心地が悪すぎた。きっと食堂も同じだろうと思ったから、昼休みは裏庭でのんびりすることにした。元々、こうなることを予想して、昼食用に家からバスケットを持参したから食事を抜くことはない。昨日の婚約破棄騒動は半日で学院中の誰もが知ることとなり、普段から多い陰口がいっそう酷くなった。


 教師の黙認もいつものこと。授業中に背後から物を投げられてもしらんぷりだ。

 結界を張っているから私には被害がないけれど。


 でも攻撃した相手に反射するよう結界を張っているから、周囲には被害が出て騒ぎになった。元は魔獣討伐のときに襲ってきた魔獣が跳ね返って、群れに被害が出るようにしたものだ。まさか王都、しかも学院の教室で役に立つとは思ってもみなかった。辺境人は野蛮だ何だと言っておきながら、後ろから物を投げつけるなんて、中央貴族も大概野蛮だ。


 ――こんなときクロヴィスがいてくれたら……。

 オリオール家の寄り親であるフォートレル辺境伯家の次男で、二歳年上の幼馴染を想う。


 私を甘やかすお兄様よりもお兄様らしいクロヴィス。

 まだワイバーンに乗れなかった頃、よく乗せてもらった大切な幼馴染。


 ――もしジョルジュではなくクロヴィスと婚約していたら、こんな思いをしなくて済んだのに……。

 お父様は元々、フォートレル辺境伯家の兄弟どちらかを、私の婚約者にしたかったらしい。周囲の思いを汲んでいればと、今なら言える。けれど四歳の私は、中央貴族との婚約が十年後に不幸を招くとは、思ってもみなかった。


 選んだのは自分なのだから誰のせいでもないけど溜息が出てしまう。学院はあと一年半、でもこんな空気の中で精神が持たないかもしれない。


 ――はあぁぁぁぁ……。

 朝から何度目かの溜息。


 幸せが逃げると言われても、どうしたら良いかわからないくらい憂鬱だ。

 昨日、お兄様からは「お父様と相談する」としか言われなかったけど、午後の授業も同じくらい居心地が悪いようだったら、明日から学校を休もうかと思う。


 美味しいはずの食事もさっぱり味がしない。

 でも食べなければ帰るまで体力が持たないと思って頑張って完食した。


 教室に戻りたくない。このまま帰りたい。

 教室に荷物が置いてあるから、一度は戻らないといけないけど。


 ……嫌だけど戻るかなあ。

 のそのそと立ち上がり、ゆっくりとした足取りで教室に戻っている最中だった。


「あら、浮気されて捨てられた女がいるわ!」

 声の方を見れば、カミラが友人たちといた。


 お兄様の婚約者であるカミラは私よりも一歳上で、半年先の卒業直後に結婚する予定だ。

 中央貴族による魔法結晶の利権に絡んだ強引な見合いだったが、見目の良いお兄様に一目惚れしたカミラが積極的に行動した結果、婚約に至ったという経緯がある。


 私が当主になった後もオリオール伯爵領に残るお兄様は、中央貴族のお嬢様に辺境暮らしは無理だろうと断ったのだけど、諦めきれないカミラは辺境暮らしに慣れるとばかりに休暇を利用して我が家に滞在し、努力をした結果だった。婚約者の座を射止めたときは涙を浮かべて喜んでいた。


 そんなカミラが私に暴言を吐くとは思わなかった。割と仲が良いと思っていたし、何より義理の姉になる人だからだ。

 私は急いでお兄様との通信魔法を開始する。自分がお兄様の立場だったら、婚約者のことを知りたいと思ったのだ。


「そうね、ここは居心地は悪いわね、カミラ」

「あなたは実家でも居場所が悪いでしょうよ、だって私が嫁ぐのだもの。領地でも居場所は無くなるわよ、追い出してやるんだから」


「追い出されるのはあなたのほうだけどね。私を領地から追い出すなんて無理だもの。私の住む家にいられないというのなら、お兄様との結婚は諦めるのね」

「生意気なのよ、婚約を破棄された傷物のクセに!」

 そう言って私を突き飛ばそうとしたけれど、私に触ることは叶わない、結界があるもの。


「言いたいことがそれだけなら、お兄様に伝えておくわ」

 そう言って彼女から離れた。


 結局、午後の授業には出なかった。

 食事の後、教室に荷物を取りに行っただけで、そのまま帰宅したからだ。

 いつもより早く帰宅した私を、侍女のリリーは優しく受け入れてくれる。


「お疲れ様でした。嫌なら辞めてしまえば良いんです。どうせ辺境にとって有益なことよりも不利益の方が多い場所なんですから」

「そうよね、勉強だけなら領地でもできるもの。通っている理由だって、わざわざ波風を立てないようにという理由だけなのだし」


 結局、私は一人の友人もできなかった。お兄様たちだって、二人か三人友人がいたくらいだ。お母様のときも私と同じで、辺境人を莫迦にする中央人が嫌だったし、通うことに意義を見いだせなくて、一年半で中退したと聞いている。叔父様に至っては半年で中退したらしい。

 そんな事情もあるから、私の意志は尊重されるだろう。

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[気になる点] フェリクスってストーリーには出て居ないと思うのですが、誰ですか?
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