36:未来
なんだかダンスの最後の方は、とても寂しい顔で、フレデリックが遠くを見ている。
その顔を見ながら、私も自分の未来について思いを馳せた。
ネイサンと結婚していることはないが、未来の私はどこにいるのだろう?
砂漠で野垂れ死には、きっと回避できていると思いたい。
サハリア国のどこかの町で、細々と生きているのかな。
その時、そばにレイとメイもいてくれるかしら。
そんなことを思ううちに、ダンスは終った。
すると私とフレデリックがダンスするのを見た何人かの令嬢が、勇気を出してくれた。
そう、フレデリックにダンスを打診したのだ!
結果としてこの日のフレデリックは、壁のシミになることはない。楽しい舞踏会の一時を、過ごせたと思う。
センディングは令嬢にモテモテ、フレデリックはダンスを楽しんでいる。私は……そろそろ眠くなっていた。
「レイ、メイ、良かったら二人は舞踏会をこのまま楽しんで。私は一足先に部屋へ戻るわ」
「お嬢様がいない舞踏会に、興味などありません」
「お部屋に戻ったら、入浴ですよね。私も戻ります! お手伝いさせてください!」
あくまで忠実な従者と侍女であるレイとメイと共に、部屋へ戻った。
レイが入浴の準備をしてくれて、メイはドレスを脱ぐのを手伝ってくれる。
のんびり入浴をしてさっぱりすると、コットンの白の寝間着を着て、ナイトティーを楽しむことにした。メイはバスルームの片づけをしてくれて、レイがナイトティーを出してくれる。
ソファの前のローテーブルに、ナイトティーが揃うと、レイにはもう部屋に戻っていいと告げた。こうしてレイが部屋を出てしばらく経った時のこと。丁度紅茶を飲み、カップをソーサーに戻したタイミングで、何か気配を感じた。それは部屋の扉の方だ。
何だろうと扉を見て、すぐに理解する。
この世界、扉の下には隙間があり、特にホテルではその隙間から手紙や新聞が差し入れられるのだ。そして今、扉の前の絨毯の上には、白い封筒が置かれている。誰かから手紙が届いたのだ。
メイはまだバスルームにいるので、ソファから立ち上がり、封筒を取りに行った。
見ると封筒には、この船の名前がエンボス加工されている。
「ペーパーナイフがあったはずよ」と独り言を呟き、寝室の文机の引き出しを開けた。そこにはシルバー製の、手の込んだ模様が彫られたペーパーナイフが置かれている。
早速開封し、中を確認すると……。
フレデリックからの手紙だった。
船旅は間もなく終わる。この旅で私と出会い、自分の人生は大きな転機を迎えた。最後にどうしても伝えたいことがある。ただ、人目を避けたい。よって屋内プールまで来て欲しい。できれば一人で来てもらえるといいのだが――。
そんな趣旨の内容が、記載されていた。
これを見た私は悟る。
もしかするとこれは“告白”をされるのではないかしら?と。
人気のない場所へ、異性から一人で来て欲しいと伝えられた場合。相手が不良だったら、呼び出され、文句を言われる……という可能性もある。だがもう一つ考えられること、それは“告白されるかもしれない”なのでは?
え、自意識過剰かしら?
でもフレデリックから文句を言われる気はしない。よってこれはやはり、告白なのだと思う。
ただ、私には婚約者がいる。
どうせ破棄され、断罪するような婚約者であり、今頃絶賛浮気中の婚約者であるが、いるのだ。
それなのに告白、するのかしら?
婚約者がいる相手にも、告白はしちゃうものなの?
告白、したいのかな。
婚約者がいる相手に告白して、それが実るとは、本人も思っていないだろう。ヒロインとネイサンのような場合は別として。
とにかく気持ちを伝えたい!と思った。告白を我慢し、離れ離れになるぐらいなら。ダメ元で気持ちを伝え、ふられることで、区切りをつけようとしているのでは? 自分の中で、「断られた。もう次へ進もう」と切り替えるためのステップアップが、告白というわけだ。
フレデリックは今、いろいろな意味で変わろうとしている。その中で、私への気持ちが前進するためのネックになっているのなら……それを取り除く協力は、したいと思う。乗り掛かった舟でもある。
良し。
指定された場所へ行こう。


























































