34:能ある鷹は爪を隠す
レイとメイが、ほぼ同時で合図を送って来た。
それを見て悟る。センディング第二王子殿下が来たのだ!
「フレデリック王太子殿下、弟君がいらっしゃいます!」
押し殺した声で告げると、フレデリックの顔が引き締まる。
その瞬間。
不思議だった。
その碧眼の瞳から、すうっとあの強さと輝きが消え、キリッとしていた表情は、柔和な顔へと変わっている。
能ある鷹は爪を隠す――まさにこれだと思えた。
フレデリックはきっと、センディングが求めるダメな兄を、無自覚に演じていたように思える。例え、自身を貶めるような言動であったとしても。他の家族が自分に無関心であったことから、唯一関心を向けてくれるセンディングに応えようとした……。
なんだかとても切ない。
「兄上、ヴィクトリア公爵令嬢! こちらにいたのですね。兄上は、てっきり図書室にいるのかと思っていました。……ヴィクトリア公爵令嬢、おはようございます」
まだ髪は濡れており、慌ててここに来たと分かる。もしかすると図書室にいたフレデリックのことを、センディングは自身の護衛の近衛騎士に、見張らせていたのかもしれない。報告を聞き、慌ててプールから出て、ここまで来た可能性は高い。
「おはようございます、センディング第二王子殿下。図書室でフレデリック王太子殿下を偶然、お見かけしたので、デッキでのおしゃべりを提案してしまいました。もしや図書室で待ち合わせなど、お約束がありましたか?」
「なるほど、そうでしたか。特に約束はしていません。ただ、図書室に兄上がいるのかと思っていたので……。少し、驚いただけですよ」
「そうでしたか。あ、今日はとても天気が良く、海も穏やかですよね。一般解放されているプロムナードデッキを散歩しながら、おしゃべりをしませんか」
この提案に反対する理由はなく、センディングは快諾。勿論、フレデリックも受け入れてくれた。こうして三人で移動をしたが……。
私は「お二人とお話をしたいので、真ん中にしていただいてもいいですか?」と思い切って提案した。センディングは驚いたが、フレデリックが「ええ、どうぞ。一般開放されているデッキは人も多いでしょう。僕と弟で、ヴィクトリア公爵令嬢を守るのが、正解に思えます」と即答した。
これにはセンディングが反論しにくいようで、そのまま三人横並びで、デッキを散歩することができたのだ!
そこからは……私も工夫をすることにした。
この豪華客船には、沢山の金持ちが乗船している。しかも一週間、船に閉じ込められているも同然となる。娯楽設備で時間を潰し、美食をいつでも楽しめるが、もう一つのお楽しみとして、沢山のお店で買い物ができた。リントン王国の王都で店を構える有名店や人気店、王室御用達のお店まで、船上にお店を出店しているのだ!
私はそのお店で、フレデリックとセンディングに、部屋を解放してくれたお礼を購入した。フレデリックには、その碧眼の瞳を思わせる、ターコイズブルーのタイ、オリエンタルブルーに銀糸のステッチがあしらわれたポケットチーフ。センディングには美しいシェルを使ったカフスボタンと、帆船を描いたハンカチ。このハンカチは、額縁に入れて飾ることもできるものだ。
フレデリックはその優しい性格ゆえ、いきなり服のコーディネートを変えることはできないだろう。よってまずはワンポイントで、膨張色コーデに、目を引く小物を加えて行くことを提案した形だ。
それに私の贈った小物をきっかけに、新しくシャツを購入したり、ジャケットを新調してみたりした……といった感じで、服に変化を加えることも、可能になるだろう。
きっとフレデリックは変わる――。


























































