57:機能不全
フレデリックは保護という名目で、私達家族をリントン王国に招いてくれた。
私の家族――父親はリケッツ国の宰相、母親はリケッツ国の社交界のカリスマ、兄はリケッツ国の騎士団長だ。兄の部下である騎士達は、兄を慕い、リントン王国へ亡命した。フレデリックは亡命を希望した騎士達も受け入れ、一つの街を彼らに与えたのだ。
それはまるで前世において、AIを手掛けるトップの移籍に、従業員が一斉移籍に動いた事件を彷彿させた。あれは五日で騒動が終わったが、こちらはそう簡単に終わりそうにない。
リケッツ国では国民が、ネイサンの不用意な発言と、『疑わしきは罰せず』の原則に乗っ取らなかったことに怒り、ついには王族への不満、リケッツ国の体制批判へとつながってしまう。
こんな事態になった時、その解決を模索するはずの宰相は不在。暴徒化する民衆を鎮静化するはずの騎士団は、機能しない。一丸となるべき貴族達なのに、社交界のカリスマがいないので、意見がまとまらない。
これが意味すること、それは……スピアーズ公爵家がごそっとリントン王国に移ることで、リケッツ国は、国として機能不全に陥ったということだ。
結果、リケッツ国は崩壊寸前となり、リントン王国への併合の話が進むことになった。
併合の話が進む中で、早々に私とネイサンの婚約破棄の話が進められる。父親と兄は、リケッツ国における宰相、騎士団の団長の職を辞した。代わりに父親と兄は、新たにリントン王国で職を得た。父親は外務副大臣に大抜擢され、兄はフレデリックの近衛騎士団の隊長に任命されている。それは父親と兄の過去の実績を踏まえた結果だった。さらに兄を慕い、亡命した騎士達は、そのままリントン王国の騎士団や近衛騎士団に採用されている。
ちなみにネイサンとミミクリーは、婚約どころではなくなった。むしろネイサンは、併合に伴い、貴族として生き残れるか、国の崩壊を招いた元凶として断頭台に送られるか、その瀬戸際に立たされている。
一方のミミクリーは、平民だった点を生かし、市中に消え、その後の消息は分からない。ただ、ゲームのヒロインラッキーがあるだろうから、どこかでうまいことやっていると思う。ヒロインラッキー、それはヒロインは絶対に助かる、絶対に生き残る、というやつだ。
婚約者がいるのに、ミミクリーに現を抜かしたネイサンは風前の灯火で、ヒロインだけ逃走? それはズルいと思うが、この乙女ゲームの世界のヒロインは、ミミクリーなのだ。シナリオの強制力も働き、ヒロインがハッピーエンドになるべく、新たな物語がどこかで始まっているのだろう。
それにヒロインの不幸を願うより、私は自分や家族、お世話になった人々の幸せを願いたい。
家族やレイとメイ、結局出番がなく終わったが、それを良かったと喜んでくれたイミル、そして最大の功労者であるフレデリックの幸せを。
そのフレデリックであるが、いろいろあり、ゆっくり会話する機会もなかった。だがようやく時間もできたということで、リントン王国の我が家の新しい住まいへ、彼を招くことにした。
フレデリックが来るのは、丁度お茶の時間だ。
せっかくなので、私はレイとメイに頼み、大量のヤシの実を用意させた。あの懐かしい無人島生活を支えてくれたヤシの実で、スイーツを用意することにしたのだ。
前世知識を生かし、パティシエに用意してもらったスイーツは……。
ココナッツミルクを使ったプリン、ココナッツ味のアイスクリーム、ココナッツ味のクッキー、ココナッツをまぶした揚げパンなど、いろいろ作ってもらった。
通常、公爵令嬢はスイーツ作りなんてしない。とはいえ、この世界にはないココナッツを活用したスイーツを作ろうしたので、私は厨房でパティシエと共に、さらにはレイやメイも加わり、奮闘していた。
その作業の最中、私は驚きの情報を知ることになる。


























































