5:(ピーッ)
「部屋の片づけ、でございますか?」
学生最後のバカンスシーズンは、旅行することにした。三か月部屋を開けるので、いろいろと片づけをしたい。何より卒業をするので、子供っぽい衣装や宝飾品は売却し、そのお金を旅行の費用に回したい――そう、レイとメイに打ち明けたのだ。
ローズ色のドレスを着た私から視線を逸らすことなく、まず反応したのはレイだ。いつもの白シャツに黒のスーツ姿のレイは、従者というより執事に見える。そんなレイの「部屋の片づけ、でございますか?」という問いは、部屋の片づけをするのでいいのですか?という確認だと思い、返答をした。
「そうよ、レイ。ひとまず卒業式に着るドレスと旅行に持参するドレスをのぞき、すべて処分したいの。卒業したら、いちから大人っぽいドレスを買いなおすわ」
「……この部屋をすっきりさせるということは、理解しています。合わせて、あの(ピーッ)第二王子も処分されてはいかがですか?」
「!? レイ、ダメよ! (ピーッ)第二王子なんて言っては! 腐ってもあれは王族なのだから」
すると今度は、黒のワンピースに白エプロンのメイが、こんなことを言い出す。
「(ピーッ)第二王子は、恐らくドMです。私が調教し、あのハイエナ伯爵令嬢など子供っぽくて相手にできないとなるまで、躾けることもできますが?」
「メイ、それもダメよ! ネイサン第二王子は放置でいいの。二人にやって欲しいのは、この部屋の片づけと、不用品の売却よ。あ、(ピーッ)第二王子は、不用品かもしれないけれど、含めてはダメよ!」
私の言葉にレイとメイは、一瞬不服そうな顔をする。それでも二人は基本的に私の言葉に「ノー」は言わない。だから最終的に応じてくれる。しかも「この部屋で大掃除をしていることはバレないようにしてね」と追加でお願いしても、そこに疑問を挟むことはない。
余計な詮索をしないところも、本当に助かる!
優秀で、忠実なレイとメイが、私の専属従者と侍女で本当に良かったと、しみじみと思う。
レイとメイは有能だ。ゆえにネイサンが私という婚約者がいるのに、ヒロインであるミミクリーと浮気をしていることを、既に知っていた。
なぜ、ほぼ王宮で過ごしているレイとメイが、ネイサンがミミクリーと浮気していることを知っているのか。それは分からない。でも二人はスーパー従者と侍女なのだ。レイとメイの情報網は、情報屋並み。もはや二人が何を知っていても、驚くことはなかった。
多分、であるが、レイとメイであれば、ミミクリーのことを事故に見せかけ害することぐらい、朝飯前だろうと思う。でも二人にそれを依頼しないのは……。
仮にミミクリー暗殺が成功したとしよう。
でもゲームのシナリオの強制力が、ヒロインの死亡を許すわけなんてなかった。
この世界は、失敗作だ。作り直しだ!となり、なんなら突然隕石でも降ってきて、ヒロイン死亡と同時に、この世界そのものが崩壊するかもしれない。そんな風に思えた。何より、ヒロインを手にかけ、レイとメイが無傷で済むはずはないと思えたのだ。
相討ち。
そうなる気がして、とてもレイとメイに、ヒロインの排除は頼めなかった。
ではミミクリーを消すのではなく、ネイサンの元から離れるよう、その純潔を奪ってしまう。レイが言うように、ネイサンの方を消すプランもある。ただそういうドロドロした手は、使いたくない。それにとにかくメインキャラに異変が起きれば、ゲームのシナリオ強制力が、黙っていないだろう。
つまり、ヒロインと彼女に攻略されることが決定したネイサンに、シナリオに反する何かを仕掛ければ、返り討ちにあうのではないか。そのせいで、大切なレイとメイを失いたくはない。
二人と過ごした時間は、家族と同じぐらい長かった。いや、妃教育のため、王宮で暮らすようになった私は、両親や兄ともほとんど会えていない。王宮で暮らし、私の成長を見守るレイとメイは、両親以上に私と過ごしている。もはや二人は、私の両親のようであり、兄や姉であり、とても大切な存在になっていた。
レイとメイと一緒に、最後に楽しい思い出を作ることができるなら、もうそれでいい!