45:集中!
乙女ゲームの、西洋貴族が暮らす世界に転生したのに。
今の私は……。
無人島で男装の麗人になっている。
豪華客船からの漂着物には、いろいろな物があった。中途半端に濡れたドレスは邪魔でしかなく、トランクの中にあった白シャツとブルーグレーのズボンに着替えることになった。靴下やルームウェアシューズもあり、早々に裸足からは解放される。ジャングルの中を歩き回るにも、日中の砂浜を歩き回るにも、素足は厳しいから、これは僥倖。
身動きがとれる状態になると、フレデリックがジャングルの中に入り、飲み水の確保をすることになった。漂着したトランクの中に、アウトドアを予定していた人物がいたようで、革製の水袋を発見した。さらにテント一式も含まれている。これには私が大いに驚いたが、フレデリックは冷静に指摘する。
「クリスタルシティは、中心部こそ、街が完成しています。ところがそこを離れると、未開の地が広がっています。きっとこのトランクの持ち主は、中心部を離れた場所を、目指していたのかもしれません」
この際、理由は何でも構わない。今日からの無人島生活に役立つ物なら、なんだって大万歳だった。
こうしてフレデリックは水を探しに、留守番となる私はテントを組み立て、拠点づくりをすることになった。現状、漂着物はいろいろあるが、人の姿は見当たらない。レイやメイがどうなっているのか。フレデリックの護衛の騎士達はどうなったのか。そのほかの大勢の乗客は逃げのびることができたのか。
皆、ちゃんと救命ボートにより、助かっていることを、願うばかりだ。
そこでどうしても気になってしまう。
諸悪の根源であるセンディングは、逮捕されているのだろうかと。
いろいろと気になるが、今はここで生き残ることに、集中だ。
前世で十日間の山籠もり生活をしていたので、テントは比較的簡単に組み立てることができた。落ちているヤシの葉や木の枝を使い、回収した諸々を収納できる、倉庫のようなスペースも組み立てた。続いて石を積み上げ、簡易な竈のような物を作っておく。
次にジャングルまでには入らず、その手前に落ちている木の枝や皮を、焚火のために集める。ついでに落ちているヤシの実で、問題なさそうなものも集めておいた。
そこにフレデリックが戻って来て、比較的近くに川があることも判明する。さらに素晴らしい発見があった。それは、小屋を見つけたことだ! その小屋は、もうかなり古く、今にも朽ち果てそうだった。よってそこに避難することはできないが、ランタン・ロウソク・眼鏡・フライパンなどを、手に入れることができた。
眼鏡が手に入ったおかげで、火は起こせそうだが、まだ太陽光が弱い。
そこで水分補給のため、ヤシの実を割ることにした。フレデリックと連れ立って、岩場へと向かう。
岩と岩の間に埋めたヤシの実に、上から岩を何度か落とし、割れ目を作る。中果皮をはぎ取り、さらに種子だけになると、筋のような割れ目に沿い、岩をぶつけた。ちなみにヤシの実の中果皮は、焚火にも使える。よって大切にとっておくことにした。
こうして遂に、その時が来る。
「割れました!」「中身が溢れているわ!」
少し慌てながら半分に割れたヤシの実から、ココナッツジュースを飲んだ。
そこまでの量はなかった。
でも久々の水分で、泣きそうなぐらい美味しく感じる。
前世で飲んだココナッツジュースは、よく冷えたもので、しゃきっとした中に、甘みがあった。でも今は生ぬるい。それでもとんでもなく美味しく感じている。それだけ喉も乾いていたのだと思う。
「もう一つ、割りましょうか」「お願いします!」
こうしてココナッツで喉を潤した後、テントに戻った。せっかくの恵み。ココナッツジュースだけでは終わらせない。ココナッツの果肉をバターナイフで取り出し、お皿に取り分け、食べることにしたのだ。
なぜバターナイフがあるのか?
それは立派なカトラリーセットがしまわれたトランクが、漂着していたのだ。
無人島なのに、一流陶器メーカーの食器を使ってココナッツの果肉を食べるのは、実に不思議。しかもそのカトラリーセットに、砂糖が入った瓶があったので、少し砂糖をまぶして食べることができた。
「そろそろ陽が出てきたので、火をつけましょうか」
無人島生活において火を手に入れられるかどうかは死活問題!
フレデリックは火を起こすことはできるのかしら……?


























































