56:必死の反撃
「乗船していた船で、火災が起きたのです。それは王太子である僕を狙った暗殺者の犯行でした。ヴィクトリア公爵令嬢は、この暗殺未遂事件に巻き込まれ、救命ボートに乗ることもできず、漂着する事態になったのです。無人島に流れ着き、そこには彼女の従者と侍女も漂着しました。僕と彼女達三人、合計四人で、生き残りをかけたサバイバル生活が始まったのです」
こんな詳細は、国内のニュースペーパーでは報じられていないので、皆、ざわざわと「そうだったのか」「なんて恐ろしいことが」「まさかサバイバル生活をしていたのか」と驚きを隠せない。
ネイサンのせいで「無人島で、二人きりでイチャイチャとランデブー」を想像していたのだ。それが今のフレデリックの発言で、完全に塗り替えられた。しかも「暗殺」という恐ろしい言葉も飛び出したのだ。驚いて当然だったし、これで皆、真実を知ることになった。
ちなみにこの国のニュースペーパーでは、この事件を、ただの船の火災としてしか報じていない。
「日々の食料と飲み水を得るのに必死な中、色恋沙汰をしている余裕などあるわけがない。何よりその無人島に、あなたはいたのですか、ネイサン第二王子殿下!」
ネイサンが自然と、舞台後方へ下がっており、完全に押されているのが分かる。
かろうじて踏みとどまったネイサンが、必死の反撃に出た。
「し、証拠はないっ! だがそちらとて、証拠はないであろうが!」
「では貴殿は、『疑わしきは罰せず』の原則に乗っ取らず、双方証拠を出せないのに、こちらにいる公爵令嬢を罰するというのか!」
フレデリックの力強い声は、そのまま聴衆の心を掴む。『疑わしきは罰せず』はこの大陸の共通ルール。この原則を破れば、常にどの国も臨戦状態になってしまう。
「証拠もないのに、僕の名誉を貶めるような発言を撤回されないのであれば、それはすなわち、我が国からしても、不敬罪です。ですが私とネイサン第二王子殿下は、主従関係ではありません。そして私はリントン王国の王太子。その僕に対し、してもいない濡れ衣を着せ、名誉を貶めるのであれば、それは……敵対行為とみなします」
これには学園長や理事長、教師陣が総立ちになり、青ざめてネイサンに駆け寄る。当のネイサンは、何が起きているのか、頭の理解が追い付いていない。婚約者を断罪したら、隣国の王太子がしゃしゃり出てきて、何かとんでもないことを言い出した……という理解でフリーズしたようだ。
「今からリントン王国とリケッツ国は、臨戦態勢となります。僕の名誉を棄損し、それに巻き込まれる形になったヴィクトリア公爵令嬢とその家族は、我が国で保護させていただく。手出しすれば、それは戦争状態突入と受け止めますので、ご覚悟ください」
断罪されたのは私であり、巻き込まれたのはフレデリック。でも今の発言で、主体はフレデリックに移り、かつ彼が王太子であることから、その問題は国家レベルへと発展した。それを理解したネイサンは腰を抜かし、その場にいたリケッツ国の人々は、あの大国を怒らせてしまったと震撼することになる――。


























































