51:怒涛の勢い
ハリケーンが去り、三日後。
無人島の朝は早い。
レイは夜の間に罠にかかった獣がいないか確認に向かい、フレデリックは海へ朝釣りに行っている。メイと私は朝食の用意をしていた。
こんな朝がもう当たり前になっている。
今日もいつもの朝になると思っていた。
だが!
「ヴィクトリア、メイ! 船が見えます。あれは客船ではなく、軍の所有する船だと思います。リントン王国の国旗も出ていますし、通常の客船より高速で進んでいるように見えました。間違いなく、僕達の捜索のために、出された船だと思うのです。浜辺で火を焚きましょう! メイ、君はレイを呼んで、浜辺に向かってください。ヴィクトリア、薪を持って、一緒に浜辺へ行きましょう!」
朝食の煮炊きは、既に始めている。細い煙は上がっているが、これでは見落とされるかもしれない。浜辺で思いっきり火を焚く。それは名案だと思った。
こうして私達は、大急ぎで動くことになる。
メイはレイを呼びに行き、私とフレデリックは浜辺に向かい――。
そして。
浜辺で盛大に火を焚き、燃やせるものを燃やした。
その結果。船は気づいてくれたのだ!
水平線から次第にその大きな姿が見えてくる。
間違いなく、こちらへ向かい、移動していると分かった。
それを自覚した時、四人で抱き合い、大騒ぎとなる。
これで助かるわ――!
その時は喜びしかない。
港などないから、離れた場所で停泊した船からは、偵察用のボートが降ろされた。そのボートに乗り込んだ騎士達が、私達のいる無人島に遂に上陸。そこには、フレデリックの護衛の近衛騎士達もいる。フレデリックと再会を果たした近衛騎士達は皆、涙を流し、主の無事を喜んだ。
その後はもう、怒涛の勢いで時が流れた。
距離的には、クリスタルシティの方が近い。でもリントン王国では、既にセンディングが捕らえられ、大騒動になっていた。私達を乗せた船は、全速力でアドルアルゼへ戻ることになった。
当たり前だが、センディングの悪事は、既に国王陛下が知るところとなっている。フレデリックは伝書鳩を飛ばしているし、多くの乗客も証言した。異例の速さで裁判も進んでいる。
センディングの敗因の理由は、いくつかあった。
まずはフレデリックを甘く見ていたこと。次に私に話したところで、何もできないと思っていたこと。
だがその最大は私を巻き込み、スーパー従者であるレイとスーパー侍女であるメイを怒らせたことだ。私からセンディングの計画を聞いた二人は、すぐに推測する。自身の犯行を目撃するような乗客は、ほぼいらないと、センディングが考えているのではないかと。助かる乗客は最低限にするだろうと考えた。そこでボイラー室付近で、大火災が起きるような仕掛けがないかを確認した。
するとあったのだ。それとバレないよう、缶詰に模した石油が入ったドラム缶が、ボイラー室付近に置かれているのを発見した。二人は近くにいた乗組員に、すぐさまそれが石油であると知らせ、排除させたのだ。そのおかげで大火災は免れ、多くの乗客が助かった。
私も可能な限りの証言を行っている。それにセンディングに対しては“人でなし”という声が、民衆の間で高まっていた。しかもそれを助長するような、驚くべく事実まで遂に公表されたのだ。
それは……。
なんとセンディングの婚約者が妊娠し、秘密裡のうちに出産していたというのだ!
リントン王国では、王侯貴族の婚前交渉を禁じている。特に王族では、乙女の純潔が重視されていた。それなのにセンディングは、婚約者を妊娠させている。しかも自身が遊学中に地方で子供を産ませ、そして「何事もなかったことにして、王都へ戻るようにしろ」――そう指示を出していたのだ。
これは国民の間で噂となり、一度話題に上ると、もう止めることなどできなかった。ゆえに国としても調査し、それが事実であったと認める事態になっていたのだ。
センディングの野望は、多くの国民を犠牲にした上で、無理矢理成立させようとしたもの。そんな足元がぐらついた状態で、上手くいくわけがない。
それにニュースペーパーを見ると、無人島生活を経て、すっかり容姿が変わったフレデリックのファッションに注目するような記事まで、掲載されるようになっている。つまりフレデリックへの国民の好感度は、うなぎのぼり!
フレデリックは、火災が発生した船において、冷静に船長へ指示を出した。救難信号を出させ、本来自身を護衛する近衛騎士達に、乗客の脱出を手伝うよう命じた。それにいち早く国王陛下にこの危機を知らせ、悪事を暴いている。さらにはセンディングの手で閉じ込められた、隣国の公爵令嬢(つまりは私!)を置いてきぼりにせず、救出したことも美談となっていた。
大丈夫。
フレデリックは弟であるセンディングと、決別という試練をこれから迎えることになるだろう。だがきっと乗り越えられるはずだ。
一方の私は、リケッツ国に戻ることになった。


























































