59:あのスープ
「驚きました。この懐かしい香りは、ココナッツですね」
先触れが来て、遂にフレデリックが我が家へやって来た。
エントランスで母親と二人、フレデリックを迎えることになった。
今日の私のドレスは、白地に大柄の碧いバラが全体にプリントされ、模造宝石も散りばめられている。ウエストと髪を飾る碧いリボンは、ドレスに描かれたバラと同じ色。フレデリックの碧眼を意識して選んだカラーだ。
一方の母親は、深みのある濃紺のドレスで、襟や裾の黒のテーピングが落ち着いた印象を与えてくれる。
到着したフレデリックは……ライトブルーのシャツに白のセットアップを合わせ、コバルトブルーのマントをまとい、とても爽快さを感じさせる装いだった。
シルバーブロンドの髪は、前髪の一部を後ろに流すことで、これまでと少し雰囲気が違う。なんというか少し、ワイルドな感じになっている。眉毛も綺麗に整えられ、凛々しい印象だ。
それでいて二重の碧眼の瞳を細め、相好を崩し、母親の手を取り、挨拶をする姿は実に優雅。
母親は「殿下、よくいらしてくださいました」と頬をぽっと赤くしている。
父親と兄がこんな姿を見たら、「母さん!」「母上!」と大騒ぎしそうだが、二人はそれぞれ仕事で留守。フレデリックの来訪を聞き、仕事を休もうとしたが、それは止められる。
「申し訳ないのですが、ヴィクトリア男爵令嬢と、二人でゆっくりお話しする時間をいただきたいのです。仕事を休んで頂いても、お二人に避ける時間は少ないと思います」
そうフレデリックに言われ、父親と兄は、今日は仕事に出ている。
ちなみにリントン王国で父親と兄が、外務副大臣、近衛騎士団の隊長に任命されるにあたり、我が家は男爵位を与えられていた。このまま順調に成果を出せば、伯爵位も夢ではないだろう。父親も兄も、とても頑張っている。
ということで思わず母親が照れてしまうぐらい、本日のフレデリックは素敵だった。
応接室では三人で、しばらく歓談した。
まだココナッツ三昧のスイーツは出していない。
別途、テラスに席を用意してあり、そちらで出してもらうことにしていた。
「リントン王国は国土も広く、本当に見所が沢山あるのですね。ホリデーシーズンは温暖な南の島に行きたくなりましたわ」
母親がうっとりとした表情でフレデリックを見ると、彼はニコニコと笑顔で、こんなことを伝える。
「南の島も、勿論いいですよ。ただし、王都も見逃せません。ホリデーシーズンに入りますと、連日夜にランタンを灯し、人工的に作った広場のスケートリンクは、夜間無料で解放されます。零時まで多くの屋台が営業し、寒さを吹き飛ばすような賑わいが続くのです。この時期は毎日のように、演奏会、舞踏会、オペラと、いつも以上に娯楽も盛んとなり、寒いからと屋敷に籠るのが難しくなります。それにニューイヤーを迎える瞬間は、汽笛も鳴らされ、花火も打ち上げられ、広場では王族と共にシャンパンで乾杯です」
「まあ! そうなのですね。ホリデーシーズン、王都から離れられませんわね!」
そんな会話をした後、「それでは殿下、私は街へ用事がございますので、娘とティータイムをお楽しみください」と母親は退席。私はフレデリックをテラスへと案内する。そしてテーブルに並べられたココナッツミルクを使ったプリン、ココナッツ味のアイスクリーム、ココナッツ味のクッキー、ココナッツをまぶした揚げパンなどを見て、「驚きました。この懐かしい香りはココナッツですね」と、フレデリックは笑顔になったのだ。
「実は、私やレイやメイも、一緒にお菓子作りを手伝ったのです」
「そうだったのですね。僕のためにわざわざありがとうございます。……次回は僕も手伝わせてください」
フレデリックは紅茶を注ぐレイとメイに会釈し、二人はそれに応じて頭を下げる。
「! そうですね。殿下は無人島生活で、料理の作り方も覚えられましたものね」
「ええ。モズクの魚介スープ、あれは簡単に作れるのにとても美味しかったので、また作りたいのですが……。モズクを取りに、またあの島に行かないと。お付き合いいただけますか?」
「勿論、お供しますわ」
お読みいただき、ありがとうございます!
本作ですが、ネット小説大賞チーム様から感想いただけました(感謝)!
感想いただけると気持ちが盛り上がり、しばらく何もできなくなるのですが
落ち着くと、執筆意欲がモリモリ湧いてきます。
既にまるる様、エニプス様からも感想いただいていますが
本当にやる気の燃料をいただきありがとうございます!!!


























































