60:エピローグ
フレデリックの冗談に笑顔で答えると、彼の顔は真剣そのものに変わっている。
「今は、プライベートな時間です。ですから、ヴィクトリアと敬称なしで呼ばせていただきます。ヴィクトリアもフレデリックと呼んでください」
「で、でも、近くに近衛騎士の皆さんも控えているのでは?」
すぐに紅茶のおかわりを注げるよう、レイとメイが控えている。その二人のそばに、フレデリックを護衛する近衛騎士達も待機していた。
「構わないですよ。それとも、普段から名前だけで呼び合うことが許される関係になれたら、近衛騎士達を気にしないのでしょうか? そうなったら僕のことを、フレデリックと呼んでくださりますか?」
「!? それは……」
王族であり、王太子であるフレデリックを、敬称なしで、名前で呼ぶことが認められるのは……彼の両親である国王陛下夫妻と、兄弟ぐらいではないかしら?
兄弟……。
そこで思い出す。
フレデリックの弟である第二王子のセンディングは、死刑宣告を受けた。ただ、刑の実施時期は未定となっていた。その理由は、あの豪華客船のオーナーである海運会社への賠償、婚約破棄に伴う違約金の支払い、船の乗客や我が家へのお詫び金など、多大な借金をセンディングが負っているからだ。
早々に死刑を執行し、借金から逃げることが良しとはされなかった。センディングの私財は全て没収されたが、それでは足りない。今、センディングは塀の中で、膨大な借金返済のため、労働に従事している。
さらにセンディングの借金の一部は、王妃が負担することになっており、それは王妃の実家が負うことになった。これで王妃の実家は、かなり力を削がれることになる。王妃もおとなしくするしかない。彼女の産んだ他の子供達も、とにかく大人しくしていた。その結果、フレデリックの王太子としての地位は、盤石なものになっている。
さらにこれを機にフレデリックは、自身の父親と向き合うことになった。そこで二人は誤解を解消することになる。父親である国王陛下は、フレデリックを嫌っているわけではなかった。ただ、亡き妻と似たフレデリックを見ると、彼女を思い出し、胸が苦しくなる。ゆえにフレデリックを遠ざける形になっていた。それを王妃やセンディングは利用し、「国王陛下から王太子は嫌われている」と、悪意ある噂を流したのだ。
「ヴィクトリア、僕の話、聞いていますか?」
「! 失礼しました。殿……フレデリック」
「ならば僕の言葉の意図を、理解いただけましたか?」
「そ、そうですね。フレデリックと例え人前で呼んでも絶対に咎められないのは、家族です。つまりフレデリックは私と……」
そこで立ち上がったフレデリックが私のそばにきて、フワリとマントをはためかせ、跪く。その上で私の手を取り、青空のように澄んだ瞳でこちらを見上げる。
「以前とは状況が変わりました。ヴィクトリアは誰とも婚約していません。もう自由の身です。……ヴィクトリア、あなたのことを愛しています。心から。僕の婚約者となり、共に歩んでくださいませんか」
悪役令嬢として転生してしまい、断罪回避を諦め、終活を行うことを決めた。勇気を出して、旅行へ向かいそこで……フレデリックと出会った。そこで彼の人間性に心惹かれ、その一方で自分の断罪される未来を思い、彼のことを一度は諦めていたのに……。
まさかこんな結末を迎えるとは思わなかった。
無人島であの日、私が感じた気持ち。それは――。
――『損得なしで。王太子ではなく、ただのフレデリックという一人の人間として。身分も名誉もお金も国も一切関係のないこのジャングルの中において、フレデリックという青年のことが私は……うん、そうだ。好きなんだろうな。』
この想いは今だって変わっていない。
だから私は彼の瞳を見て、その答えを口にする。
「はい。私もフレデリックのことが大好きです。あなたの婚約者となり、共に歩んでいきたいです」
「ヴィクトリア、ありがとう」
立ち上がったフレデリックが、ふわりと優しく私を抱きしめた。
~ おしまい ~
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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