33:●のこと
「もしヴィクトリア公爵令嬢に指摘されなかったら、僕は自分で自分の首を絞め続けることになったと思います。これはとてもいいきっかけになったと思うのです。もし他に気づきがあれば、教えてください。あまりにも長い時間、僕は……現実から目を背けたため、見落としていることが、まだまだありそうです」
フレデリックの碧眼の瞳に、これまでにない強さが宿ったように思えた。心優しい人物であることに、違いはないと思う。でも芯の強さがある人なんだ。
いつかはこの国の頂点に立つならば、ただ優しいだけではダメなはず。打たれ強くもしなやかで、折れない心が必要。そしてフレデリックはそれができる人物。
「お会いして、ご一緒させていただいた時間も限られています。よって私の気づきが全てだとは思わないのですが……気になっていることがあります」
「教えてください、ヴィクトリア公爵令嬢」
「その……服のことです」
服装の指摘はまったく予想していなかったようで、フレデリックは小さな声で「え、服」と漏らしている。その様子が思いがけず可愛らしくて、笑いそうになってしまう。それを堪え、話を続ける。
「フレデリック王太子殿下の服は、センディング第二王子殿下がコーディネートされていると思います。不思議なのは、ご自身のコーディネートは完璧な色の組み合わせなのに、なぜか殿下の服は単色、しかも膨張色と、実際より膨らんで見えるような色ばかりですよね」
そう言われたフレデリックは、自身の服を改めて見て、ハッとしている。
「膨張色と言われる暖色系や白を着た場合、収縮色と呼ばれる寒色系を取り入れた方がいいと思うのです。例えば今日は白シャツをお召しになっていますよね。そこに同じ系統のクリーム色のセットアップでは、大変失礼ですが、チーズケーキみたいです」
これにはフレデリックが「なるほど! 確かにそうですね」と笑っている。
失礼だ!と怒られずに良かったと、胸を撫でおろし、話を続けた。
「チーズケーキみたいなコーデ、美味しそうで、私は好きです。ですが濃紺やシアン色のセットアップをお召しになった方が、全体が引き締まって見えると思います。濃い目の寒色系を組み合わせるのです。淡いグレーやパステルブルーでは弱いので、NGです」
「なるほど。それは分かりやすいですね。明日から僕でも、服選びができそうです」
「そしてもう一つは、ポケットチーフやタイに目を引く色を入れることです。パッと見た時、そちらへ視線が向かい、全体的に見て膨張色という印象を、薄れさせることができると思うのです。現状の白シャツにクリーム色のセットアップのままでも、濃紺のポケットチーフやタイを加えるだけでも、印象が変わると思います」
前世で、アパレルショップでバイトをしていたので、経験で身についた感覚だった。まさかそれが転生後にも役立つとは思ってもいなかった。
「あとは縦縞模様を活用してください。ストライプです。細い線の模様が、スリムな印象を与えます。逆に水玉、特に大き目の水玉は、その丸みがふくよかさに結び付くので、NGです」
フレデリックは「羽根ペンを持ってくればよかった……」と呟きながら、私の言うことを真剣に聞いてくれている。これなら明日からでも、服装が変わりそうだった。
「ただ、服装での工夫はあくまで錯覚に過ぎません。健康のためにも、運動をされ、食事のコントロールをされた方がいいと思います。……フレデリック王太子殿下は、何か運動をされていますか?」
「一応、王太子教育の一環で、剣・槍・弓は学びました。ただ、この体型になってからは俊敏な動きが難しく、特に弓は扱いが難しくなり……。今はもっぱら槍の練習ばかりです。ただ、遊学に出てからは、それもほとんどできていません」
この世界が乙女ゲームだからなのか、豪華客船や汽車が存在しているのに、銃は存在していなかった。まあ、乙女ゲームの定番は、剣と魔法の世界だからかな。
「槍の訓練だけでは、完全ではないと思いますし、他の運動もされた方がいいと思いますが、それでも意味があると思います。槍の訓練はされた方がいいですよね。体型に変化が出れば、剣や弓の練習も、スムーズになると思います。ぜひ、食事をコントロールして、運動も心がけ、健康な体を取り戻してください」
「ありがとうございます!」
そこからは、フレデリックが本当は、自身の瞳と同じ、水色が好きであること。槍よりも弓が、得意だったこと。肉より魚料理が好きなこと――そんな話で盛り上がっていたが……。

























































