48:無言で
ハリケーンが夜のうちに通過し、静かな夜に目が覚めてしまった。外の様子を見ようと洞窟の入口に行くと、そこにフレデリックがいた。
「ヴィクトリア、あなたも目が覚めてしまったのですか?」
もうお互い、公爵令嬢、王太子殿下と呼び合うことは、止めていた。このジャングルの中で、そんな敬称は不要だと、フレデリックから提案してくれたのだ。
確かに何かあった時、名前の方が呼びやすい。そしてここは大自然に溢れているから、ハプニングはつきもの。ゆえに名前で手短に呼べるのは、実に楽だった。
「目覚めてしまいました。静かすぎておかしい……!と思い。フレデリックも同じですか?」
私の言葉に、フレデリックは碧眼の瞳を細め、クスクス笑う。
もうかなりヨレヨレの白シャツに濃紺のズボンという軽装だが、それでもやはり王族。どことなく品がある。
「同じですよ、僕も。静けさに目が覚めるなんて、普通なら、ぐっすり眠れそうなのに。……今回のハリケーンはスピードがありましたからね。通過すると同時に雲も全部持って行ってくれたようで、いきなり星空です。月は新月ですかね。ほとんど見えません」
言われて見えてきた夜空には、砂金を散りばめたように、一面に星が瞬いていた。
「どうぞ、良かったら」
フレデリックはこんな無人島でも、ハンカチを持ち歩いていた。何か掴む時やこうやって私が座る時に、さりげなく広げてくれるのだ。私は白シャツにブルーのズボンという男装の麗人姿なのに!
「ありがとうございます」
並んで座り、しばらくはお互いに無言で夜空を眺めていた。
そこでフレデリックが遠慮がちに私に尋ねたのだ。
「ずっと慌ただしい日々でしたよね。それにレイやメイもいます。ですからずっと聞けなかったことを、今、尋ねてもいいですか?」
「ええ、勿論ですよ」
そこでフレデリックが尋ねたこと、それはあの船で私が言った「フレデリック王太子殿下、私は母国へ戻れば婚約破棄され、そしてサハリア国の砂漠に追放される身なのです!」についてだ。
すっかり忘れていた。
こんな南国の無人島にいると、文明社会も自分が悪役令嬢であることも、忘れてしまっていた。でも救助が来て、国に戻れれば、断罪の日はやってくる――。
そこで私はネイサンとヒロインであるミミクリーのことをフレデリックに話した。まずは私達の関係性。次にヒロインへの嫌がらせを悪役令嬢がしてしまう件を、それとなく言い換えて話した。
それはこんな風に。
昔からちょっとした予知夢を見ることがあり、その中でミミクリーに嫌がらせをしようとする自分の姿を見たことがあった。そこで嫌がらせをしないよう、回避しようとするが、それができないこと。例えば、どうしたってミミクリーに紅茶をかける運命からは逃れられない。だったらせめて、アツアツの紅茶ではなく、ぬるい紅茶になるように。そんな回避策を続けてきたことを話した。
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