53:朝を迎えた。
ついに私が婚約破棄され、断罪を告げられる卒業式の朝を迎えた。
学校は制服ではなく、私服登校が許されていたので、卒業式は皆、目一杯お洒落をして挑む。私はどんなドレスを着るか一瞬迷ったものの。前世で「君がヒロイン~みんな君に夢中~」をプレイしていた時、ヴィクトリアが着ていたドレスを思い出し、それを着ることにした。
終活の末に残ったドレス、それは背中が総レースになっていて、実に繊細で美しい。色が白のドレスゆえ、とても優美に見えた。ピンクブロンドの髪はサイドでポニーテールにするので、この美しい背中はバッチリ見える。
誰に?
ネイサンに断罪される様子を、見守る生徒や父兄たちに。
背中を見せることを意識し、このドレスをゲームの制作陣がヴィクトリアに着せていたのか……その意図を知ることはできない。それでも実際に着て見ると、見守る人々は、この背中に釘付けだろうと思えた。
ちなみにスカートは、チュールがふわりと重ねられており、裾はレースになっていた。全体にシェルビーズが飾られ、動く度に光沢を放つ。この装いで唯一の色が、胸元に飾られた生花のコサージュ。シャンパンガーネットの瞳と同色のローズのコサージュをつけている。
純白のドレスなので、ウェディングドレスのようにも見えるし、清純であり、身の潔白を無言で主張しているように思えた。
ああ、手向けだったのかしら、ゲームの制作陣の。
断罪されるしかない運命のヴィクトリアに対して。
感傷的な気持ちになりそうになるが、心を前向きに持つ。
まず船の火災からも、無人島からも生き延びることができた。断罪後の生き残りの算段を立てたことで、シナリオの強制力で消される……と恐れたが、今日を迎えることができたのだ。
大丈夫。
悪役令嬢に課される婚約破棄と断罪を受け、国外追放のため砂漠へ向かう。既にイミルには一報をいれ、砂漠を監視してもらっている。断罪後も生きるのだ、私は。
「お嬢様、馬車の準備が整いました」
「お嬢様、トランクは馬車に積み込みました」
レイとメイが次々に声をかけてくれる。
その二人に私は改めて告げた。
「話した通りよ。ネイサンは今日、私に婚約破棄を告げる。さらにミミクリーに嫌がらせをしたと、私を断罪する――そう、予知夢で見たの。もう私は王宮には戻らない。兵士に連行され、国境付近に広がる砂漠へ放逐される。でもイミル様が助けてくれると約束してくれたの。だから二人は私が乗っていた馬車で、砂漠へ向かって」
無人島に漂着までして、レイとメイは、私と共にあろうとしてくれた。
ここまでしてくれた二人なら、フレデリックに明かしたように、自分の身の上を話してもいいだろう。そう思い、予知夢ということで婚約破棄と断罪の件を話していた。
私の話を聞いたレイとメイは、即答してくれる。
「以前、お嬢様から『砂漠でのサバイバル術を調べておくといいかもしれないわ』と言われていたので、それはメイに共有し、既に調査済みです」
「現地には、砂漠を横断するキャラバンの経験を持つ人物を、複数人手配してあります。ラクダの確保も済んでいますし、無人島の砂浜で、戦闘訓練もレイとしていました。サソリや毒蛇、毒蜘蛛が出ても、問題なく対処できます」
やはり持つべきは、スーパー従者&侍女だわ。遠慮して黙っていたけれど、勇気を出して打ち明けてよかったと思う。
こうして私はレイとメイを連れ、馬車に乗り込み、学校へ向かった。


























































