46:空耳
フレデリックが眼鏡のレンズを使い、見事に火を起こしてくれた!
これでようやく川の水を、煮沸できる。
ちなみに例のカトラリーセットには、ティーセットと茶葉もあったので、上質な紅茶も楽しめそうだった。
小屋で手に入れたフライパンは二つあり、一つは深鍋。よってその鍋に川で汲んだ水を入れ、火にかけた。
「この後、陽射しが強くなるので、少し仮眠をとりましょう。起きたら何か食べたいところですが、やはり魚でも捕まえますかね。川はとても綺麗で、魚もいると思うので。もしくは海か」
「さっき岩場に海藻があったので、あれも食べることができると思います」
「カイソウ……?」
そうか。この世界では海藻なんて食べないのか。でも贅沢は言っていられない。さっき胡椒はあったから、スープにでもして食べてもらおう。
「ちゃんと美味しく仕上げるので、安心してください」
「ヴィクトリア公爵令嬢は、料理ができるのですか!?」
そうだった! 普通、公爵家の令嬢は料理なんて……できないと思う。
どう誤魔化そうとやや困惑したまさにその時。
「「お嬢様!」」
パニックになったからかしら? レイとメイの声が、空耳で聞こえた。
あ、もしかすると料理は二人にまかせたいという気持ちが、幻聴を聞かせたのかもしれない。
「「お嬢様!」」
「ヴィクトリア公爵令嬢、あなたの従者と侍女は、余程あなたのことが好きなようですね」
フレデリックが見る方角を、つられるように見て、驚いてしまう。
こちらへ駆けてくるレイとメイの姿が見えたのだから!
「二人とも、どうして!?」
レイとメイは、まるでお揃いみたいな姿だった。
というのもメイは、いつもの黒のワンピースでも、舞踏会で着ていたドレスでもなく、白シャツに黒のズボン姿だったからだ。
多分、私と同じね。漂着物から服を見つけ、着替えたのね。
それよりも、どうしてここにいるの!?
「レイがランドリールームの位置と潮の流れから、お嬢様はこの辺りの島々に流れ着くに違いないと考えたのです。船が燃え落ちる前に、救命ボートを降り、丁度浮いていたドアを筏代わりにして、ここまで流れ着きました」
メイの説明には、ビックリしてしまう。救命ボートに乗っていたのに、わざわざ降りてここまで来たなんて……!
でも「どうして、そんなことを!」と責める気にはなれない。むしろ……。
「こんなところまで、追いかけてくれてありがとう! 二人が来てくれて、とても心強いわ」
「「お嬢様!」」
思わず三人で抱き合ってしまう。
ふと見ると、フレデリックが寂しそうにしている。
「フレデリック王太子殿下も、来てください!」
最終的に四人で抱き合い、再会を喜んだ。
「他のみんなは、助かった?」
「はい。多くが助かったと思います。ただ、第二王子は、ヒドイですね。いくつかの救命ボートを破損させていたのです」
「「えっ!?」」
フレデリックと二人、声を揃えて叫んでいた。
メイによると、救命ボートは木製だった。その船底に穴があけられていたり、オールが折られているものもあったというのだ。これにはフレデリックが青い顔となり、悔しそうに唇を噛みしめた。
これには私だって、憤慨だ。ヒドイと思う。自分達だけ先に逃げただけではなく、他の人達の命を救うためのボートを傷つけるなんて。それで王太子になり、国王になりたいと思っているなんて、悪夢でしかない。
「ただ、火をつけたのは第二王子だと伝えながら、救命ボードに誘導しました。助かった人はみんな、犯人は第二王子だと知っています。絶対に天罰が下るはずです」
メイの言葉に、レイも頷く。
「第二王子は、非常食などを自分達の救命ボードだけに、たんまり詰め込んでいました。その事実もちゃんと皆に伝えました」
これには「レイ、メイ、よくやったわ!」と褒めてしまう。
さらに二人は、非常食や薬なども持ってきてくれていた。それにフレデリックの近衛騎士にも、だいたいの漂着予想地点を伝えたので、「きっと救助が来てくれるはずです!」と言ってくれたのだ。さすがスーパー従者と侍女なだけあるわ!
すっかりその言葉に、安堵していたのだけど……。
お読みいただき、ありがとうございます!
本日更新時に1話すっ飛ばしていたようで
(番号を振り間違えと分からず焦って削除したりで一人大混乱)
ようやく原因に気が付き、差し替えました。
話が飛んでいた……という読者様がいたら本当に申し訳ありませんでした。


























































