31:はやる心を押さえ
朝食を終え、自室で身支度を整えていると、図書室で張り込んでくれていたレイが、部屋にやってきた。白シャツにラベンダー色のベストにズボンと、レイの銀髪に実に似合う装いであり、こうしているとホント、従者には見えない!
「お嬢様、図書室にフレデリック王太子殿下が来ました。護衛の近衛騎士達を連れていますが、第二王子はそばにいません。図書室とプールは近いので確認したところ、プールにいました、第二王子が。よって今がチャンスです」
「ありがとう、レイ! 私は図書室に向かうから、そのままプライベートプロムナードデッキで待っていてもらえる? 図書室ではおしゃべりは難しいだろうから、デッキへ移動するわ」
「了解です」と答えたレイと共に、部屋をでる。
今日はパステルピンクのツーピース・ドレスを着ていた。胸元にローズ色のシルクシフォンがふわふわと広がっている。スカートの裾には、ローズ色のシルクサテンが、切り替えで飾られていた。
少し早歩きで途中まで、レイと移動した。レイは右手の通路へ、私は左手の通路へ向かう。その後はその通路を道なりに進み、図書室へと急いだ。
図書室は、船の中とは思えない程、立派な造りをしている。天井は高く、その天井には見事な絵画が描かれていた。蔵書数も多く、ロマンス小説の最新刊も揃っている。
閲覧席も用意されていた。だが皆、貸し出しを受け、自室のバルコニーやデッキで寛いで読むと聞いているが……。
いた、フレデリック!
今日もセンディングのアドバイスのせいだろう。白シャツに、クリーム色のセットアップという、膨張色コーデになっている。まるでチーズケーキみたいで美味しそうだけど、そうではない!
はやる心を押さえ、フレデリックのいる閲覧席へ歩み寄り、声を掛ける。
「フレデリック王太子殿下、読書中すみません」
細かい文字がびっしりの、難解そうな本を読んでいたフレデリックは、まさかここで声を掛けられると思わなかったのだろう。一瞬、キョトンとした後に、私を見上げた。
「……ヴィクトリア公爵令嬢」
フレデリックのふっくらとした頬が、ぽうっと赤くなる。碧眼の瞳もキラキラとしていた。
なんて……ピュアな表情なのだろう。
「もしそちらの本、急ぎでお読みではなかったら、プライベートプロムナードデッキへ参りませんか? ずっとフレデリック王太子殿下とお話をしたかったのですが、なかなかその機会がなくて……」
私の言葉を聞いた瞬間、フレデリックの顔がぱあぁぁっと明るくなる。
なんだか、眩しい!
「デッキへ参りましょう! ぼ、僕もずっと、ヴィクトリア公爵令嬢と話したいと思っていました」
フレデリックは勢いよく立ち上がり、すぐに本を閉じ、それを護衛の近衛騎士に渡す。その騎士は、心得た感じで貸し出しカウンターへと向かう。一方のフレデリックは、私に手を差し出し、エスコートを始めた。
その手に触れると、もっちりとして、触れ心地が思いの他いい。よく見ると、爪は綺麗に切りそろえられている。今はウィンナーみたいな指だが、これが細っそりしていたら、女性のように美しい手なのではないか。
「ヴィクトリア公爵令嬢から、僕に声をかけていただけるとは思ってもいませんでした。……いつも弟と楽しそうに話されていたので、その……僕から話しかけるのは、申し訳ないと思っていたのです」
「そんなことありませんよ、フレデリック王太子殿下。何度も私、殿下に話しかけようと思っていました。でもそのチャンスがなかなかおとずれなくて……。センディング第二王子殿下とばかり、話したかったわけではないです。むしろここ数日、ずっと、フレデリック王太子殿下と話したいと思っていたのですよ」
「そ、そうだったのですか……!」
顔を真っ赤にし、碧眼の瞳をうるうるさせるフレデリック。こんな純真そうな彼に、私は酷なことを告げようとしている。これにはなんだか罪悪感を、覚えずにいられない。それでもこれは、ちゃんと伝えないといけない! フレデリックの健康のために!!
お読みいただき、ありがとうございます!
【完結のお知らせ】
一気読み派の読者様、お待たせいたしました!
『断罪終了後の悪役令嬢はもふもふを愛でる
~ざまぁするつもりはないのですが~』
https://ncode.syosetu.com/n2528ip/
断罪終了後に覚醒し、国外追放され、どこの国にも属さない通称“もふもふの森”へやって来た私。
悪役令嬢に転生したけど、一番キツイ断罪が終わった後なのだ。
大のもふもふ好きな私は、新天地でスローなライフを楽しみます!
と思っていたのですが……?
断罪終了後シリーズ第五弾は、久々のもふもふ癒し系!
もふもふの癒しだけではない
構成にも工夫をした作品です。
「あっ」という驚きと出会いたい読者様。
ページ下部のテキストリンクから遊びに来てくださいませ!


























































