55:頭の中が真っ白に
想定外の断罪内容と死刑宣告に、頭の中が真っ白になった。
だがその時。
「――その断罪、待っていただきたい」
ホール中に響く、凛とした声に、会場にいたほぼ全員が後方を振り返る。式が始まり、閉じられていたはずのホールの入口の扉が開いており、そこから中へ入場したのは……。
声を聞いた時から分かっていた。
聞き慣れた力強い凛とした声。
そこにいたのは、自身の瞳に合わせたスカイブルーのセットアップに、ホワイトシルバーのマントをつけたフレデリック!
初めて出会った時とは別人と思える程、変貌を遂げていた。無人島生活と帰国後の騎士訓練を経て、彼の顔のラインはシャープになり、高身長でスラリとした貴公子へに生まれ変わっていた。
長い脚で、ゆっくりとホールのひな壇へと歩いてくる。
一歩踏み出す度に、シルバーブロンドの髪がサラサラと揺れ、窓から射し込む陽光を受け、光り輝く。
マントの表地にはリントン王国の紋章が刺繍されているのだろう。こちらへ向かうフレデリックの顔を見て、令嬢は感動し、令息は息を呑む。その一方で彼の背中を見送る父兄は、別の反応をしている。彼がリントン王国の王族であると認識し、その若さから「もしや王太子では」と予想した。その結果、目を見張っている。
一方、檀上でフレデリックを見下ろすネイサンの顔は、徐々に引きつっていった。
ホールの扉は開け放たれたままで、そこにはフレデリックの護衛の近衛騎士達が何人も控えている。紺色の軍服に、一糸乱れぬ隊列を組み、見る者を圧倒していた。
堂々と、衆人環視の中、最前列まで来たフレデリックは、ネイサンの顔をじっと見る。
ネイサンは上から見下ろす形なのに、下から見上げるフレデリックの揺るぎない自信に満ちた視線を受け、既に及び腰になっていた。
「ネイサン・バド・リケッツ第二王子殿下、お会いするのはこれが三度目でしょうか。卒業式の場に、急に乱入することになり、申し訳ございません」
フレデリックが頭を下げると、ネイサンはハッとして、あろうことか彼を指さす。
誰かを指さすことは、この世界ではマナー違反だった。
「そうだ、貴様、いくらリントン王国の王太子であっても、厳粛なセレモニーに勝手に入って来るなんて、失礼極まりないぞ!」
するとフレデリックはゆっくり頭を下げ、余裕の笑顔で応じる。
「ええ、確かにその点については、心から謝罪します。申し訳ありません」
再び頭を下げたが、ネイサンが何か言う前に、フレデリックが口を開く。
「ですが、リントン王国の王太子として、聞き捨てならないことを、ネイサン第二王子殿下が口にされたので、無礼を承知でここへ来た次第です」
「な、何……?」
ネイサンの頬が、ひくひくと反応している。
「先程、ネイサン第二王子殿下は『リントン王国の王太子と二人、無人島でランデブーを楽しんでいた』と申されましたが、何の証拠を持って、そのようなことを言われるのでしょうか?」
「そ、それは……!」
問われたネイサンの様子を見るに、やはり証拠などないのだと理解してしまう。
そしてフレデリックは、さらに畳みかける。


























































