32:そんな……
「殿下。センディング第二王子殿下に、悪意はないと思います。ですがこれ以上、甘い物を食べ過ぎ、カロリーが高いものばかりを食べてはダメです。このままではご病気になってしまいます!」
私の言葉に、フレデリックはハッとする。瞬時にその顔から赤みが消え、真面目な表情へと変わっていく。
「それは……分かっています。でも……弟だけなのです。僕に気を配ってくれるのは」
「えっ……」
「父上は……国王陛下は、出産で母上が亡くなっているため、僕のことをあまり好きではないのだと思います。僕が成長すると、母上に似てきたからでしょう。避けられるようになりました。そして継母である現王妃殿下は……。僕のことが嫌いです。それは自身の息子であるセンディング……弟が、未来の国王になればいいのに――そう思っているからです。嫌って当然ですよね。血のつながらない息子より、自分が生んだ息子が可愛い。そんな中、他の弟妹達と違い、センディングだけが僕を気遣い、声をか」
「違います、殿下!」
もう、歯に衣着せぬで話すしかない。
デッキに着く前に、センディングの本心はフレデリックを貶めることだと明かしてしまった。
「まさか、そんな……」
「フレデリック王太子殿下は、砂糖を沢山食べることができ、豊かな体を示せば、自国の富を諸外国に示すことができる……そうセンディング第二王子殿下にアドバイスされたとおっしゃりましたよね?」
私の問いにフレデリックは力強く頷く。
「ではなぜ、センディング第二王子殿下は、あんなにスリムなのですか? 王太子だけがふくよかで、第二王子が痩せていては、おかしくないですか?」
これにはフレデリックは反論ができず、今にも泣き出しそうな顔になってしまった。本当に純粋な人なのだ。家族で唯一優しい弟であるセンディングを信じてしまったのね……。
でもレイのリサーチで、フレデリックは王太子教育で大変優秀な成績を修めていた。つまり頭のいい人だ。本当はセンディングの真意にも、気づいていたのでは? しかしフレデリックは優しい。それにどこかで信じたいという気持ちがあり、センディングの言うことを受け入れていた可能性もある。
なおかつ実際、母親が痩せており、出産にその体が耐えられなかったというのも、間違いではないだろう。きちんと食べないと命を失う――という恐怖は、フレデリックの中に、確かに植え付けられているのかもしれない。
こうして私は私でフレデリックの心中を慮り、フレデリックはフレデリックで考え込んでいるうちに、デッキに到着した。
「お嬢様!」
メイが駆け寄り、レイが場所取りしてくれたリクライニングチェアへと、案内してくれる。二つのリクライニングチェアを並べ、その間にサイドテーブルをセッティングし、紅茶とクッキーを用意してくれていた。
完璧だ。
レイとメイに目配せすると、二人は見張りについてくれる。私はフレデリックに声をかけ、リクライニングチェアに座るよう勧めた。
フレデリックは素直に腰をおろすと、大きなため息を一つつき、口を開く。
「ヴィクトリア公爵令嬢に言われたことを、よく考えてみました。……考えるまでもないことです。どこかで薄々分かっていたのですが、弟……センディングを信じたい気持ちがあったのだと思います」
とても苦しそうな顔をしており、申し訳ないことをしてしまったと思う。どうしても他人事と思えず、ズバリ指摘してしまった。だが完全に部外者である私が、出過ぎた真似をしたのではないかしら? そんな気持ちも生じたので、お詫びの言葉を口にした。すると……。
「なぜヴィクトリア公爵令嬢があやまるのでしょうか? 顔をあげてください。あなたが指摘するぐらい、僕の状況は……おかしな状態だったのだと思います」
「フレデリック王太子殿下……」
「それに確かにこのままでは病気になる。それは事実だと思います。侍医からも運動をすすめられていました。食事についても、メニューを改善することを提案されていたのです。侍医が強く言えないのは、私が王太子という立場だったからでしょう」
そこでフレデリック何かを決意したようで、唇を噛みしめ、真っすぐに私を見た。
お読みいただき、ありがとうございます!
ブックマが増えていました。
応援くださった読者様、いつもありがとうございます(涙)
千里の道も一歩から。
皆さんの温かい応援にこれからも頑張ります!


























































