52:見くびっていた
隣国でこれだけ大騒ぎになっているのに、リケッツ国ではこの第二王子による王太子暗殺未遂事件は、あまり大きく扱われていない。
リントン王国は、リケッツ国より大国だった。歴史も長く、国土も広い。リントン王国には海もあり、山もあり、肥沃な大地もあった。到底かなわないのに、リケッツ国は勝手にリントン王国をライバル視していた。よってリントン王国の事件は、敢えて大きく扱わないようにしている。このことを私は妃教育を通じ、知ることになった。
この事実を知った時は、なんて器量の狭いことを……そう思ったりもした。でも今となってはこれで良かったと思う。リントン王国へ旅行した挙句、事件に巻き込まれ、無人島生活を公爵家の令嬢が送っていた――なんて事実が国中で知れ渡ることになり、変な注目を集め、面白おかしく騒がれることは、避けたかったからだ。
こうして私は帰国をしたわけだけど……。
私の王宮の部屋には、大量の手紙が届いていた。それは両親と兄からが主で「突然、旅行だなんて! 何があったんだ、ヴィクトリア!」と私を心配するものだった。しかも「質屋でお前のドレスを見つけた。旅行費用を自分で工面するために売ったのだと想像できるが、なぜ兄を頼らないのだ?」と、ドキリとする手紙もある。まさか質屋に売ったことがバレるなんて! さらに父親からは、こんな手紙まで届いていた。
「グリフィスから聞いたぞ。宝飾品は本来、代々受け継ぐものだ。お前が売った宝飾品は、我が家に代々伝わるものではない。流行に応じてオーダーメイドしたものだ。よって質屋に売ったのは、旅行費のためだろうと、母さんもグリフィスも言っている」
そこまで知っているということは、恐らくグリフィス……兄からの報告を聞き、質屋に足を運び、私が頼んでレイやメイに売ってもらった物を買い取った……父親の感覚としては、取り戻したのかもしれない。
「でもなんだか父さんは心配だ。父さんの遠縁のメイドは、銀行家の息子と不倫して身ごもり、屋敷の仕事を止め、子供を産んだ。そして自ら命を絶つ直前に、身辺整理をした。金目になる物を売り払い、『子供の養育費に充ててください』と遺書を残している。ヴィクトリア、お前は何か悩んでいるのではないか? 王族との婚姻は純潔が前提だ。だがもし……悩んでいるなら、打ち明けて欲しい。決して早まるのではないよ」
両親と兄は過保護だと思っていた。でもまさか身辺整理=終活の可能性に気づくなんて。レイとメイにお願いし、周到にドレスや宝飾品を売り払ったつもりだった。だから終活しているとは、バレないと思ったのに。
彼らの過保護ぶりと溺愛を見くびっていたと思う。これは対面で会った時に、何を言われるか分からないわね。ギリギリのタイミングで帰国して良かったわ。
そう、ギリギリ。
どれぐらいギリギリなのかというと。今は私がネイサンに、婚約破棄と断罪をされる卒業式の前日の夜だった。両親も兄もやきもきしているかもしれないが、そもそも王宮にいる私とは会いにくい。その上でこの時間。こうなったら父兄も参加できる卒業式で、私に声をかけるつもりだろう。
だがこの卒業式で、両親や兄も知ることになるのだ。
愛娘がミミクリーに嫌がらせをしていることを。そしてそれを指摘され、婚約破棄され、断罪される姿を見ることになるのだ。
両親や兄にこんな姿を見せるなんて、本当に申し訳ないと思う。でもこの残酷な仕打ちは、乙女ゲームのシナリオで定められた悪役令嬢の運命なのだ。避けようは……ない。


























































