44:始まり
カモメの鳴き声、波の寄せては返すの音で目が覚めた。
少し生ぬるい風も吹いている。
全身が砂っぽい。
ゆっくり体を起こすと、ボロボロのドレスをかろうじてまとっている状態だった。周囲の様子を確認する。少し離れた場所に、フレデリックも倒れている。目覚めた場所は、白い砂浜。目の前の海は、目が覚めるような美しさ。背後には森……というかジャングルのようなものが広がり、南国でお馴染みのヤシの木も見えた。
体を動かし、どこにも怪我がないことを確認する。
大丈夫。大きな怪我はしていない。
そのまま起き上がり、裸足の状態でフレデリックに駆け寄る。
まずは口と鼻に手を近づけ、呼吸をしていることを確認した。
生きている……!
安心し、涙がでそうになるのを堪えながら、声をかける。
「フレデリック王太子殿下!」
呼びかけ、肩をゆすると、フレデリックがゆっくり目を開ける。
「……ヴィクトリア公爵令嬢」
掠れた声でそう言うと、フレデリックが上体を起こす。
「殿下、どこか痛むところはありませんか?」
「僕は大丈夫です。ヴィクトリア公爵令嬢は?」
「私は大丈夫です」
その後はどうやってここに辿り着いたのか、それをフレデリックに聞くことになった。
海へドボンしたと同時に、私は気絶したようだ。その体が沈まないよう、助けてくれたのは、フレデリックだった。彼はすぐに救命ボートが沢山いる方へ向かおうとしたが、波の流れが速く、どんどん流されてしまう。
次第に炎で燃え盛る船からも離れ、さらに距離がひらいていく。
ただ彼は自身の体型により、比較的体が浮きやすく、また夏とはいえ、夜の海でも体温をキープすることができた。周囲には、様々な物が、自分達と同じように流されている。
そこにデッキチェアがあったので、私の体を乗せ、自身も両腕を乗せる。さらにハンカチで、私と自身の手首を結わいた。
体力の温存のため、無理に泳ぐのを止めたところ、フレデリックもいつしか意識を失うというか、眠ってしまったようだ。結果、どうやらこの無人島らしき島に、流れ着いたようだった。
「ここは、クリスタルシティがある大陸の手前に広がる、ブルーラグーン諸島だと思います。沢山の島が点在していることで知られていて……。見えますよね、ここからもいくつかの島が」
フレデリックの言う通りだった。
水平線の手前に、島らしき姿が見えていた。
「ブルーラグーン諸島は、観光ができる島としても知られていますし、大型客船の航路にもなっています。ですので発見してもらえる可能性は、ゼロではないと思うのです。とはいえ、今すぐ助けが来るとは思えません。まずはしばらくこの島で、生きていけるようにするしかないですね」
不幸中の幸いだったことは、私とフレデリックが砂浜に打ち上げられたように、そこには沢山の物が打ち上げられていた。端切れやコップやガラスなどの細かい物も多いが、木箱やトランク、椅子やテーブルなども漂着している。
これらを集め、しばらくはこの島で、サバイバルしかないように思えた。
「陽射しが強くなると、海辺の作業は厳しいでしょう。お疲れかもしれませんが、今のうちにいろいろな物資を集め、あそこの木陰に集めましょう」
「そうですね。……フレデリック王太子殿下は、遭難した可能性が高いのに、随分と落ち着かれていますね」
私の指摘に、フレデリックは苦笑する。
「これでも王太子教育の一環で、騎士団に所属し、野営の経験もありますからね。そして意外にも野営が楽しかった……そんな記憶があるんですよ」
こうしてフレデリックと私の、無人島生活が始まった。


























































