35:美女と野獣
フレデリックは、さすが王太子!
私のギフトの意図を汲み、贈ったタイとポケットチーフを上手く使い、服装に変化をもたらした。最初は、小物から。私の贈ったタイをつけたり、ポケットチーフを飾ったりするところからスタートさせた。
さらにベストを縦縞、つまりはストライプのものにし、タイに合わせたということで、鮮やかなターコイズブルーのジャケットを着たりもした。白コーデの中、タイとジャケットがターコイズブルーなのは、とても爽やかであるし、全体を引き締める。
センディングはその姿を見て、ネガティブなメッセージを送りたいだろうが、何せタイは私の贈り物であるし、それに合わせたコーデ。迂闊なことは言えない。よって口をつぐんでいる。
さらにフレデリックは、遊学に同行している侍医に「フレデリック王太子殿下は、歯に複数の虫歯があるため、しばらくは治療のため、甘い物は控える」とアドバイスしてもらったのだ!
「甘い物はもう食べない」ではなく「治療のため、しばらく控える」なのだ。
これまたセンディングは、足を引っ張ることができない。
そうなるとセンディングは、甘い物を勧めることは、諦めるしかなかった。代わりに肉、パンをバターと共にすすめるが、こちらに対しては「最近、胃もたれがするのです……。食べたいのに、食べられなくて、とても悲しいです」と、フレデリックが牽制を始めた。それだけではない。私とスカッシュをする名目で、運動もスタートさせたのだ!
船旅はもう終盤。あと二日で目的地であるクリスタルシティに到着する。
フレデリックが最終的にどうなるのか、それを見届けることはないだろうが、間違いない。きっとフレデリックは体質改善し、王太子としての公務をこなし、そしてそう遠くはない未来、立派な国王になるだろう――そう思えた。
船旅が始まり、五日目の夜。
連夜行われる舞踏会に顔を出し、フレデリックともダンスを踊ることになった。
これまでの舞踏会でのダンスは、センディングが巧みにフレデリックと踊る機会を阻んできた。おかげでこの時まで、フレデリックとダンスすることができていなかった。でも今回はレイとメイにも正装をさせ、舞踏会に参加してもらっている。センディングに令嬢が群がる状況を作り出し、フレデリックとダンスできる状態を作り上げた。
こうまでした理由。それは舞踏会ではずっと、フレデリックが壁のシミになっていたからだ。
フレデリックは王太子。いくらなんでもこれはおかしい!
そう思い、メイに探ってもらったところ、どうやらセンディングが「兄上はダンスをされるだけで息が上がり、お疲れになる。よって兄上にダンスを求めてはいけないと思います」と自身に近寄る令嬢に、吹聴していたというのだ!
それはヒドイと思ったので、私がフレデリックとダンスを踊ろう!と決意した。
こうして黒のテールコートを着たフレデリックと、パステルピンクの立体的な薔薇が飾られたドレスを着た私がダンスをしていると、フロアの注目が自然と集まる。それに気づいたフレデリックは、こんなことを口にした。
「僕とダンスをしていると、美女と野獣になってしまいますね」
この世界にあの名作「美女と野獣」は存在していないが、自然とそんな比喩がフレデリックからは出てしまったようだ。でもそれも仕方ない。わずか数日では、劇的な変化は訪れない。服により、フレデリックのふくよかさが誇張されることは減ったが、肉体改善はまだまだこれからだった。
「美女と野獣。そんなことはありません……と言いたいところですが、そういう見方をされている可能性はゼロではないです。ですが、フレデリック王太子殿下は、かならず変わります。そうなった時。殿下が宮殿で令嬢とダンスをされても、もううがった見方はされないで済むと思いますよ」
「……僕が生まれ変わった姿を、ヴィクトリア公爵令嬢にお見せすることはできないのでしょうか? いや、できるのでしょうね。リケッツ国は隣国ですから。ただ、その時にはヴィクトリア公爵令嬢は……既に母国の第二王子と結婚されているのでしょうか……」


























































