50:相応しくない
船上火災を経て、無人島に漂着し、サバイバル生活がいきなりスタートしてしまった。とてもではないが、色恋沙汰を考える余裕はない。仮にフレデリックと二人で無人島生活を送っていたら……もしかするとそんな気持ちが、芽生えたかもしれないが……。
ここにはレイとメイもいるのだ。フレデリックと、どうこうすることはない。
それでも改めてフレデリックが私を好きになってくれていたこと。それは……単純に嬉しかった。なぜって、フレデリックの人間性が、とても好ましかったから。どこか前世の私みたいであり、でも私などよりずっと優しい。
優しいけれど、いざとなれば凛として強くなれる。判断力もあったし、決断力もあった。ランドリールームでも迷いがなく、テキパキ動いて立派だった。
今となっては遥か昔の出会いに思えるイミル。
フレデリックと同じように初対面だったし、彼からはプロポーズもされている。しかも一瞬、心が動いた。
でもフレデリックはその比ではない。
損得なしで。王太子ではなく、ただのフレデリックという一人の人間として。身分も名誉もお金も国も一切関係のないこのジャングルの中において、フレデリックという青年のことが私は……うん、そうだ。好きなんだろうな。
でもそれこそ、婚約者がいる私が、フレデリックを好きになることはNG。ここで勢いに任せて、「好きです!」なんて、絶対に言ってはダメだ。それこそネイサンみたいになってしまう。それに私は断罪と追放の未来が待っている。そんな女性、王太子であるフレデリックに相応しいわけがない。
「ヴィクトリア」
「はい」
「……救助が来て、それぞれの国に戻れば、お互い向き合うことがあるわけですよね。ヴィクトリアは婚約者とミミクリー嬢と。僕は弟と。ある意味、お互いに試練の時だと思います。ヴィクトリアが僕に変わる勇気をくれたように。僕はあなたにエールを送ります」
フレデリックの言葉の一つ一つが……胸に染みる……!
「ヴィクトリアには正々堂々と、卒業式に臨んでいただきたいです。例えヴィクトリアの母国の人々が、あなたを敵とみなしても、僕だけはあなたの味方でいます。僕はあの船上での火災の時、そしてこの無人島生活の日々で、ヴィクトリアのことをしっかり知ることができました。あなたは決して、婚約破棄され、断罪されるような人ではないはずです。でもそうなることが運命なら、受け止め、そこで負けることなく、前に進んでください」
私を見るフレデリックの瞳が清らか過ぎて、かつ言葉の優しさに、涙がボロボロとこぼれてしまう。断罪される悪役令嬢の胸の内を、ここまで分かってくれるなんて。しかも乙女ゲームのことや前世のことなど、話したわけではないのに。
フレデリックは……分かってくれた。そしてこんなに温かく励ましてくれたのだ。
「ありがとうございます。とても心に響く言葉でした。嬉しいです。私もフレデリックのこと、信じています。応援していますから、センディングなんかに負けないでください!」
「ええ、勿論です。多くの民が乗った船を燃やすような鬼畜には、負けませんよ!」
自然とお互いに手を差し出し、握手をしていた。
なんだか、色恋沙汰を超えた、戦友になった気分だった。


























































