4:(仮)
「お父様、お母様。この二人は私の恩人です。でも貧民街の出身ですから、教養もマナーもなく、読み書きもできず、言葉もろくに話せません。ですが一年で二人には、それらを完璧にマスターさせます。一年後、二人をテストし、合格であれば、私の専属従者・侍女にすることを許してください。一年間、二人にかかる費用は、私の貯金でまかないます」
ヴィクトリアが頭脳明晰なおかげで、こんな提案を五歳にてすることができた。両親は子供の私がこんなことを言い出すことに驚き、でも感動し、「よかろう。では一年後。テストをする」と快諾してくれた。
こうしてレイとメイは私の専属従者・侍女(仮)として、他の使用人と同様、屋敷の離れで暮らすことが決まった。私は二人にこう告げた。
「私に仕えたいなら、価値を示しなさい。今はろくに話すこともできないようだけど、それでは私と意思疎通が図れない。だから言葉を覚え、読み書きをできるようにするの。公爵令嬢である私に仕えるにふさわしい教養とマナーを身につけなさい。その上で、従者・侍女として必要なスキルを身につけるのよ。一年間。二人の衣食住を保証し、教育係もつける。一年後、二人の真価を私に見せて」
レイとメイは文句ひとつ言わず、私の言葉に頷いた。片言しか話せないが、私が話すことは、理解できていたようだ。
こうして翌日から、私が手配した家庭教師など、その道の専門家の手で、二人はまさに猛勉強&猛特訓の日々を送るようになった。一方の私は妃教育のため、王宮で暮らし始めていた。
レイとメイ同様、私も血のにじむような思いで妃教育に励み、一年が過ぎる。
許可をもらい、王宮から実家である公爵家に帰った私は、久々にレイとメイに再会することになった。二人の教育の進捗具合の報告は受けていたが、果たしてたった一年で、どこまで成長できているのか。両親の要求を満たせるほど、従者や侍女としての力を、開花できているのか。
きっと大丈夫。……大丈夫かしら?
二つの相反する気持ちを持ちながら、ルビー色のドレスを着た私は、応接室に向かった。
程なくして、深みのあるモスグリーンのスーツを着た父親スティーヴン・マイク・スピアーズと、明るいミモザ色のドレスを着た母親マリアス・アン・スピアーズがやって来た。
対面でこうして会うのは、半年ぶり。再会を喜び、早速本題へと移ったが――。
「ヴィクトリアは妃教育で忙しいだろう。あの双子のテストに割く時間が勿体ない。よってテストは、父と母とで実施しておいた」
「え、そうなのですか、お父様、お母様!?」
すると二人は同時に頷く。
さらに父親は話を続ける。
「レイとメイは、従者と侍女としての必要なスキルをマスターしただけではなく、できなかった読み書きやマナーや教養も、すっかり手に入れている。しかも自発的に剣術も習っていたようだ。テストで泥棒を侵入させたが、二人がいち早く気づき、あっという間に捕えてくれた」
父親は、スピアーズ公爵家に忍び寄る魔の手を放置し、レイとメイの実技試験に活用した。
その結果、当該の泥棒は勿論、投資詐欺を持ち掛けた成金、兄の誘拐を目論見、金をちらつかせ近づいた人身売買のブローカーを、見事撃退した。さらに同じ使用人の中で、金品を盗んでいた者を発見し、ヘッドバトラーに報告したのだ。
「レイとメイの忠誠心は、本物だ。ヴィクトリアの専属従者と侍女にして、問題ないだろう」
どうやらレイとメイは、スーパーサラブレッド公爵令嬢であるヴィクトリアに相応しい、スーパー従者とスーパー侍女に成長してくれたようだ。
両親の許可を得た私は、二人と再会した。
「ヴィクトリアお嬢様。我が主との再会、一日千秋の思いで待ち続けました。今日より自分の命は、お嬢様のものです。時に剣として、盾として、自分のことをお使いください」
レイはそのキリッとした銀眼をキラキラと輝かせ、私を見上げた。一方のメイは……。
「ヴィクトリアお嬢様。私の命よりも大切なお嬢様に仕えることができ、まだ夢を見ているようです。私のこの身体は、すべてお嬢様のためにあります。お嬢様のためなら水火も辞さない覚悟です。一生、お仕えします」
メイは凛とした金眼を熱く燃やして、私を見つめた。
片言しか話せなかったはずの双子は、両親が言う通り、完璧に言葉もマスターしている。しかもあの日と同じように跪き、私への忠誠を誓ってくれたのだ。
この時、私は確信する。
この二人なら絶対、私を裏切らない。
すぐにネイサンを通じて国王陛下夫妻に連絡し、専属従者と侍女として、二人を王宮へ連れ帰る許可をもらった。通常、王宮には貴族しか立ち入ることができない。そこで父親は先に手を回してくれていた。自身の末の弟の男爵に頼み、レイとメイを養子として迎えさせていたのだ。
父親は身分に関係なく、人の価値を認めることができる人だった――そう認識を改めることにもなった。
こうしてレイとメイは無事、私の専属従者と侍女に認められ、共に王宮暮らしをスタートさせた。
二人がいることで、王宮での生活は実に快適。
そして私が終活を遂行するに当たり、二人の協力は必須だ。
そこで早速、私はレイとメイを呼び出した。


























































